地方創生の現場では、地域に溶け込んだ実効的支援が重要です。中小企業のマネジメント体制を変えていくにあたり、内部に入って支援するという仕組みは地方銀行の体質としてないものの、金融機関には、コンサルタントにはない状況の転換力があります。
オーナーチェンジといった大胆な再生方法の必要性も
私が事業再生コンサルタントとして支援してきた中小企業には、結果的にうまくいった会社も、そうでないところもあります。東北の水産業の会社では、食事を共にしたり、時には魚を切る作業なども一緒にしながら、現場の従業員の思いを共有し、毎日の管理業務を組み立て、少しずつ浸透させていきました。しかし、その努力を継続して続けられる体制を作るためには、経営側のそうした地道な作業への理解が不可欠なのです。
その会社は、私が派遣されてから半年ほどで、日々の数字の管理体制は整えたものの、やはりスポンサーを探してきて事業譲渡をしなければならないという状況にありました。そのための準備もすべて整えて、オーナーチェンジの具体的な画も描いていましたが、最後の最後で、オーナーが自身で舵を取るということになり、私は手を引かざるを得ませんでした。そして、私が抜けた瞬間から、これまでの管理業務の体制が崩れ、元の木阿弥となってしまったのです。いまだに厳しい状況だということで、社員の人から私に連絡が来ることもありますが、オーナーの理解なくして手を出すことはできません。
そこで、状況を転換するだけの実行力を持っているのが、債権者たる金融機関です。経営改善のための人材を投入するには、マネジメントに知見のない、あるいは経験のないオーナーを、時には変えるということも必要となります。外部のコンサルタントという立場からはそれが難しい場合も、地銀が抜本的に方向性を変え、所有と経営を分離させて首都圏からのマネージャーを呼んで現場を取り仕切るなど、さまざまな手法や考え方を検討しながら、基盤をスクラップ・アンド・ビルドで立ち上げていけば、継続的な事業再生支援が可能となるのです。
地域の文化を理解し、思いを持った相談役に
事業再生支援の方法論自体は、ここ20年ほどのあいだに確立されてきています。しかし、それを活かした支援を実際に行うためには、事業そのものの本質を把握・分析し、自分たちの中で咀嚼し、どのように進めていけば良いのかということを、より理解する必要があります。地銀が、そうした本質をつかむ力を持つことができればより地方企業は活性化されるはずなのです。
銀行や担当者によっても大きく差があるので一概には言えませんが、彼らの基本的なルーティンは、融資先を回り、そこで、経営状況を聞き取ることです。その上で金融機関としてどのような支援ができるかを考えていくことが本来の役割であり、いざ経営者が事業の現状を話し、今後どういう時点で資金が必要になるかもしれない、といったことを具体的な目的を持って相談した際には的確な反応が求められます。
地域に根ざして企業とコミュニケーションを取る中で必要なのは、その地域の文化を理解し、持ち上げていく視点と、それを具体化する、それぞれの地域や事業に合った方法論です。地域経済の血流を流している金融機関が、その地域に対する思いや目的を持ち、どのように資金を流していくのか、あるいはどこで止めるのかということを合わせて考えることによって、地方創生は進むのです。
連携して、長期的な支援を
地域経済を活発にするには、観光客をどのようにして呼び込むのかということと、その地域の中の声をどれだけ拾い、活かしていけるかということの二つを同時に考えないとうまくいかないと言われます。後者の役割を地銀が担うために、各企業がどのような問題を抱えているのかを積極的に把握して見極め、どのような支援ができるかを積極的に考えていくという姿勢が、これからは求められるでしょう。
そしてさらに、我々のような実務支援者、地方に実際に出向き、現地の内情を把握しながら動く上で、地銀ときちんと連携しながら進めることは、まだ実際問題として完全に機能してはいませんが、非常に意義のある方法です。マネジメントの手法・体制をどの程度の期間で企業に根付かせることができるかということを考えたときに、内部からの地道な作業、そして実効的な地元の金融機関の支援を組み合わせることで、現場の実力を育てることにつながります。補助金のように、使い切ったら元に戻ってしまうのではなく、地方の経済の本当の意味での地盤の強さ、足腰の強さを造成するためには、双方の協力が大きな推進力となるのです。
担保重視の融資が続けられ、その後何らかの事由で企業が窮境に陥り、お金が返ってこない、となったときに私たちのような実務支援者には声がかかることが多い。そこで、金融機関がまた金融支援をできるよう環境を整えるのが私たちの仕事なのですが、支援機関としての機能充実を図り、地域のために目的を持って協働することで、本当の地方創生を進めることができるのです。