一回目には金融と向き言うことで、地域の有様も変わっていくこと、行政、民間双方が取り組む地域事業の仕組みも変化させられることを解説しました。
さて、今回は地域事業において近年注目されている、インターネットを活用した資金調達について取り上げます。新たな事業計画をインターネット上で発表し、それに賛同する人、投資したいという人、融資したいという人をマッチングしてくれる仕組みが多数あります。クラウドファンディングと言われるこれらの仕組みは急速に成長を遂げています。
そこで、地域事業におけるクラウドファンディングの利点と共に、実際に活用する前に注意すべき点を整理したいと思います。
拡大するクラウドファンディング市場
矢野経済研究所によると、2014年度には221億円だったクラウドファンディング市場は、2018年には2044億円市場にまで拡大することが見込まれています。爆発的な成長を果たしており、地域事業においても様々なカタチでクラウドファンディングを通じた資金調達をしている事業が見られるようになりました。
2017年度のクラウドファンディングの構成比をみると、購入型が約100億円、寄付型は約7億円、ファンド型約50億円、貸付型約1,534億円、株式型が約9億円となっています。実は、クラウドファンディングで最もシェアが大きく、全体の9割を締め、クラウドファンディング市場全体の成長を牽引しているのは、貸付型、いわゆるソーシャルレンディングと言われる分野であったりします。ソーシャルレンディングによる資金調達は地方における不動産開発、太陽光発電、風力発電などにも多く活用されており、従来の金融機関融資などとは異なる資金の流れとなっています。
地域における小さなサービス開発でもよく見られるのは、サービス購入型と寄付型です。地域に新たな宿泊施設を作る場合に、宿泊券を事前販売したり、これから小さな工場を作るといった場合に、完成した際の生産される商品を事前販売したりと、前売り形式でのサービス購入型はよく見られます。さらに見返りはなく、単にその地域に寄付してもらうための仕組みとしての寄付型です。
クラウドファンディングサイト・Ready forを活用した「千葉における元薬草園を改修して日本初のボタニカルブランデー蒸留所を作る!」プロジェクトは16,916,000円を調達することに成功して話題になりました。
しかし、これらのサービス購入型・寄付型は、最近ではふるさと納税の仕組みを自治体が活用し、地元企業などと連動している場合も多くみられます。ただし、ふるさと納税の場合には、サービスの正当な対価としてというよりは、節税目的での利用も大きいため、中長期で地方において魅力的なサービスを成長させる上では不適切な場合もあるので要注意です。
ともあれ、地方事業の資金調達手段が多様化していく流れが着実に起きています。
クラウドファンディングと支援政策の連動
クラウドファンディングサービス各社は全国各地の金融機関とも連携し、初期の資金調達をクラウドファンディングで行いながら、銀行からの融資なども組み合わせて地方におけるスタートアップを支援する試みなども始まっています。
さらに、国土交通省所管の政府系金融機関である一般財団法人民間都市開発推進機構では、地方におけるクラウドファンディング活用を推進する際の費用面での支援を開始しています。例えば、京都における町家保全のためにミュージックセキュリティーズと共に、京都市の公益財団法人京都市景観・まちづくりセンターが、京町家を活用した宿をつくる事業者向けに支援を行っています。
このように単にクラウドファンディング市場が拡大するだけでなく、従来は銀行だけで行っていた地域の小さな事業向け金融支援が多様化したり、補助金・交付金だけで対応していた地域の歴史資産なども事業資産化する際の資金調達をサポートするように、変化し始めていると言えます。
クラウドファンディングを始めるその前にするべきこと
このように成長するクラウドファンディングですが、少し地域事業で活用する際にはいくつかの注意点があります。それを意識しなければ、資金調達に失敗したり、もしくは資金調達したのに実行できないというトラブルに発展したりすることになってしまいます。クラウドファンディングを始める前に必要な3つのポイントを整理します。
1つ目は、足りないお金を集める、という意識では駄目。
この人口縮小社会でも手堅く発展させる地域事業を作るためには、最初に客付けをして事業開発することが不可欠になります。そのためには、思いつきの事業プランではなく、しっかりと損益分岐を意識して、客単価はいくらで、何人のお客さんを集めれば黒字化するかという目算はつけなくてはなりません。単に地元で◯◯がしたい、という動機と、手持ち資金で足りないからクラウドファンディングでお金を出してもらおうといった安易な考え方が一部にはあります。しかし、そのような安直なやり方では支援が集まらないか、もしくは支援が集まっても事業モデル的に黒字化が無理で、結局赤字から脱却できないということが出てきます。あくまで自分でやりたいことを単に他人のお金でやれるという意識では駄目です。最低限の事業計画、収支計画を立て、自己資金、金融機関融資とクラウドファンディングを組み合わせて最も効果的な事業の始め方を決め、そして成功させて資金提供者に確実に返済や配当、もしくは約束したサービス提供ができることを考える必要があります。
2つ目は、資金調達コストを意識するということ。
クラウドファンディングでも当然ながら手数料や金利などが発生する場合があります。その点では出資でも融資でも既存の金融サービスと変わらず、場合によってはクラウドファンディングのほうが不利な場合も未だあります。自分たちが取り組む事業において、安易にクラウドファンディングにすればいいやと資金調達するのではなく、調達コストを既存の金融サービスと比較する必要があります。調達後も細かな事業進捗報告をしなければならないため、それらの情報提供や報告、資金提供者のサポートコストも含めて、タダではないので意識すべきところです。場合によってはクラウドファンディングを活用しないほうがいいこともあるし、銀行から融資をうけるよりも自己資金で小さく始めるほうが良いこともあります。
3つ目は、資金調達だけではうまくいかない。
当たり前の話ですが、事業に必要なのは継続的な売上です。そのためには、しっかりとお客さんに魅力を感じてもらい、継続的に商品やサービスを利用してもらう営業が不可欠です。一見さん的に「面白いね」といってクラウドファンディングでサービス購入型で前払いしてもらったとしても、その後リピートにつながらない、口コミにつながらなければ、早晩事業は低迷していまいます。お金がないからできないというのではなく、実際にはお金が集まり続ける仕組み、つまりは魅力的な商品サービス開発やサポートに力を注がなくてはならないのです。資金調達のことばかり考え、資金調達すれば成功というような考え方では、事業はサステナビリティを獲得することはできないのです。事業に集中する上で効果的な体制をつくることを最優先すべきです。
このようにクラウドファンディング市場は拡大し、今後地域事業でも今以上に多様な活用がされていくでしょう。しかし、事業に求められる基本的な要素は資金調達方法が多様化しても変わりません。地域活性化だからと傲慢にならず、顧客にとって価値のある商品・サービスを提供する、そのためにできることに集中できたものこそ、成果を上げるのです。