金融機関の力で差がつく、地方間競争時代
木下 斉
2017/06/23 (金) - 08:00

地方創生政策の中で重要な枠割を担っている「地域金融機関」。近年、今までの地方金融機関には見られなかった取り組みが行われています。地元有力企業のアグレッシブな取り組みに対して金融機関がしっかりとサポートする事例や、交付金や補助金ではなく、金融の力を活かして稼ぐ公民連携事業が展開されている「オガールプロジェクト」などこれからの地域金融機関のあり方について触れていきます。

地方創生政策の大きな変化の一つ、「地方金融機関」との密接な関わり方とその重要性

従来は地域内の決まった企業への融資ならまだしも、中には国債や県債や行政事務代行業務的な仕事ばかりに力を入れてきた地方銀行も少なくありませんでした。バブル崩壊後は銀行財務基盤の健全化が優先されるあまりに、貸し渋り・貸し剥がしなどが増えていく一方で、新たな地域経済の担い手を作り出していくような地域銀行的な存在が見られなくなってしまった地域も多くありました。

しかし、やはり地域経済を回していく上では、それでは困るわけです。

特に日本国債もマイナス金利となっており、地方銀行もこれまでのような預金集めて、国債で運用していく、みたいな事業は成立しなくなってきています。新たな活路をみつけるために、地方銀行も従来とは異なる競争局面に入っています。

本来は地域内部で使われないお金を必要な人に貸し出していくことが業務のはずの地方金融機関。しかし、以下の調査レポートをみても預貸率は90年と比較して大きく下落しています。特に信用金庫や信用組合の下落は甚だしいです。地方銀行もなかなか回復せず、70%台で推移しており、資金余剰が大きくあることがわかります。

中小企業庁「金融機関の預貸率と不良債権比率の推移」

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このような預貸できてない資金をしっかり地域で回すことが求められるようになってきました。
金融庁の森長官も従来の規模ばかり求める融資ではなく、しっかりと地域内の実情にそってリレーションシップバンキングを強化して、特徴ある銀行経営を求め、それらを評価すると語っています。つまり、「銀行なんてどこでも一緒」という時代はもう終わりを迎え、地方銀行同士が、地域経済を回し、自治体財政などの支えになるような仕事をしていくことで特徴を出すことが求められるようになっていると言えます。

そのような中、各地では近年の地方金融機関には見られなかったような動きも始まっています。

瀬戸内地域の新成長産業創出を加速させる広島銀行

地方経済を回していく投融資で全国区で注目される地方金融機関の一つが広島銀行です。
昨今は瀬戸内の観光開発などで注目され、戦後初の水陸両用飛行機メーカーを買収して観光遊覧エアラインなども就航している「せとうちホールディングス」なども広島銀行が初期から融資して支援されています。

2年前に開催した地方創生サミットにおいて広島銀行の方が、「こういう事業を支えなくして、地方銀行の存在価値はないと判断している」と熱く語られていたのが印象的でした。従来の常識からかなり飛び抜けた規模感のビジョンを持つ事業にも、しっかり地銀がサポートしているのが素晴らしいなと思います。
こういうアグレッシブなプロジェクトを地元の金融機関に説明しても、「良く分からない」となってしまい、むしろメガバンクの地方支店に話をしたら「それはいいですね。融資します」という話が通ってしまったという話を多く聞きます。地方で人気の店が数寄屋橋の商業施設から誘致を受けてその出店費用審査にいった際にも「数寄屋橋ってどこですか」と言われて唖然としたという話もあります。その案件も結局はメガバンクの地元支店が融資をしたようです。

実は地方金融機関だから地元のことだけ見ていればよいのではなく、地元の企業が事業拡大に伴い、地域外に出ていくことまで支えるというのは大きなチャンスだから、広い視野を持って地域での金融業務に携わる必要が本来はあるのです。地域内の企業が成長して、大きく国内外に展開してこそ、地域はビジネスだけでなく、金融を通じても外貨を稼げるわけです。広島がマツダをはじめとして国内外に展開する企業が昔から数多くある地域で、そこでの地域金融機関としての役割を果たしてきたという歴史とノウハウがあるからこそ、広島銀行の視野は非常に広い特徴があると思います。

“稼ぐ”公共施設開発に投融資して自治体財政の改善にも貢献する東北銀行

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地方における問題は経済だけでなく、自治体財政もあります。夕張市のような自治体の財政が破綻すれば、地域経済にも大きな影響もあり、地域の社会サービスはカットされて生活そのものが継続できない人も増加します。だからこそ、地域金融機関は自治体サービスに対しても、新たな方法論を見つけていく必要があります。

私達が進める公民連携事業はその一つです。岩手県紫波町のオガールプロジェクトで建てられた「オガールプラザ」は図書館を中核としつつ民間テナントを併せていれて、そのテナント収入で施設を運営する事業モデルになっています。従来の公共施設ではそういったテナント収入などの事業性がないため、金融機関は関与が困難でした。
これまで金融機関の関与といったらPFI(private Finance initiative)といって、例えば10億円かかる開発費を一旦金融機関が肩代わりして、自治体が20年かけて毎年5000万+金利で返済していくみたいなモデルがせいぜいでした。これでは自治体が金融機関に借金して分割払いしているだけで、自治体の財政負担は変わらないか、もしくは市債発行金利より市中銀行金利が高ければ、その分負担は拡大すると言えます。しかし、オガールプラザは、しっかりと稼ぐ床をセットにしているため収入がある構造がつくれ、さらに金融機関が収入に応じて融資額を決めるために開発費も圧縮できました。図書館は人があつまる施設、その前で商売をやりたい人たちにはしっかりと家賃を払ってもらう、その家賃で公共施設維持費まで捻出するという構造を達成したわけです。

このように公共施設の建て方自体をかえてしまえば、税金だけで公共施設を建て、維持する必要はなくなります。つまり、金融機関の融資によって公共施設の建て替えを検討することが可能になるわけです。オガールプロジェクトへの融資は、第一地銀ではなく、戦後地銀である東北銀行が行いました。

今後はこういった地域経済、自治体財政に深く貢献できる地域金融機関が評価されるようになっていくものと思います。地方の金融機関への転職などを選択しようとした際にも、「地方金融機関はどこも一緒」と考えず、また「歴史や規模だけをみる」のでもなく、積極的に地域経済や自治体財政の支えとなる新たな地域金融機関を目指しているところを見極めることが大切ではないかなと思います。

参考: オガールプロジェクト http://ogal.jp/

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