政府が推し進めている地方創生。地方創生の目標として掲げられていることのひとつが「東京一極集中の是正」です。総務省が公表した住民基本台帳に基づく人口移動報告(※1)によると、東京都は2016年で20年連続の転入超過となっています。東京都に隣県の神奈川、埼玉、千葉を加えた「東京圏」と呼ばれる地域では11万7868人の転入超過となっています。
地方圏からの人口流出止まらず
地方圏から東京圏への(特に)若年層流入に歯止めをかけるべく、地方での雇用創出が喫茶の課題になっています。国の総合戦略における主な目標として、地方での若者雇用数(2015年時点で5.9万人)を、2020年までの5年間で30万人にすることがあげられています。2016年現在では9.8万人となっており出だしとしてはまずまずながらも、先述の地方から東京圏への人口流出傾向は改善されていない現状です。東京圏と並び三大都市圏と呼ばれる大阪圏および名古屋圏をはじめ、全国の市町村の7割以上が転出超過となっています。
出産・育児と就業をめぐる課題
地方創生の目的は、単に「地方を元気にすること」だけではなく、出生率が全国的にみて低い東京圏から、比較的高い地方圏への転出をはかることで「人口減少を食い止める」ことにあります。この出生率の問題と、子育てを希望通り行えるかという課題は切っても切り離せません。
第1子出産前後の女性継続就業率は、2015年現在53.1%に過ぎません(※2)。かつ、常勤で就業する割合に限ると、子どもが小学生を卒業するまでは2割に満たないとする統計結果(※3)もあります。政府は働き方改革とワーク・ライフ・バランス実現に向け、男性の育児休業取得率を2017年度に10%、2020年度に13%に上げることを目標にしていますが、現状ははるか及ばず、2015年度の2.65%が比較可能な1996年度調査以来「過去最高」となっています。かつ、育児休業の取得期間も「1日以上5日未満」と「5日以上2週間未満」を合わせて6割を占めています。育児休業をとりたい男性の数は増えていても、現状は「育児休業は女性が取得するもの」とする考えが根深く残り、男性の取得を妨げようとしたり、取得者の昇格機会を失わせたりといった「パタニティハラスメント」の問題も出てきています。男性の家事参加時間が海外に比べかなり短いこと、大都市圏ほど問題になっている待機児童問題なども、先述の女性継続就業率の低さと無縁ではありません。
女性が地方へ戻りやすい風潮を築く必要性
妊娠が判明したら、すぐ保育園を確保するための「保活」を頑張らなければならない…そんな都心での生活に嫌気がさした筆者の友人Aさんは、東京圏を離れ静岡県への転居を決めました。ご主人のご両親との二世帯暮らしで、待機児童の心配もせずにすむようになったものの、ひとつひっかかるところがあるとAさんは言います。
「義父母たちが、私が働き続けることに対して難色を示していまして。早く男の子を産んで家庭に入ってほしいと言われています。二世帯だから子育ても安心でしょうと言われ、それは確かにそうなのだけど、私は出産後も仕事をしたいと思っているんです。バリバリ仕事をしている東京の友達をみると、家庭に入るのは複雑で…」
特に東京圏で問題になっている「保育園に入れない」という心配は、地方では少なくなる傾向にあります。その一方で、Aさんの義父母が(おそらく自然な感情として)「子供を産んで仕事を辞め、家庭に入ってほしい」と口にしたように「男性は仕事、女性は家庭」といった意識が、特に地方ではまだまだ強いと感じる人も少なくないようです。
仕事をしながら子育ても頑張りたい、通勤ラッシュをはじめとしたストレスフルな東京圏での暮らしから解放され、自然の中で暮らしたいと考える若年層は増えてきているものの、「雇用創出が不十分」ということだけでなく、地方での「女性の就業に対する意識の違い」が、地方移住の決断に踏み切れない要因のひとつになっている可能性があるのです。
子育て世代の女性が輝ける街が地方創生へ
群馬県桐生市のNPO法人キッズバレイ(※4)では、働き盛りの子育て世代が「育児も仕事も」ともに生き生きできるようにと、子育て支援とビジネス支援両方を組み合わせた活動を行っています。代表理事自身が東京からUターンして立ち上げた団体で、子育て世代の女性向けのコワーキング&コミュニティスペースをオープンさせるなど、育児と仕事の両立をはかりやすい仕組み作りに取り組んでいます。
少子化と地方への移住を推し進めるためには、このように女性が気持ちよく社会で活躍できる場づくりと、社会全体の意識改革が求められるといえるでしょう。
※1 住民基本台帳人口移動報告 平成28年(2016年)結果 総務省統計局 2017年1月31日
http://www.stat.go.jp/data/idou/2016np/kihon/youyaku/index.htm
※2 「第1子出産前後の女性継続就業率」の動向関連データ集 内閣府
http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/k_39/pdf/ss1.pdf
※3 第14回21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児) 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/syusseiji/14/dl/h13_kekka.pdf
※4 NPO法人キッズバレイ
http://kids-valley.org/