自然食品に強い高級スーパーの米ホールフーズ・マーケットを、米アマゾン・ドット・コムが総額137億ドル(約1兆5000億円)で買収する。背景には、健康志向の高まりから、付加価値が高い有機食品の購入者が増えていることが挙げられる。日本の流通業者もこの分野の開拓に真剣に取り組みたい。
ホールフーズは1978年に創業。有機農産物など自然派の野菜や加工食品を扱うことで業績を伸ばしてきた。価格は高くても健康に良い食品を求める人々が主な客層だ。
しかし近年はウォルマートなど他の流通大手も有機食品市場の可能性に気づき相次ぎ参入し、手の届きやすい価格で商品を提供し始めた。その結果、先行したホールフーズの業績は伸び悩んでいた。
今後は培ったブランド力や商品調達力を生かしつつ、アマゾンのIT(情報技術)も活用し、若い世代を中心に有機野菜などを売り込んでいくとみられる。健康志向な現代の若者に対し、付加価値の高い商品を手軽に買えるようにするのは理にかなった戦略だ。
日本でも化粧品分野では、有機素材などを使った自然派商品の愛用者が増えており、価格は高めだが市場の伸び率は年6%程度と、化粧品市場全体の約2倍。けん引役は外資系ブランド。
しかし食品分野では有機商品の普及度はまだ低い。米国では3.2兆円、ドイツでは1兆円、フランスでは5700億円の有機食品市場があり、年率6%から8%で拡大。それに対し、日本の市場規模は1300億円前後だ。
日本でも健康に配慮した食品に対する消費者の関心は高い。
伸び悩む背景として、
・消費者から価格が高い
・身近に店がない
・店の雰囲気が入りにくい
…といった指摘がある。流通業界の工夫次第で、市場が拡大する可能性は大いにある。
イオンは有機食品のプライベートブランドを立ち上げたほか、フランスの企業と提携し昨年、専門スーパーを開いた。日本生活協同組合連合会は今年、有機栽培した食品や環境保護に配慮した雑貨などをエシカル(倫理的)商品として売り込んでいく計画だ。
こうした取り組みが実を結べば、安値競争とは異なる成長の道が開ける。今の新規就農者は有機農法や無農薬栽培への関心が高いという調査結果もある。
有機食品市場の拡大は、農業の振興や地方創生にもつながるのではないか。