日本の働き方改革を語るうえで、女性の労働力は欠かせないものになっています。日本の女性の労働力率は、結婚や出産期にあたる年代で最も低くなり、育児が落ち着いた時期に再び上昇する「M字カーブ」を描くことが知られています。このM字カーブ、日本国内でも都道府県によってカーブの落差が異なることをご存知でしょうか。
M字カーブの「底上げ」は図られつつあるも
日本全体でみると、以前に比べM字カーブの「底上げ」は図られつつあります。しかし、都道府県別にみるとその状況はかなり異なっています。少し古いですが、2010年の国勢調査をもとに、M字カーブの「落差」についてみていきましょう。
「落差」とは、M字の左頂点と底との差のことを指します。M字の左頂点は通常、学校を卒業し社会に出る20代です。以前は20代前半でしたが、女性の大学進学率上昇(2014年現在の女性大学進学率は56.5%。なお、1985年時点ではわずか13.7%)等に伴い20代半ば~後半に頂点がスライドしつつあります。そしてM字の「底」も、女性の晩婚化等に伴い30代前半から後半に移っています。この頂点と底の差がどのくらいあるかという点から、各地方の特徴が浮かび上がってきています。
M字カーブの落差が一番大きい都道府県は「神奈川県」。2010年のデータによると、左頂点が79.0に対し、底では61.0とその差は18.0ポイントに達しています。この落差が15ポイント以上に達する都道府県は3都県。2位は奈良県(16.8ポイント)、3位は東京都(15.6ポイント)。以下4位千葉県(14.9ポイント)、5位大阪府(14.3ポイント)と関東・近畿地方に集中しています。
続いて落差が小さい都道府県をみていくと、高知県(2.5ポイント)、島根県(3.5ポイント)、山形県(3.6ポイント)、青森県(4.1ポイント)、岩手県(4.2ポイント)となっています。
M字カーブの落差と子育て環境
出産・育児期に影響される「M字カーブ」。それでは、この落差と子育て環境との間に関連性があるのでしょうか。子育て環境を判断するひとつの指標として、都道府県別待機児童数ランキングをみていきます。2017年4月現在、青森県(0人、41位タイ)、山形県(67人、32位)、高知県(73人、31位)など、落差の小さな都道府県は比較的待機児童数が少ない傾向にあります。同様に、東京都(8586人、1位)、千葉県(1787人、3位)、大阪府(1190人、7位)、神奈川県(756人、10位)など、落差の大きい都道府県の待機児童数は比較的多いことから、ある程度の相関性が見いだせるといってよいでしょう。
代表的な地方の取り組みおよび課題
先述の青森県では、子育て女性の就職応援事業として「こそもりフェス」を実施しています。 出産・育児等を機に退職し、その後就労意欲をもっている女性向けの個別カウンセリングやセミナー、職場体験プログラム、合同企業説明会などを実施しています。子連れでも問題ないように、キッズプログラミングなどのイベントも同時開催しています。また、女性の活躍を推進する青森県内の企業で働く女性社員の姿を県内外の女性学生や若手女性社員に伝え、女性のUIターンを増やすことを狙って2017年6月に結成された通称「あおもりなでしこ」(あおもり女子就活・定着サポーターズ)による交流会や企業見学会も開かれています。
女性が結婚し、子育てをしながら働き続けやすい環境がある反面、そうならざるを得ない環境も課題として浮かびます。結婚情報センターが未婚女性に対して「結婚相手に望む年収」を調査したところ、1位は「理想年収500万以上」となっています。ただ、実際は働く都道府県によってもだいぶ差が出ており、たとえば青森県30歳男性の平均年収は355.7万・35歳男性で389.9万、岩手県30歳男性346.5万・35歳男性389万と、落差の小さな都道府県は比較的30代の男性年収が低い傾向にあります。一方ランキング1位の東京都は30歳男性515.6万・35歳男性614.3万と断トツですが、2位神奈川県30歳男性483.7万・35歳男性561.2万、3位大阪府30歳男性470.9万・35歳男性541.5万など、青森県や岩手県などと比べると100万以上の差が出ています。つまり、世帯収入を維持するためには男性だけには頼れない、女性も働き続ける必要があるともいえるのです。
男性も女性も双方のライフスタイルが変わっても無理なく働き続けられる世の中こそが、本来の働き方改革の姿であるはずです。各地方の雇用状況などの課題解決なくして、M字カーブの落差は解消されないのかもしれません。