コンサルでもアウトソーシングでもない、地方企業の新たな人事力強化戦略
加藤 晶子
2018/05/28 (月) - 08:00

日本人材機構では、地域の企業に対して、人材紹介・人材育成・組織づくり・ビジネスマッチングなど、様々な支援を行っています。なかでも、最近取り組み始めた地域企業の人事部そのものに入っていく支援は、地方創生のカギとなる可能性を秘めた取り組みです。今回は、実際に、非常勤の経営支援ポジションで組織づくり支援を行っている田蔵大地氏、非常勤人事部長として地方企業への具体的な支援を行っている、木暮良徳氏に話を聞きました。

地方企業に必要な経営を支える人事機能

―地方企業の人事における大きな課題は何であるとお考えですか

田蔵大地氏(以下、田蔵):地方企業をお伺いさせて頂くと、経営者の方々がいま最も訴える課題は、優秀な人材の確保です。私は元々Jリーグチームの経営に関わっていたこともあり、サッカーに例えて物事を表現することが多いのですが、現状の人材マーケットにおける「東京」と「地方」との関係は、J1(一部リーグ)とJ2(二部リーグ)の関係に似ています。Jリーグの世界では、一般的に優れた選手はJ1に引っ張られ、相対的に給与水準の低いJ2では、選手の確保に苦労する。だからといって、J2チームがJ1チームに、小さな地方クラブが都会のビッククラブに勝てないかといえばそうではありません。その鍵を握るのは誰か。もちろん、選手や監督の力が大きいのですが、実は強化部長やゼネラルマネージャーの力が小さくありません。彼らは、チームコンセプトから組織設計、有望選手のスカウティングや選手獲得、及び若手選手の育成なども含めて、広い視点からチームづくりを求められます。そのポジションと役割は、一般企業ではどうなるのか、それは人事部長やCHRO(最高人事責任者)に当たると考えています。 ただ、中小企業が圧倒的に多い地方を見渡すと、肩書きとしての人事部長は存在しても、その実態は、経理兼務、総務兼務、社長兼務など、兼務が多く、専門性において真の人事部長を担っていないのも実情かと思います。

木暮良徳氏(以下、木暮):我々が考える本来の人事の役割は、経営者の思いを汲み取り、経営と現場の橋渡し役として、経営課題を組織・人軸から解決すること。田蔵の話にもありましたが、中小企業では人事部がなく、社長または役員が人事機能を兼務していることが多いのが実情です。中小企業の経営層は、大企業であれば管理部門が担う機能も含め、一人何役もこなしています。そのため、経営の方針や課題に対し、組織の隅々まで見たうえで、組織・人の課題発掘や対策立案を行う強化部長のような機能が十分に発揮されていないことがほとんどです。

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このような背景から、二次的な課題として組織がいびつになるケースも多く見受けられます。

例えば、40代以上の方はある程度いるのですが、20代後半から30代がポコッといなくなり、40歳代の部課長さんに「あなたの右腕は?」と聞くと、「いません」となるか、1年目・2年目の方が挙がるようなケースが多々あります。こうした組織のいびつさに気づいてから採用を始めるのですが、採用や育成に時間がかかって、事業の必要なときに育っていない、もしくは、タイムリーな対応ができず、機会損失が生じてしまう。 このタイミングで中途採用出来たとしても、強化部長のような機能がなく、採用した人に任せっきりとなり、課題がなかなか解決しない。これは地方に限らず、中小企業全体でよくある問題なんです。

―全体的に経営視点で変えていかないと数年後にまた同じ問題が組織で起こる、というようなことになりますね。

田蔵:だからこそ、社員という形ではなく、外部から社外人事のような形で入ることが重要な意味を持つのだと思っています。経営者は誰かに人事や組織の課題を相談したいと思っている反面、人事部長を中途採用することに、アレルギーがあります。更に、地方の中小企業は、新卒採用しか行っていない企業が多く、中途採用の経験値も低い上、大企業と違って、一人の社員が会社に与える影響も大きいので、採用を間違えると組織を壊すことになりかねない。だからこそ、経営者は慎重になってしまうんですよね。そこをどう柔軟に考えていただくかが鍵だと思っています。

―いままで、経営者の方はどのように解決しようと取り組まれてきたのでしょうか

田蔵:人事制度に問題があると考えて、外部のコンサルタントの力を借りて、人事制度をつくり直したり、または社員のモチベーションを高めるための研修を行ったり、色々と取り組まれています。ただ、スポットで色々な事を行っても、経営視点での中長期の計画がないことが多いので、効果は限定的だと感じています。

木暮:外部コンサルタントによるスポット支援では、正論ではあっても現場理解や経営環境の理解が不十分であるなど、運用を意識した設計になっておらず、高いお金をかけても意図した成果につながらなかったケースを多々見てきました。また、経営者側からすると、人事ってトラブルがあるとか、喫緊の課題があればそこに人材を張る、というモチベーションはありますが、能力も高く給料も高い人事部長をおいておくような余裕もなく、致し方ないところもあると思っています。

本当は、組織・人の理解を前提として、日々変化する経営環境と現場の状況に寄り添い、課題の発見や対策の立案・実行を行い、さらに適宜運用を最適化する機能が必要だと思います。その役割を内部に配置出来ない場合、我々の行っているような伴走型の人事組織支援サービス、非常勤人事部長および非常勤CHROが必要だと考えています。

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中小企業での新たな取り組み

―具体的に、中小企業で行っている非常勤人事部長とはどのようなものでしょうか

木暮:週1~2回、定期的に企業に訪問しています。やっていることは本当にたくさんあるのですが、たとえば、就業規則をつくったり、状況を把握しながら組織設計をしたりしています。人事制度を聞いていくと、現状の課題や事業展開と、評価内容にギャップがあるんですよね。評価制度も、外部から見ると評価しづらいと思うようなややこしい制度になっている。評価するのは部門長クラスの方々ですが、プレイングでやっているのに、評価をする時間が取れるのかという疑問もありました。それを丸ごと変えていこうと思っています。

中小企業の多くが、計画的な人材育成が行われず、足りないところに適宜人材を配置しているような傾向があります。本来は、計画的な育成とそれに則った異動や研修により経験や知識を積むという考え方が理想なのですが、現場を考えると難しいです。効率よく人を配置するための補完的な機能も担っていますね。

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アウトソーシングを超えた人事機能の役割とは

―人事の機能を外部人材が担うことで、どのような効果があるのでしょうか

木暮:中小企業の方が勘と経験だけで判断していることって、教科書的にいえば「NO」ですが、一定の成果を出していることも多々あります。経営者が言葉にできないだけで、そこにはロジックがあるので、それをくみ取って言語化し、運用にのせるのが、人事部や我々の役割だと思っています。

―人事機能のアウトソーシングを超えた役割ですね

田蔵:アウトソーシングではないですね。人事機能の補完に近いイメージです。人事部の機能を私たちが入っていき引き上げることと、できる社員を育てていくことも必要だと思っています。その為にはコーチのような役割を担える外部人材の育成も行っていく必要があります。

木暮:本来であれば、中小企業が必要なときに必要な人事機能を活用できるのが理想です。スポットで突然出てくるような人事コンサルではなくて、その企業と長いお付き合いをするなかで、適宜必要なときに出ていくことができる、というような関係性がベストだと思っています。 従業員のモチベーションが上がらない、定着率が悪い、といった課題は複合的な要因によって発生しています。経営者に聞く、または従業員にヒアリングをして課題解決を図ろうとしても、本質的な課題を見落としがちで、過去の経緯から経営・組織・人を長期的に見てきた人間が人事制度もつくっていたほうがいい。企業と長くお付き合いすることで、適切なアドバイスができます。

田蔵:経営における人事や組織に関する課題解決のPM(プロジェクトマネージャー)みたいな感じですね。

木暮:いわゆる社労士や弁護士の顧問と比べるとちょっとイメージが違っていて、もっと組織をつくるところの上流に深く入っていきます。

田蔵:誤解して頂きたくないのは、外部コンサルが必要ではないといっているのではなく、コンサルの使い方を分からないまま活用していることが問題であるということです。私たちが間に入ることによってどういったコンサルを使ったらいいかを見極めて、経営者をサポートできればと考えています。

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全国展開をみすえた人事組織支援の仕組みづくり

―これから、非常勤人事部長の仕組みを拡大していくんですよね

田蔵:はい。ただ、これまでの私達の取り組みは、単一組織、単一企業に入ることが多く、効果も限定的でした。その効果を最大化する為、地域やコミュニティ、産業組織などの単位で人事部機能を強化する中でレバレッジを効かせる事も大切だと考えています。村の人事部、島の人事部、街の人事部、リゾートの人事部、温泉街の人事部、業界の人事部など、新しい人事組織サービスを作る取り組みも始めています。

―どういう人材を育てたいですか?

木暮:人事の経験があったほうがベターですが、組織のマネジメントの経験があれば、十分です。後でアドオンできます。採用する組織の今後の発展と、ソフト面も含めてどういう人材が適切なのかを判断できる人でなければいけません。組織と人の診立てが出来る方。また、柔軟さみたいなものは必要だと思います。

―現状では足りない人材を、今後どう育成していくのでしょうか

田蔵:個人的な考えですが、最終的には人事の国家資格のようなものを作れたらと思っています。たとえば、弁護士は法律という専門ポジション、税理士や会計士は経理財務の専門ポジションがありますが、人事にはないんですね。国家資格のような存在により、経営と人事組織の専門性を兼ね備えた人材が輩出され、同時に、その人材に社会的価値が付加される。結果、地位や給与も上がり、優秀な人材が集まってくる。これは私がJリーグ時代に経験した、選手・指導者・経営者の育成事業と基本的に同じ考え方です。

また、事業としては、資格制度や育成プログラムを通じて育成した人材を、前述の非常勤人事部長や非常勤CHROとして、全国に流通させる仕組みができればと考えています。この仕組みは企業にとってもプラスですが、働く側から見ても、一社のみのフルタイム雇用とは違い、複数企業とお付き合いができ、様々な企業の人事に関わりながら、地域産業の活性化に貢献できるというメリットもあります。興味がある方には是非ジョインして頂きたいと考えています。

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