労働市場の悪化などに伴い「ワークシェアリング」という言葉が聞かれるようになっています。このワークシェアリングのひとつの形態に「ジョブ・シェアリング」があります。まだ日本ではそこまで事例が多くはありませんが、最近ではワーキングマザーを中心に注目されつつあります。本記事では、このジョブ・シェアリングについてご紹介します。
ワークシェアリングとジョブ・シェアリング
ワークシェアリングは大きく2つの形態に分けられます。企業の業績が悪化した際に失業者を出さないようにするため1人当たりの労働時間を短縮する「雇用維持型」と、短時間勤務を組み合わせることで労働時間を短縮し、多くの人に雇用機会を与え多様な人材を確保する「雇用創出型」です。ジョブ・シェアリングは後者に該当します。 ジョブ・シェアリングでは、通常フルタイム勤務者1人で担当する職務を2人(以上)1組となって分担して行います。ただ業務を切り分けるわけではなく、共同でその職務の成果に対し責任を負い、評価処遇もセットで受ける形になるのが特徴です。
ジョブ・シェアリング先進国の事例
ヨーロッパはジョブ・シェアリングが制度として採用されているところが多く、たとえばフランスでは法定労働時間を週35時間とし、正社員の労働時間をシェアすることを推奨しています。イギリスでは区役所での制度としてジョブ・シェアリングが採用され、女性の社会進出につながっています。 ジョブ・シェアリングは女性管理職の働き方をも変えています。アメリカFleet Bank(現Bank of America)では、なんと6年にわたってvice presidentの職をシェアしたことが話題になりました(※1)。
ジョブ・シェアリングのメリット
ジョブ・シェアリングのメリットについて、代表的なものをご紹介しましょう。
・フレキシブルな働き方が可能
現在日本では、結婚や出産、介護などによってフルタイムで働けなくなった方々が離職を余儀なくされるケースが問題視されています。ジョブ・シェアリングの導入によって、たとえば1つの職務をAさんが月曜・水曜、Bさんが火曜・木曜・金曜を担当するという勤務形態や、午前中はAさん、午後はBさんという形で時間で分担するような形態をとることが可能になりますので、企業にとって痛手となる優秀な人材の流出を食い止め、人材定着を高めることができます。また従業員も正社員の職務を失うことなく働き続けることができるというメリットにつながります。
・女性管理職率アップ
日本ではまだまだ、出産・育児に伴い時短勤務になった女性社員が管理職になるケースは少ないですが、先述のアメリカFleet Bank事例のように管理職の職務をシェアするという働き方ができるようになれば、女性管理職率のアップにもつながりやすくなります。
・生産性の向上
日本は先進国の中でも生産性の低い国であることが、OECDの統計結果(※2)からも明らかになっています。2015年度の時間当たり労働生産性は対象35国中20位であり、対象国の平均値(50ドル)を下回る42.1ドルとなっています。米国(5位:68.3ドル)、フランス(6位:65.6ドル)、ドイツ(7位:65.5ドル)、オランダ(8位:65.4ドル)と、上位にはジョブ・シェアリング先進国である欧米諸国が入っていることからも、ジョブ・シェアリングが生産性向上につながり、より短い時間で効率的に仕事を行う働き方として機能していることが伺えるといえるでしょう。
ジョブ・シェアリングは日本にはなじまないとする考えもまだ根強いものの、国を挙げて女性の社会貢献を推進している現状、そして高齢化に伴う介護の長期化など、我々を取り巻く社会環境は劇的に変化しつつあります。サービス残業の問題のように、多くが残業を前提とした働き方になっている日本ですが、出産育児、介護、あるいは勉強との両立など各ライフステージに応じた多種多様な働き方ができる労働市場の実現が求められてきているのです。
※1 Two Executives, One Career Harvard Business Review 2005年2月
https://hbr.org/2005/02/two-executives-one-career
※2 労働生産性の国際比較2016年版 日本生産性本部
http://www.jpc-net.jp/intl_comparison/intl_comparison_2016.pdf