働き方改革進展へ、求められる生産性向上
浅賀 桃子
2017/04/27 (木) - 08:00

政府でも「国民一億総活躍社会」の実現に向けた最大のチャレンジと位置づけられている「働き方改革」。この働き方改革を進めるうえでの課題のひとつとして挙げられているのが「長時間労働」です。日本経済新聞社と日経リサーチが上場企業301社に自社で取り組む働き方改革の優先課題を質問したところ、「長時間労働の是正」が1位(73%)となっている(※1)ことからも、問題の根深さが伺えます。働き方改革にあたって、働く私たちに求められることは何かを考えてみます。

長時間労働是正のために欠かせない「生産性」

2016年6月に「ニッポン一億総活躍プラン」が閣議決定されました。同プランの中でも「長時間労働の是正は、労働の質を高めることにより多様なライフスタイルを可能にし、ひいては生産性の向上につながる」と明記されています。 国際的にみても労働時間当たりの生産性が低い日本。OECD加盟35国の1人あたり労働生産性および時間当たり労働生産性を比較した調査結果(※2)によると、日本は1人あたり労働生産性22位、時間当たり生産性20位と、共にOECD諸国の平均値を下回っています。 OECD調査で示されている労働生産性は「GDP(国内総生産)÷就業者数」で計算されていますが、私たちが生産性について考える際には、「労働力を効率よく活用し、より質の高いものを産みだせるか」といった観点で考えることが望まれます。

日本の生産性と労働時間の関係

日本の1人当たり平均年間総実労働時間(※3)は2014年現在1,729時間となっています。日本よりも先述の労働生産性が高いスウェーデン(1,609時間)、フランス(1,473時間)、ドイツ(1,371時間)のほうが、労働時間は短い傾向にあります。各国のデータ源が異なることから、純粋な時間比較は難しいものの「労働時間が長いにもかかわらず労働生産性は低い」傾向はここ10数年変わっていません。

筆者もキャリアカウンセリングを行う中で「上司や同僚が残業していると帰りづらいので、なんとなくダラダラ仕事をしてしまっている」「残業をしないと、昇給査定に影響があると思われる」「自分の仕事は終わっているが、周りが仕事をしているので、なんとなく帰りづらく、周りの目を盗んで帰ってきた」といった、ある意味日本人特有の理由で長時間労働になってしまう例に遭遇した経験を持ちます。長く働くほど意欲的に仕事をしているといった「誤解」も、まだまだみられています。このことは、朝日新聞に掲載された「長時間労働を減らすためには?」という問いの第3位に「働き手自身が意識を変えること」が入っており、回答割合は約18%になることからも伺えます(※4)。

上記は「本来働く必要がないはずの人間が残っている」という、労働者の意識の問題が大きいといえますが、純粋に「業務量が多い」というケースももちろん根深く存在しています。この問題を考えるにあたっては「労働者が充分に自身の能力を仕事で発揮できているか」という観点も重要になるでしょう。

能力と仕事のミスマッチ

OECD加盟国を対象に行われた国際成人力調査(PIACC)によると、読解力(日本平均点296点/OECD加盟国平均273点)と数的思考力(日本平均点288点/OECD加盟国平均269点)で世界1位になっています(※5)。上記結果からも、世界各国と比べ日本の労働者のスキルが低いとは言えないでしょう。それにもかかわらず労働生産性が低い理由としては「能力と仕事のミスマッチ」が考えられます。

先ほどご紹介しました日本の年間総実労働時間(1,729時間)は、パートタイム労働者を含んだ数値です。パートタイム労働者を含めた平均では年々緩やかに減少傾向にありながらも、正社員で働く皆さんの実感としては「そんなに少なくない」という方も多いのではないかと思います。正社員と非正規労働者(パートタイムなど)とで、労働時間の二極化傾向が続いているとも言われています。

特に日本では結婚や出産のためいったん労働から離れたあと、子育てがひと段落して再び働くことが難しい現状から、非正規のルーチンワークに甘んじてしまっている労働者も少なくありません。

リモートワークが働き方の意識を変えた

筆者がサポートした子育て世代の女性Aさん。それまでパートタイム労働者として働いていましたが「正社員として自分のスキルを磨く機会がなかなかない」と悩んでいました。現在は正社員採用でリモートワークが認められている職場に転職し、生き生きと働いています。Aさんは転職後「残業ができなかったり、子どもの急な発熱で急遽早退になってしまったりと迷惑をかけてしまっているという思いがありましたが、リモートワークとの併用が認められる職場なので助かっています。働く時間は短くても、自分の仕事は不足なくやっています。子どもがいつ体調を崩すか分かりませんので、限られた時間で効率よく仕事をしようという意識が以前より高まったように思います」と述べています。Aさんのスキルが活用され、働き方の意識も変わった一例です。

リモートワークをはじめ、これまで日本では一般的ではなかった働き方の導入が進んでいくことで、労働力の広がりや長時間労働の減少、さらにはスキルアップ、生産性向上につなげていくことが求められているといえます。
 

※1 働き方改革、長時間労働是正が最優先 日本経済新聞 2017年1月10日 http://www.nikkei.com/article/DGKKASFS06H60_W7A100C1NN1000/

※2 労働生産性の国際比較2016年版 公益財団法人日本生産性本部 2016年12月19日
http://www.jpc-net.jp/intl_comparison/intl_comparison_2016_press.pdf

※3 データブック国際労働比較2016 独立行政法人労働政策研究・研修機構 http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2016/06/p201_6-1.pdf

※4 「定時退社かっこいい」長時間労働なくすヒントは 朝日新聞デジタル 2016年6月19
http://www.asahi.com/articles/ASJ6J6QLFJ6JULFA033.html

※5 国際成人力調査(PIAAC) 文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/data/Others/1287165.htm

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