2016年国勢調査で日本の人口を見てみると、人口が一番多い都道府県は東京都で約1351万人。日本の人口のおよそ1割が「東京都」に集まっていることになります。
地方の発展は日本経済の活性になくてはならないものです。しかし人口減少で働き手が少ない現状では厳しいことは明らかです。
経産省の伊藤参事官に、地方創生に必要な施策や解決策などについて、働き方改革の観点でお話しいただきました。
※地方創生とは第2次安倍内閣で掲げられた政策のことをいいます。東京一極集中を是正し、地方の活力を取り戻すために提案されたものです。
テレワークの活用と、リアルに人が地方に行く仕組みづくり
伊藤参事官に地方創生のカギとなる施策、注力すべき施策を聞くと「有効なのはテレワークではないでしょうか」と答えてくれました。実際、テレワークについて政府は環境整備を進めています。今後は時間と場所を選ばない働き方の重要度がますます強まっていくでしょう。
どこでも働けるのであれば、職場が都市部にある必要性はなくなってきます。テレワークで地方の企業で働くという選択肢が生まれるわけです。伊藤参事官はここで重要なこととして「ICT環境の推進と、テレワークをめぐる制度の整備」を挙げます。
厚労省では現在、テレワークについて検討をしていて、現行のガイドラインが改定される見込みです。
一方で、伊藤参事官は「実際に人が地方に行き、そこで働くことは大切」と言います。背景にあるのは、地方にある企業の深刻な人材不足です。
「地方が抱える人手不足は、成長の制約要因になっています。したがって地方創生のカギは、いかに人手不足を解消できるかと言えます。しかし口で言うのは簡単でも、実際に地方に住んでそこで働くことのハードルは高い。企業からしても、都市部から来た人にフルコミットの賃金を払うのは厳しい。なので、ひとつのやり方として週に1?3回地方にある企業で副業をするというやり方が有効ではないかと思っています」
都市部の企業に勤めながら地方に関わる3つのモデルケース
それでは、伊藤参事官が述べる「週に1?3回地方にある企業で副業をする」という方法について働き手のモデルケースを考えてみます。
1.都市部で地方の仕事を副業として行う
都市部に在住の社会人にとって、地方企業に関わるハードルが比較的低いのがこちらの例です。平日の日中は勤務先での本業に集中しながら、副業として就業後の時間や土日の時間を使って地方の仕事を行います。
その際にこれから魅力的な地方の企業・プロジェクトを見つけたいという人は、「FAAVO」のような地域・地方との繋がりを生み出すプラットフォームを活用するのも有効です。
参考:本業 + 3つの副業!活躍の場所を広げ、心豊かに生きる ── 株式会社サーチフィールド
https://fledge.jp/article/searchfield-2
2.週末だけ地方のプロジェクトに関わる例
実際に現地へ足を運び、現地の人たちと対面で仕事を進めていきたいという人の関わり方がこちらの例です。
すぐにそこまで本格的に地方の仕事を始めるわけではないという人にとっても、週末の時間を使って小さく地方の仕事を副業として始めれば、本業への支障もなく気軽に始めることができます。
参考:「仕事がないから地元へ帰れない」をなくしたい。栃木県出身の私が独立するまでにやったこと ── 鈴木彩華
https://fledge.jp/article/suzuki-ayaka
3.完全なデュアルライフ
都市部での仕事、地方での仕事、その両方の可能性を追求していきたい人がこちらの例です。現在勤めている勤務先の調整が必須にはなりますが、都市部、地方、それぞれに拠点を構え、双方を往復しながら生活することによって生まれる相乗効果は計り知れません。
もちろん現実的には、拠点間の往復に伴う交通費や時間的なコストなど検討すべき事項はありますので、まずはすでにデュアルライフを実践している先駆者に話を聞いてみるところから始めるのがコツかも知れません。
参考:あなたもあと少しで手が届く?! デュアルライフという生活スタイル
https://fledge.jp/article/dual-life
都市部と地方企業における賃金格差
続いては、都市部と地方企業における賃金格差についてデータで考察してみます。厚労省が発表した2017年10月1日発効の最低賃金を見ると、最高額は東京都の958円。しかし人口が全国最低の鳥取県では738円。東京都との差は220円に上ります。
また、労働統計要覧で2015年の平均給与額を見ると、東京都は約406万円。しかし、鳥取県では約282万円まで下がります。ちなみに全国平均は約313万円でした。
(→労働統計要覧については、エクセルデータを添付します)
積極的なICT化によって働く人を呼び込む
今度は、地方創生に成功したケースについても触れていきます。徳島県の山間部に位置する神山町では、全域に光ファイバーを敷設しICTインフラを整備しました。IT系企業がサテライトオフィスを展開するなどして活気を見せており、オフィス開設や運営費用の補助も行なっています。「徳島県神山町モデル」として有名なケースです。
また、鳥取県東南部にある八頭町(やづちょう)のケースもあります。「八頭イノベーションプロジェクト」を掲げ、閉校した小学校をIT関連企業やデザイン企業などのサテライトオフィスとして活用する取り組みを行ないました。
成功例を挙げましたが、実際のところどのようにして人を地方に集めればいいのでしょうか。解決策のひとつとして伊藤参事官は「都市部の大企業で、経営全般を見る立場の幹部となっていない人」に目を向けています。
日本商工会議所が2017年に発表した「人手不足等への対応に関する調査」によると、中小企業が必要とする人材のトップが、「即戦力となる中堅層、専門家」(62.0%)でした。
一方で働く人側の考えはどうでしょうか。日本人材機構が2016年に発表した「首都圏管理職の就業意識調査」によると、経営幹部候補の選抜から漏れた東京都勤務の管理職の75%が「活躍の場を求めている」と答えています。
都市部の大企業などから地方の中小企業へ兼業・副業を通じた人材移動の実現の可能性はありそうですね。
地域に合わせた対策を考えることが大切
東京一極集中の改善が叫ばれることがありますが、東京に人が集まるのには、交通インフラや雇用など様々な理由があります。最後に、伊藤参事官は「無理やり人を地方に分散させるのは解決策ではない」と言い、次のように続けました。
「ここへ来てくださいと呼びかけるだけではもちろんダメで、ICTインフラを整備したり、企業を誘致したりするなど、住んだり働いたりしたいと思わせる工夫は必要です。地域に合わせた対応を考えることが大切でしょう」
多くの人の移動を促すのは容易ではありませんが、まずは働き方が柔軟になり、地方の企業で働くという選択が当たり前になることが、地方創生の第一歩ではないでしょうか。
経済産業省 産業人材政策担当参事官
伊藤 禎則(いとう さだのり)
1994年通産省(当時)入省。東京大学法学部卒、米国コロンビア大学ロースクール修士、NY州弁護士。これまで日米通商交渉、エネルギー政策、成長戦略等を担当。2015年10月より現職にて、働き方改革、副業・兼業促進、IT人材育成、経営人材育成など人材・労働関係政策を広く担当。