地方創生の萌芽は、埋もれた資産の発掘・再定義にあり
GLOCAL MISSION Times 編集部
2017/06/30 (金) - 08:00

20代の時期に大手旅行代理店の法人営業の担当として、顧客である中小企業のオーナー、奥様、従業員と親交を深めてきた剣持氏。地域企業と密接なかかわりを育んできた剣持氏は「実は、身近なところに地方創生の萌芽がある」と謙遜気味に語ります。その“萌芽”につながる様々な“気付き”について、今回は語っていただきました。

法人営業、経営管理、中国生産拠点への出向を経ての気づき

僭越ながら私の略歴なくして、自身がいま感じている「地方創生の萌芽や気付き」についてお話しすることができませんので、最初に私がこれまで歩んできた道のりを簡単にご紹介いたしたいと思います。
20代の頃、私は旅行代理店の足利支店の営業課で法人営業を担当していたのですが、当時はバブル経済が崩壊した後のタイミング。その余波が自動車や家電のサプライヤーやメーカーが林立する栃木・群馬エリアの企業にも波及していた時期でした。もともと足利市は繊維の街であり、市の産業が縮小傾向にあったのですが、そこに追い打ちをかけるようにバブル崩壊が重なったため、福利厚生の一環として定期的に社員旅行を実施していた多くの中小企業が、業績不振から旅行を中止するようになります。とはいえ私は、営業として成績を上げなくてはなりません。そこで私は、俗にいう「プッシュ型」と呼ばれる営業スタイルで、お得意様に団体旅行を企画・提案し、旅行を実施していくことに注力します。

当時から20年ほどの歳月が流れましたが、栃木・群馬エリアで営業に7年携わった後に本社へ異動。中小企業診断士の資格取得を機に大手電機メーカーへ転職し、同社では中国生産拠点向けの経営管理支援を担当。その後は上海の子会社へ出向し、管理部長として経営企画、財務、人事総務、生産管理、現地スタッフ育成などから、細々とした雑務までをこなす多忙な日々を送っていました。こうした経験を経て現職に籍を置く運びとなりましたが、自身の経歴と照らし合わせながら、あらためて「地方創生」を考えたとき、私ならではの地方創生の“萌芽”ともいえる“気付き”がいくつかございますので、今回はその点についてご紹介したいと思います。

「旅」にまつわる人の還流変化

バブル崩壊を経て時代が様変わりした今日、外国人観光客誘致に基づく政府の後押しもあり、ここ数年は「インバウンド」と称される外国人観光客の急増が話題になっています。そうした局面と照らし合わせながら「旅行」というカテゴリーを考えてみると、20年前と今日では様々な面で大きな変化がみて取れます。

■変化01/日本人が海外に赴く旧来の「アウトバウンド」から、海外から日本に観光客が訪れる「インバウンド」に注目が集まっている
■変化02/知りたい情報が瞬時に入手できるインターネットやSNSの普及によって、目的・指向・観光スポットが多様化している
■変化03/目的・指向・観光スポットの多様化に伴い、交通網が整備されていないエリアや、これまで話題に上らなかったスポットにも高い集客が実現している
■変化04/観光協会や大手旅行会社に長らく根づいているアウトバウンドの発想・枠組みに限界が生じている
■変化05/地元の方々が“当たり前”とする埋もれた事象に、外国人観光客が高い関心を示し、それが日本人にとっても改めて魅力が再認知されるようになっている

上記のように、旅行にまつわる変化を少し挙げてみただけでも、日本人が海外へ出かけてブランド品を買いあさる……、国内の有名観光地に海外・国内から人が押し寄せる……といった動向はひと昔前のものとなり、SNSの普及、旅のスタイル、価値観、指向、目的の多様化といった要因によって「旅」にまつわる人の還流が様変わりしています。つまりはこうした変化のなかから、地方創生の萌芽が見出されるのではないかということなのです。

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身近に存在する埋もれた魅力を発掘・再定義する

旧来の観光旅行といえば、旅行者側であれば「旅先の有名観光スポットに行く」。観光地側であれば「いかにして従来からある観光施設、観光地に来てもらうか」という発想・枠組みがオーソドックスでした。しかし今日では、その地特有の文化や特産品を目当てに、過去にない数の人々が世界中から押し寄せる現象や、無名だった地域の零細企業に海外視察団が訪れることも珍しくありません。
さらにはSNSやテレビ等の広告によって、それまでまったく知られていなかった山・滝・岩・池・神社仏閣・樹木などが、一転、景勝地やパワースポットと化し、脚光を浴びた途端に続々と人が押し寄せる現象も数多く報告されています。

実際に、手付かずの自然が残る栃木県足利市の渓谷奥地に「名草巨岩群」と呼ばれるスポットがあることを、7年間足利で生活していた自分もまったく知りませんでした。当然ながら「名草巨岩群」は、どの旅行誌を開いても立ち寄りスポットとして名前が上がることがない場所だったのですが、昨今のパワースポット流行りを受けてか、多くの観光客が訪れるようになっている話を地元の人から耳にしたばかりです。
このように、地元の人とって「ただの岩」という認識だったものが観光スポットとになりうるような、「地域にとっては当たり前の埋もれた魅力」は意外と身近に存在するのではないでしょうか。それらの埋もれた魅力を、上から目線ではない客観的な目線で、点から線、そして面へ変化させていくサポートがあれば、それは地方創生の一助になるはずなのです。

エピソードを整理し、味付けを加えて、話題を提供

次に、ふたつの例をあげたいと思います。
今日「今治タオル」は日本人のみならず、世界の人をも魅了する優良製品ですが、今治で実際にタオルを製造する企業名は知らずとも、「今治タオル」のブランド名は多くの人に認知されています。当然ながらその地で事業を展開する既存の企業同士ともなれば、特産品を集積するにあたって利益が絡み合うことが類推されます。というのも、こうした利権の絡み合いが、点から線、そして面へ変化させていく取り組みの障壁となった例が、過去に数多く存在しているからです。しかしながら、時代の「変化」を読み取る?その地に息づく技術、魅力を発掘・再定義する?その地の産業を集積・連合させていく……といった第三者目線のサポートとデザイン力があれば、既存の埋もれた資産を、観光特産に昇華させることはできるはずなのです。「今治タオル」はまさしくその好例といえるでしょう。

さらに、東京などでここ数年話題になっている倉庫リノベーションをはじめ、地方においても古民家リノベーションも顕著な例でしょう。倉庫リノベーションは東京の下町や郊外に残っていた倉庫をリノベーション(既存のものを再定義)し、オシャレなカフェやショップに生まれ変わらせることで高い集客を実現した事例ですが、この発想は東京だけでなく、多くのものに活用できる「再定義術」となることでしょう。

このように、その地が有する文化・技術はもちろん、特産品、自然物、建物それぞれが有するエピソードを整理し、ちょっとした味付けを加えながら、話題を提供していく……。こうしたプロセスを踏むことで、「その地域で埋もれている資産が新たな観光・特産品になる」といった、思いもよらなかった魅力に昇華できる可能性は大いにある、と思うのです。

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無名の自然物や事象を発掘・再定義し、地域資産を点から線、そして面展開させながら地域の魅力に昇華させていく

旅行代理店の営業に従事していた際には、地域企業のオーナー様の様々な思いに触れ、その後は営業とは異なる管理部門の奥深さ、さらには大手電機メーカーの中国拠点への出向時には、拠点の縮小・撤退に伴う現地従業員の解雇、退職手続きなどに携わってきた私は、地域企業が直面する様々なシビアな局面に思いを馳せるようになります。

その思いとは、例えば大企業であれば人材配置においても、海外出向、地方転属など適材適所の対応を講じられますが、地域企業では、欲しい人材が容易に補充できないばかりか、逃げ場すらありません。つまり、これから先もその地域で生きていく強い覚悟をもって経営と対峙し、天塩にかけて育てた会社をいかに継続、成長、承継していくか……といった経営手腕が求められることになります。こうした点から私は、強い覚悟で経営の舵を切る地域企業のオーナー様を、20代の頃の一営業だった時の自分とは異なる目線でサポートしてさしあげたい……という気持ちが強くなっていったのです。

何より、既存の枠組みや概念にとらわれない視点によって、埋もれた資産を発掘・再定義、面展開していくことが、私の新たな使命であるとも感じています。 今後は、人材還流による事業承継・拡大、課題解決、販路拡大など、地方再生にかかるソリューションと平行させながら、「無名の自然物や事象を発掘・再定義し、地域資産を点から線、そして面展開させながら地域の魅力に昇華させていく」といった取り組みを介して、地域企業のオーナー様と信頼関係を構築しながら、地方創生の取り組みに邁進してまいりたいと思っています。

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