ストレスチェックの実施が従業員50名以上の企業に義務化されることになり、2017年12月で丸2年となりました。厚生労働省が2017年7月、ストレスチェック制度の実施状況に関する統計データを義務化後初めて公開しました。公開されたデータからストレスチェック義務化の振り返り、および働き方改革について考えていきます。
報告書からみるストレスチェック実施状況
「ストレスチェック義務化」は2015年12月1日から施行されました。初年度のストレスチェックは施行から1年以内(2016年11月30日まで)に行い、所轄の労働基準監督署に実施報告書の提出をすることとされました。この初年度の実施状況について振り返っていきましょう。
ストレスチェック実施義務対象事業場のうち、実施報告書が提出された割合は82.9%。事業場の人数規模で比較すると、50~99人の事業場では78.9%に対し、1000人以上の事業場では99.5%となり、事業所の人数に比例して割合も増加しています。
業種別にみると、9割を超えているのは金融・広告業(93.2%)、通信業(92.0%)。接客娯楽業(68.2%)や清掃・と畜業(67.0%)、貨物取扱業(76.6%)などのサービス業は7割前後と低い数値となっています。
なお、このストレスチェック義務化はあくまで「事業者」に対するもので、労働者には実はストレスチェックを受ける義務は課されていません(対象となる労働者が全員ストレスチェックを受けられるよう機会を提供することが事業者の義務)。そのため、厚生労働省の統計データ内にも「ストレスチェック受検状況」の項目があります。この割合は事業場の規模にかかわらず、おおむね8割弱となっています。
さらに、ストレスチェックの結果「高ストレス者」で、医師による面接指導を受ける必要があると判断された従業員は、本人からの申出があれば事業者は医師による面接指導の場を提供する必要がありますが、報告書によるとわずか0.6%しか、該当する労働者がいなかったとのことです。この割合も事業場の規模問わず低くなっており、本来面接指導が必要にもかかわらず、本人が申し出ない(あるいは申し出しづらい環境がある)ために実施できていないケースが相当あるものと想定されます。
制度自体は浸透したかにみえるが…
ストレスチェックを実施しないことによる直接の罰則はありません(労働基準監督署への実施報告を怠ると最大50万円以下の罰金はあり)ので、初年度どこまで実施率がのびるかという懸念も一部ではありましたが、先述の結果を見る限り制度自体の浸透はされているように感じます。しかし、ストレスチェックをただ「義務だから」と機械的に受けさせるだけでは、本来のストレスチェック導入の目的を達成するには不十分といえるでしょう。
ストレスチェックの目的は、労働者のメンタルヘルス不調の一次予防(ストレス自体を発生させないようにする)ことであり、高ストレス者を選定するテスト。筆者のこれまでの経験上も、事業者がメンタルヘルスの対策をするタイミングの多くは「三次予防」と呼ばれる、従業員が実際にメンタルヘルス疾患を発症したあとのフォローだったりしますが、発症する前からの早期予防・対策こそが、政府が主導する「働き方改革」の面でも重要です。
働き方改革と長時間労働
働き方改革における長時間労働の是正に関しては近年大きく報じられている通り、政府も最重要課題として取り組みを進めようとしています。
アドバンテッジリスクマネジメント社が行った、長時間労働の状況が「1年前と比べ改善したかどうか」に関する調査において、回答者の64.2%が「改善した」としています。また、改善したと回答した対象者に「メンタルヘルス不調による休職者数」の増減について調査したところ、休職者数が少なくなったと回答した割合が24.5%でした。なお、長時間労働の状況が悪化したと回答した対象者に同様の質問をしたところ、休職者数が増えた(50%)、変わらない(50%)となっていることからも、長時間労働とメンタルヘルス不調とは密接な関係があることがうかがえます。
生産性アップにつながるセルフケア
働き方改革に関連して、日本の労働生産性が諸外国と比べて低いことが度々報じられています。主要7か国(G7)の中で日本は長らく最下位、OECD加盟国(35か国)のなかでも下から数えたほうが早い状況です。
この生産性アップのためには、「セルフケア」についても考える必要があります。セルフケアとは、自分のストレス反応に自ら気づき、コントロール方法を学んで活用していくこと。生産性が高い人の特徴として、このセルフケアを優先し進んで実践していることがあげられます。
3年目に入ったストレスチェック制度。労働者自身のセルフケア実践を推し進め、職場全体の働き方改革につなげていくことが今後ますます求められるのではないでしょうか。