一億総活躍社会実現に向けて、日本政府が推進している働き方改革。働き方改革担当大臣のポストが新設され、2016年9月からは安倍総理大臣が議長になって「働き方改革実現会議」が開催されるなど、まさに「働き方改革元年」といえます。その過程において、リモートワークや副業など、これまであまりメジャーではなかった働き方にも注目が集まってきています。とはいえ、「多様な働き方」に関しては欧米諸国に一日の長があるといえます。欧米諸国での例をみながら、日本の働き方改革の今後を考えてみましょう。
アメリカの例
アメリカを中心に脚光を浴びている新しい働き方の形態が「ギグ・エコノミー」。組織に所属せずに、マッチングサービスを使いながらインターネットを通じて仕事を直接請け負う形で、日本のフリーランスに類似した形態です。「ギグ」は単発の短い仕事を意味する言葉です。このギグ・エコノミーや在宅勤務の拡がりにより、実にアメリカ全労働者のおよそ35%(5500万人)がフリーランスとして働いているとする調査結果が出ています。アメリカMicrosoftでは従業員全体の3分の2近く、タクシー配車サービスとして日本にも上陸したUberでは(正規)従業員の約80倍がコントラクタと呼ばれる契約労働者(日本でいう個人事業主に近い存在)とされるほど、働き方は大きく変わっています。
また、企業に雇用されている労働者においても、働く時間、場所、休暇の3つの自由度が高まる働き方である「フレキシブルワーク」への実現に向けて国や企業がワークライフバランスプログラムを導入しています。フレキシブルワークの適用により、企業に属しながらも「バリバリ仕事メインで働き続けたい」という労働者にも「仕事はほどほど頑張って、オフの時間を大切にしたい」という労働者にも、双方がともに満足して働ける仕組みが作られつつあります。
イギリスの例
イギリスでは「フレキシブル・ワーキング」に関する法整備が進んでいます。2003年に施行された法ですでに「最長2週間の有給父親休暇」「有給出産休暇6ヶ月」などの施策が設けられていましたが、母親が法定出産休暇期間前に職場復帰する場合代わりに父親が休暇取得できる新たな父親休暇が導入されることになるなど、主要国の中で未だ父親休暇の規定が設けられておらず、女性の年齢階級別労働力率が「M字カーブ」(出産・育児期にあたる30代で就業率が下がり、育児がひと段落したのちに再就職するため就業率があがる)の計上になってしまっている日本に比べ、はるかに進んでいる印象を受けます。
そのほか、必要に応じて従業員間でシフトを変更できる「シフトスワッピング制度」や、個々の労働者が働きたい時間を会社に提案できる「自己管理勤務」、社員が異なった始業・終業・休憩時間で働ける「時間差勤務制」、1日の労働時間を延ばす代わりに週の労働日数を少なくできる「圧縮労働時間制」など「働く時間」の多様性を認める制度が多数存在しています。
オランダの例
オランダには「労働時間調整法」があり、労働者には通常の労働時間を短縮したり、延長したりする権利が与えられています。企業側は原則従業員からの要求を認めることになっています。長期介護休暇や、自身の年収10%または年労働時間10%を上限に、金銭または時間で得られるという「休日貯蓄制度」というユニークなものもあります。
人材の有効活用を
少子高齢化が進み、労働力人口の減少という問題に直面している日本。これまで当たり前だった年功序列賃金制度や終身雇用制度が、もはや時代にそぐわなくなってきています。多様な人材を受け入れ活用するためには、多様な働き方を認めることが不可欠です。多様な働き方が認められれば、これまで労働市場から離れていた育児期の女性やシニアなどの人材を活用できる可能性が高まります。つまり、働き方改革とダイバーシティは表裏一体の関係といえます。筆者のサポートしているIT系の中小企業では、新たに「フレックスタイム制」を導入し社員募集をしたところ、育児や介護のため大手企業を辞めざるを得なかった優秀な社員を獲得することができた事例もあります。
「女性の活躍推進」が叫ばれる中、先述の「M字カーブ」の問題が根深く残っている現状があります。このM字カーブ問題は欧米諸国では見られず、日本や韓国特有の問題とされますが、女性の労働力率が15%改善すれば約300万人の労働力人口増加につながるとする試算もあり、「働く意思はあるが退職を余儀なくされる」方が減るように、働き方改革先駆者たる欧米諸国の制度例も参考に改善を進めていく必要があるでしょう。