兵庫中東部に位置する山間部の町、丹波篠山(ささやま)市は、かつて旧丹波国として栄えていた歴史を持ち、京文化を彷彿とさせる美しい街並みが残る町です。深刻な過疎化が進み空き家が増加するこの町の活性化を目指し、古民家を活用して宿泊事業をスタートした株式会社NOTE(ノオト)。今回は前回に引き続き、代表取締役、藤原岳史さんに、古民家再生によるまちづくりについてお話をうかがいました。
補助金に頼らず、事業として持続できる仕組みを
藤原さんが仕掛ける古民家再生によるまちづくり。この事業を推進するうえで、必ず必要になるのが雇用です。「旅館に必要な人たちをどのように採用したらいいか考えたとき、町から出て、大阪や東京などの都会で働いている町の出身者が有力になります。しかし、地元に戻ってきてほしいとお願いしても、そう簡単に戻ってくるはずはありません。戻ってきてもらうためには、都会で働くよりも魅力的な経済的なベネフィットの提示が必要になります。」
地元に戻れば、都会と比べて家賃や生活費のコストが下がり、手取り収入も残ります。地元で暮らしたほうが、お小遣いが貯まるし、時々、都会に遊びに行くこともできます。たしかにこれはベネフィットではありますが、それだけの理由では不十分かもしれません。
藤原さんは続けます。「多くのNPOやまちづくり会社は地方行政からの補助金を頼りに活動していますが、それらが切れたら終わりですよね。だから、行政サービスに頼りきりの事業は事業とは呼べないと思っています。それよりも、ここでやっている仕事がカッコいい、やってみたいと思ってもらうことが大切です。地方創生という大きな枠組みの中では、事業としての魅力が大きな吸引力となりますし、それを見せてこそ人は戻ってきます。だから、私は、若い人たちがわざわざこの町に来て就職したいと思えるような市場や会社をつくりたいのです。」
400年の歴史をもつ酒造場をリノベ―ト、複合商業施設をオープン
藤原さんが携わった大きなプロジェクトのひとつが、2013年、兵庫県朝来(あさご)市に、自治体が所有していた創業400年の歴史を持つ旧木村酒蔵場をリノベートしてオープンした「竹田城 城下町ホテル EN」です。広大な敷地をフル活用する必要があったため、プロパティ・マネジメントと同様の考え方でプロジェクトを進め、大きなショッピングセンターをどうやってつくり、どうテナントエリアを仕切っていくか、勉強と並行しながらだったといいます。
ギャラリー、フレンチレストラン、カフェ、ショップ、マルシェ、ホテルなどを併設し、人と人が行き交う「複合商業施設」となり、竹田城の歴史を紹介する資料展示室も併設しました。
民間から資金調達~空き家が町をデザインしていく
また、集落丸山の成功を受けて手がけたプロジェクトに、「篠山城下町エリア」があります。民間から資金調達し、REVIC(地域経済活性化支援機構)のファンドも使うこともできました。驚くべきことに補助金はほぼ使っていないのだといいます。「その頃、古民家投資案件が増えたことから、政治家の間でも注目されて視察が増えてきたのです。視察に来た官房長官に訴えたことで、旅館業法、建築基準法、文化財保護法も見直されることになりました。このプロジェクトがモデルケースとして広がれば、古民家や歴史的な建物が残り、大きな市場が形成されます。つまり、空き家が、町や経済をデザインしていくことになるのです。」
丹波篠山 河原町妻入商家群
藤原さんは「暮らしと文化はひとつの言葉」を哲学として掲げています。これは、生活の中にある文化をしっかりと紡いでいくことを指します。
「懐かしくて、新しいことが重要です。つまり、村や町が進化し、変容しながらも続いていくことが大切なのです。都市部一極集中だと集落は壊死しますが、異文化と融合した暮らしができていけば経済が循環します。地方に血液を送り込むことができると思っています。」
「旅行者は立ち去るものだから、その町に移住してくれた人が重要」と考えがちですが、もし新たな旅行者が絶え間なく訪れてくれるなら、彼らが町の血液となってくれる」と、藤原さんは続けます。地方に血を通わせることで、人が行き交い始めれば、当然交流が生まれます。宿泊客は毎日変化しても、交流人口は増えていくのです。
「何千年もこの町を残すのは難しいかもしれませんが、せめて100年後につないでいけば、また次の世代にそれを託してくれるかもしれません。」
懐かしくて、あたらしい日本の暮らしをつくるため、藤原さんとNOTEの挑戦はこれからも続いていくことでしょう。