厚生労働省の有識者検討会が2018年3月、職場でのパワーハラスメント(以下パワハラ)防止策が盛り込まれた報告書をまとめました。今回厚生労働省が示した新しいパワハラ基準とは何か。意識せず自身がパワハラの加害者にならないためにも、改めて知っておきたい知識についてみていきましょう。
世間を騒がせている「パワハラ」問題
2017年秋に衝撃を与えた元横綱日馬富士による平幕貴ノ岩への暴行問題。横綱白鳳が話しているときに貴ノ岩がスマートフォンを触り始めたことに腹を立て、身体的暴力に至ったとされています。先輩への礼儀・マナーを教えることは当然必要な行為ながら、暴力をふるうことは許されることではなく、立派な「パワハラ」であるといえます。
また、2018年1月に内閣府公益認定等委員会に出された1通の告発状の存在を週刊文春が報じたことを機に、女子レスリング・伊調薫に対する栄和人強化本部長による「パワハラ」問題が明るみに出ました。告発状によると「彼女が師事するコーチへの不当な圧力」「練習拠点である警視庁レスリングクラブへの出入りを禁止」「男子合宿への参加を禁止」の3点がパワハラに該当するとしています(栄強化本部長や日本レスリング協会はパワハラの存在を否定)。
これまで、(職場における)パワハラの具体例として示されていたのは以下の6つでした。
1.身体的攻撃
2.精神的攻撃
3.人間関係からの切り離し
4.過大な要求
5.過小な要求
6.個(プライバシー)の侵害
上述の相撲界の例は1.に、レスリングの例は(告発状の内容が事実であれば)2.に該当すると考えられます。
厚生労働省のパワハラ新基準
パワハラ問題は「ハラスメント」なのか「指導」なのか、その線引きが難しいといわれます。この線引きに関する判断基準を示したものが、今回厚生労働省の有識者検討会で出された報告書です。2012年に同僚や部下からのいじめがパワハラに該当すると定義に加えられてから、6年ぶりに新基準が出されることとなりました。以下でその内容をみていきましょう。
<パワハラの判断基準>
以下3つの基準をすべて満たす必要があると明記されました。
1.優越的な関係に基づき行われる
2.業務の適正な範囲を超えている
3.身体的・精神的な苦痛を与える
具体例としては
「上司が部下を殴ったり蹴ったりする」
「上司が部下に人格を否定するような発言をする」
「長期間にわたり別室に隔離する」
などがあげられています。
有識者検討会では法的にパワハラ行為を禁止することに関しても議論していましたが、法制化を主張する労働者側と「意に沿わない指導や指示などをすべてハラスメントだと訴えられては困る」とする企業側の主張とが折り合わず、今回明記には至りませんでした。企業側が主張する「ガイドラインを設ける」か、労働者側が主張する「パワハラへの法的措置を設ける」かは、厚生労働省の諮問機関で引き続き検討されることになります。
パワハラ加害者にならないために
自分はパワハラを行っている自覚がないにもかかわらず、周りからはパワハラをしていると思われている…知らぬ間にパワハラ加害者にならないために意識したいポイントをいくつかご紹介します。
・たとえ指導の一環だとしても「暴言・暴力」はNG
指導自体は業務の適正な範囲ですが、身体的・精神的な苦痛を与える暴言・暴力は「適正な範囲」ではないということです。(現状)パワハラには法的措置がないから、と考えがちですが、暴言や暴力に関しては暴行罪や名誉棄損罪などで刑事責任を問われる可能性もあることに留意しましょう。
・自分の「怒り」癖を知っておく
「何度も注意しているにもかかわらず同じミスを繰り返す」「上司に対して敬語を使えない」など、イライラが募り、つい、という声もよく耳にします。大切なことは自分がどのようなときに怒りを覚え、どのくらいの強さなのか、などを客観的に知る「アンガーマネジメント」スキルをもつことです。怒りをなくすことはできませんが、不必要に怒らないようにすることはトレーニングによってできるようになります。
・自分と相手は違うことを認識する
「自分も若い頃は上司の背中を見て技術を盗んだ。なぜあの部下はいわれたことしかやらないのか」などと、過去の自分自身と部下を比較して物事を判断する方がいらっしゃいます。しかし、自分と相手は育った時代も環境も違うなかで比較してもあまり意味はないことを忘れないようにしたいものです。
パワハラ問題は決して他人事ではありません。パワハラに関する検討状況を踏まえながら、被害者を増やさない努力を各人がしていくことが求められるといえるでしょう。