パワーハラスメント(パワハラ)は、多くは職場での地位が高い上司がその立場を利用し、部下に精神的または身体的な苦痛を与えることとして認識されることが多いようです。しかし、最近では部下から上司への「逆パワハラ」が増えつつあるといわれています。逆パワハラの現状と、起こった際とるべき対応について考えます。
逆パワハラの現状
パワハラの定義としては「職務上の地位や人間関係など職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為」とされています。すなわち、職務上の地位に限った話ではないため、部下の側が別の「優位性」をもっている場合、逆パワハラが成立してしまうことがあるわけです。
筆者が相談を受けたケースで、逆パワハラが行われている例をいくつかご紹介します。
1.部下が上司を馬鹿にする
部下世代は上司世代に比べ、IT(PC)スキルが高いことがあります。上司の指示に対し、「こんな資料を送ってくるなんてありえない。内容を把握しづらい。上司としてどうなのか。もっとわかりやすい資料につくり変えてくれなければ、仕事はできない」などと要求し、頼むはずだった仕事がはかどらないというケースがあります。
上司はITスキルが部下よりも低いことで悩んでいましたが、それを自身の直属の上司に相談すると「自身のマネジメントスキルがない」と評価が下がることを恐れ、自身で抱え込んでしまっていました。
2.親睦飲み会の参加をパワハラといわれる
親睦のための部署飲み会を定時後に企画したところ、パワハラだと人事部に連絡された 新任の上司が、部署のメンバーとのコミュニケーション活性化を目的に親睦飲み会を企画し、通常の業務もあるので定時後に一度やりたいので希望を聞きたいと部下に伝えたところ、「定時後に上司との飲み会を強要されるのですか、それはパワハラですよね。人事部に連絡します」といわれてしまったケースがあります。実際にこの部下から人事部に申告があり、「これって部下からの嫌がらせですよね」とこぼす上司でした。
3.部署の部下全員で、上司を無視する
ある部署では、人事異動で新しい上司が配属になりました。以前の上司は部下からの信頼も厚かったこともあり、部下たちは上司が変わることをよく思っていません。
新しく異動した上司は部下と積極的にかかわろうと、雑談を交え話しかけていましたが、部下たちは示し合わせたように上司のことを無視。何かあるたびに「前の上司がよかった。今の上司はうっとうしいし、雑談ばかりしてきて迷惑」などと他部署のスタッフに吹聴しています。
いかがでしょうか。具体的な事例を見ると案外逆パワハラが皆さんの周りでも起こりうることが分かるのではないでしょうか。
なぜ「逆パワハラ」現象が起こるのか
1の事例のように、部下のほうがある特定の分野に関しては専門的な知識や技術、情報を持っている=「優位性がある」ケースは、今後も増えるかもしれません。特にITの分野は、物心ついたころから携帯電話やタブレット端末等が身近にある世代が社会に出るようになり、上司世代のキャッチアップが追い付かないという悩みを筆者もよく耳にします。
2のような事例も、企業が以前に比べ「ハラスメント研修」などを充実させるようになったこともあり、「パワハラだ」と声を上げやすい環境が良くも悪くもできていたゆえに増えている印象です。立場が下であることを逆手に取り、とにかく声を上げたもの勝ち、とばかりに権利ばかり過剰に主張する傾向もないとはいえません。
また、上司:部下の1対1であれば立場は上司>部下であっても、部下がほかのメンバーも巻き込み、上司1:部下複数名と数の力で逆転してしまう3のようなケースも深刻です。
逆パワハラへの対処法
上司の皆さんが、上記のような逆パワハラの被害者になることも今後十分考えられます。その際に自分の立場を保身するあまり泣き寝入りしたり、自分一人で悩みを抱え込んだりしないように、対処法を抑えておく必要があります。
マネジメントの問題として、必要な指導を行う
たとえPCスキルは部下のほうが高くとも、それを理由に上司からの仕事の指示に従わないということは、企業の服務規則(組織の構成員として守るべき、労働義務のルール)に違反していることになります。もちろん上司の側も、最先端の知識やスキルを身に着ける努力は怠らない必要がありますが、部下が違反していることに関しては上司として毅然とした態度で指導する必要があります。
逆パワハラの証拠を残し、上司や外部窓口へ相談する
逆パワハラを受けているなんてみっともないから相談できないと考える必要はありません。通常のパワハラと同じく、証拠はできるだけ残すようにしましょう。メール等の履歴や必要に応じて音声の録音(言葉の暴力などの場合)も有効になるでしょう。また、労働基準監督署、弁護士、労働組合など外部の窓口もたくさんありますので、上司や人事部等に相談しても解決が難しそうであれば活用してみましょう。