安倍内閣が打ち出す「一億総活躍社会」。通称「女性活躍推進法」が2016年4月に施行され、同年5月には「ニッポン一億総活躍プラン」が策定されました。女性の働き方とそれに伴う生涯賃金の面から、キャリアの積み方を考えていきたいと思います。
女性の就業状況
国を挙げて仕事と子育ての両立環境整備を進める中、企業内でも少しずつ体制に変化が生まれたという声も耳にするようになりました。しかし、それでも女性が「働き続ける」ことは難しい現状があります。
15歳以上人口に占める労働力人口の割合(労働力率)を男女で比較すると、男性73.8%に対し、女性は49.6%となっています。女性の労働力率はここ10年で0.9%の伸びと、大きくは変わっていません。ただし、年代別にみると状況は変わり、30代を中心に上昇がみられています。日本の女性の労働力においては、学校を卒業する20代前半から後半にかけて上昇し、結婚・出産期にあたる30代頃に一旦低下、育児が落ち着く頃に再び上昇するという「M字カーブ」を描くことが長らく問題視されていました。このM字の底にあたる30代の労働力率があがっていることで、M字カーブが緩やかに解消に向かいつつあります。
しかしながら、30代の労働力率が上がっている背景には、結婚に伴い退職する女性の数が減少していることに加え、未婚率自体も上がっているという問題もあります。また、労働力率算定においては正規雇用か非正規雇用かの違いは考慮されていないことにも注目する必要があるでしょう。実際、女性雇用者に占める非正規雇用者の割合は56.3%(2015年現在)で、35歳未満では正規雇用者のほうが多いものの、35歳以上になると非正規雇用者の割合が増える結果になっています。
働き方と生涯賃金の関係
学校を卒業して数年働き、寿退社が当たり前だった時代とは違い、結婚してからも働きたいと考える女性の数は増加しています。ここで、結婚後の働き方とそれによる生涯賃金がどのように変わるかをご紹介しましょう。
1.結婚後正社員で働き続ける(育児休業なし)
2.結婚後正社員で働き続ける(2回育児休業取得)
3.出産後退職、子供が6歳になってから正社員として再就職
4.出産後退職、子供が6歳になってからパートアルバイトとして再就職
上記4パターンで、生涯賃金はどれくらい違うでしょうか。内閣府「国民生活白書」によると、1の場合が平均2億7,645万円に対し、一番少ない4の場合は4,913万円となっています。また、2と3の差が約1億円、2と4の差が約2億円あります。一度退職してしまうことに加え、パートアルバイトなどの非正規雇用では一般的に給与の伸びが鈍いことがかなり生涯賃金に影響していることが分かります。この損失は女性本人にとってもそうですが、企業にとっても2億円の価値のある人材を失うことにつながります。
それでは、女性が企業を辞めずに働き続けるキャリアを選択し得るためにはどのようなことが必要でしょうか。
本当に望まれる「女性活躍」の形
「女性活躍推進」のために、政府は2020年までに女性の管理職比率を30%に引き上げようという目標を掲げています。現在は10%前後ですのでかなり遠い目標ではありますが、この目標値ばかりが先に立ち、本来の女性活躍推進の意図から外れてしまわないようにしたいものです。女性管理職比率が政府の目標通り30%になれば、女性活躍の職場になるのか。必ずしもそうは言えないように思います。
子育てを理由に短時間勤務をしている社員に遅番シフトや土日勤務を求める新たな施策を打ち出した資生堂。「資生堂ショック」と呼ばれるほど反響を呼び「女性にやさしい会社だと思っていたのに」という反応も多く聞かれました。その反応の裏には「出産後の家事・育児は女性が担わないと」という前提が(女性側も含め)あるからでしょう。その点資生堂の新しい取り組みは、子育て中の社員であっても活躍の機会を与えるようになったという意味で画期的なものです。
女性活躍は本来、女性が男性と同じように働くことでも、管理職の比率が30%以上に引き上げられることでもないはずです。出産・育児を機に退職の道を選ぶ女性がまだまだ多く、「女性活躍推進」を妨げている原因のひとつに「男性は職場、女性は家庭」という性的役割分担意識があります。保育園のお迎えにいかなければならないから遅番シフトには入れないということではなく、男性と子育ての役割を分担するなど女性が働き続けるための意識改革こそが、本来望まれる女性活躍の姿ではないでしょうか。女性のキャリアは女性だけの力でつかむものではないのです。
女性活躍は本来、女性が男性と同じように働くことでも、管理職の比率が30%以上に引き上げられることでもないはずです。出産・育児を機に退職の道を選ぶ女性がまだまだ多く、「女性活躍推進」を妨げている原因のひとつに「男性は職場、女性は家庭」という性的役割分担意識があります。保育園のお迎えにいかなければならないから遅番シフトには入れないということではなく、男性と子育ての役割を分担するなど女性が働き続けるための意識改革こそが、本来望まれる女性活躍の姿ではないでしょうか。女性のキャリアは女性だけの力でつかむものではないのです。