「サテライトオフィス」という言葉が聞かれるようになりました。新たな拠点のひとつとして本社から離れたところに構えるオフィスのことを指す言葉で、本社周辺に衛星（＝サテライト）のように存在するオフィスという意味からサテライトオフィスと呼ばれています。
このサテライトオフィスが注目されるようになった背景のひとつに、総務省が提唱している「おためしサテライトオフィス」プロジェクトの存在があります。このおためしサテライトオフィスプロジェクトとはどのようなものなのかご紹介します。
おためしサテライトオフィス事業とは
地方での民間企業等のサテライトオフィス開設を進めることで、地方で新たな仕事・働き方を生み出すことを目指し、総務省が2016年から取り組んでいる「おためしサテライトオフィス」事業。サテライトオフィスには関心はあっても、いきなり地方にオフィスを開設することはなかなかハードルが高いものです。そこで基本ニーズを把握すべく、東名阪の三大都市圏内に本社が置かれている民間企業を対象に「サテライトオフィス」検討の有無や地方公共団体に求める条件などを調査しています。この調査結果を参考に、サテライトオフィスに関する民間企業のニーズを把握した上で現地での「お試し勤務」を受け入れる地方公共団体を「モデル事業」として支援するというものです。2016年度補正予算においては10自治体が、2017年度予算においては8自治体が採択されています。以下で、採択団体の事業内容についてみていきましょう。
採択団体と各事業内容
2016年度のおためしサテライトオフィスモデル地区に採択されたのは山口県、徳島県、青森県弘前市、秋田県大館市、千葉県銚子市、新潟県南魚沼市、福井県鯖江市、京都府京丹後市、島根県松江市、鹿児島県錦江町の計2県8市、2017年度は奈良県、北海道下川町、群馬県みなかみ町、千葉県南房総市、岐阜県高山市、静岡県南伊豆町、愛知県岡崎市、鹿児島県伊仙町の1県7市町となっています。各自治体のモデル事業として挙げられている内容からいくつかピックアップしてご紹介します。
・徳島県
人口減少と高齢化社会が進行している県西部の阿波圏域（三好市、美馬市、つるぎ町、東みよし町）間でのフレキシブルなお試し勤務が可能になっています。徳島県はIT企業を誘致したサテライトオフィスを以前より展開している実績がありますが、今回の対象地域はサテライトオフィスが多く賑わっている美波町や神山町からは少し距離があり、過疎地域の限界集落である点が問題となりがちです。しかし、徳島県は早くから県内全域に高速インターネットを敷設していることで、どの地域でも都市部と変わらない通信環境を得られる点が魅力のひとつと言えるでしょう。
・山口県
県内に50ヵ所以上の温泉地を持ち、新幹線の駅（5つ）や空港（2つ）、高速道路と交通アクセスの充実が魅力の山口県。年間を通じて温暖で過ごしやすい気候（平均気温約16度）で、地震や風水害も比較的少ないという特徴もあります。県内5市町14施設でのお試し勤務や現地視察ツアーを開催中で、サテライトオフィスの開設にあたってはサポートセンターが新たに移転してくる社員の住居やオフィスの場所探しの支援や、不動産賃借料や旅費などに充てられる「サテライトオフィス誘致推進補助金」も活用可能です。
・秋田県大館市
大館市のおためしサテライトオフィスでは、「大館市までの往復交通費、宿泊費、現地の温泉利用料、レンタカーなどの移動費全て無料」でオフィスを利用できるという「星と緑と温泉の360°パノラマ」サテライトオフィス体験事業を実施しています。パソコンと着替え、飲食費のみで体験ができることになります。サテライトオフィスは市の中心部から約20㎞郊外に位置する「ベニヤマ自然パーク」内のコテージに位置し、満天の星空の下、鳥のさえずりが聞こえる中リフレッシュしながら仕事をすることができます。企業のみならず個人事業主の方もこの機会を利用できます。
おためしサテライトオフィスが地域活性化に結び付くために
サテライトオフィスの広まりは、「人口減少に悩み、地方への人の流れを加速させたい過疎化自治体」、「豊かな自然環境で生産性をあげ、オフィスを分散させることで自然災害などでのリスクを減らしたい企業」、「都市部から離れ、リラックスして働きたい個人」三者の思惑が一致することで、地域活性化につなげていけると考えられます。これまで地域活性化というと「地方自治体が自主的に取り組む課題である」と認識されがちでしたが、実際に住んでみる、利用してみることで分かる課題も多いのが現状です。また、サテライトオフィスの誘致に関しても地方間での競争が激しくなることが予想される中、誘致対象地域の持つ魅力をどれだけアピールできるかが今後の鍵になると思われます。
