日本人材機構で働きはじめてから半常駐というかたちで地域企業のお手伝いをしている佐藤祐司氏。地域企業の発展への足掛かりを築くには、専門的な知識やテクニックが必要なことももちろんありますが、「社内外への企画提案、チームマネジメントなど、ビジネスパーソンとして日頃の業務で一生懸命にこなしてきたごく普通の経験が、結局いちばん役に立つと感じています」と話します。
今回は、その経験を地域企業にどう取り入れていくのかについて語っていただきました。
外部からの人材をどう取り入れるか
地域企業のオーナー経営者をみていると、つい先ほどまで顧客へのトップセールスで外出していたかと思えば、今度は新商品の開発会議で自分が納得するまでとことん企画に携わり、自分の席に戻っては数値計画を自らつくってというようにいつも動きまわっています。大企業では経営管理、経営企画といった本社機能を担う部署がありますが、地域企業では、経営、企画、営業、人事、管理と幅広い機能をオーナー自らが担っているのです。
ただ、やはりオーナーひとりでそれらすべてを担うには負担が大きく、地域企業の発展において人材の補完は重要な選択肢のひとつです。ではなぜ、外部からの人材雇用が進まないのか?これを進めるためには多くの問いをクリアしていく必要があるのです。
●どの機能の人材が不足しているのか
●どのような人材が市場にいるのか
●どこに相談すればよいのか
●給与、待遇はどうするか
●人件費をどう捻出するか
●既存社員と確執は生じまいか
外からの力が大きなエンジンとなることを認識しつつも、これらの問いのどこかで立ち止まり、後継者不足はもちろん専門機能を担う人材が地域企業で慢性的に不足している状態にあるのです。
地域企業のこのような問いにすべて応えるのはなかなか難しいですが、ひとつの方法として私たちは半常駐での支援を提案しています。たとえば私が月に数日間お伺いしてオーナーの相談に乗り、社員の方々と一緒に手を動かす。こういった関わりが、その後の本格的な外部人材の受け入れのための素地づくりにつながるのではないかと考えています。
後継者が戻ることも大きなチャンス
外からの力としてもうひとつ忘れてはならないのは、大企業での修練や他社への丁稚奉公から戻ってくる後継者です。まずは会社の内情を把握しつつ自分が何をすべきかを考えたり、今後どのような会社にしていきたいか想いを整理したり、事業承継に向けてやるべきことはいくらでもあります。
オーナーも常にこのようなことを考えながら会社を経営していることと思いますが、長年に渡り新鮮な気持ちを持ち続けることはとても難しいことです。一方で、後継者はまさにフレッシュな想いで取り組んで行くため、企業にとっては変化をもたらす大きなチャンスとなります。
私たちはこの機会をとらえ、オーナーの右腕としての支援だけでなく、後継者のサポートを行っています。一緒になってさまざまなことに取り組んでいく中で、後継者であるが故の熱意と行動力が大きな追い風となるのを目の当たりにしています。
地域企業の課題に応える人材補完
私は、地域企業で動きを生むには、売上の増加などわかり易いところに変化を起こすことが最も良いかたちと考えています。たとえば、戻って間もない後継者がいる企業でのこと。私たちがかかわりを持つまでは、後継者は大企業での勤務経験を生かして経営管理の強化に力を入れていました。これに対して私たちは、後継者は事業承継に向けて会社の顔となっていく必要があるため、営業面に積極的にかかわり売上の増加に向けてまい進することが良いと考えその旨を進言。一方で、管理面で後継者をサポートする人材の補完を提案し、採用して頂いたケースがあります。
このように私たちは、地域企業がそれぞれに抱える課題をお伺いしながら、それに応える人材の観点からのご提案をすることを意識しています。ビジネスパーソンとして行ってきた社内外への企画提案の経験が生きる場面です。他にもご提案の一部をご紹介すると、
●販売促進を共に進めるパートナーとの連携
●社内情報の見える化に向けシステム導入をサポートする人材の補完
●専門人材のネットワークを持つ人材エージェントの活用
●オーナーファミリーのコミュニケーション構築を支援する専門家の招聘
●弊社人員の人脈を通じた得意先の紹介
まだ実現できていないものもありますが、ひとつの企業に対してひとり、二人と関わる人員が増えた場合には、互いに補完し合うことで、できることに広がりが生まれていくのを感じています。
すべてを担うオーナーの体制から、ある程度会社組織として、社員が得意分野を活かして会社を大きくしていく場面では、できるだけ色々な視点をもった人が意見を持ち寄るのがいいのではないかと考えています。
それぞれの得意分野を活かし、「人材」から「人財」へ
地域企業への支援を通じて強く感じるのは、長きにわたりその企業に染み付いたものごとに対し、変化を起こすことの難しさです。オーナーや後継者が変革に取り組もうとしても、それを社員の方々にもしっかりと伝え、一緒に動いてもらうことができなければ変化は起こりません。
この社員の方々の知見を、十分に社内で生かすことができていないことがよくあります。たとえば複数の生産拠点を持つ会社で、ひとつの拠点に在庫管理における効率的な運用ノウハウをもつ人材がいるのに、他の拠点ではこれを生かすことができていないということがありました。せっかくいい知見があるのに、十分に生かしきれていない点にもったいなさを感じ、ノウハウの共有を進めました。これは、ビジネスパーソンとして行ってきたチームマネジメントの経験に加え、外からの視点ならではの気付きかもしれません。既存の会社の枠組みの中にいると、なかなか自社の強みに気付かないことがあるものです。
このように、新たな視点で社員個々の特性をみきわめることが、社員との信頼構築はもとより、経営資源である「人材」を「人財」に転化させる原動力にもなるのです。
人材のモチベーションにつながる仕組み
地域企業は外からの力を必要としており、ビジネスパーソンの日頃の経験を生かすことのできる場面は、これまで述べてきたところ以外にもいくらでもあります。とはいえ、地域企業とビジネスパーソンを結び付ける仕組みはあまり無いのが現状です。たとえば、私が行う半常駐でのお手伝いを副業として行おうという人材がいたとしても、このような個人からの提案が地域企業に受け入れられることは現実的にはなかなか難しいと思います。
また、ビジネスパーソンの地域企業への興味はまだまだこれから高まっていくという段階にあるため、これを引き出すためのモチベーションにつながる仕組みを設計する必要性も感じています。たとえば、売上の増加が目的の場合には、獲得した売上に連動した報酬体系を設定する。さらには、ジョイントベンチャーを設立するなど、人材側もリスクを負うと同時にインセンティブを得ることのできる設計も、発展的にはあり得ると思います。
まずは、私たち日本人材機構がこの部分を手掛けていきますが、同じような取り組みを民間の人材紹介会社やコンサルティング会社、地域の金融機関などが担うようになっていけばと思っています。