首都圏で活躍している人材を地域企業の経営幹部人材として紹介し、地域企業の収益改善を通じた賃金上昇及び雇用拡大を実現する──それが、日本人材機構が持っているミッションです。実際、どのような形で地域企業に関わっているのかを紐解くとともに、見えてきた課題を中心にお話したいと思います。
地方への人材還流のために必要なのは丁寧な伴走
日本人材機構は人材を通じて地方創生を実現するために政府主導で設立された会社です。私たちが手掛ける案件のほとんどのお客様は地域企業であり、これまで首都圏から経営幹部人材の受け入れを行ったことがない会社が大半です。そのため、受け入れる地域企業にとってこの行為は、心理的な抵抗が非常に大きいものとなります。これに対し、弊社の特徴は何かと考えてみると、人材紹介会社において通常想定されるプロセス(企業を訪問し人材要件を特定すること、面談を重ねてフィットする人材を探索すること、紹介後の候補者のフォローすること)のひとつひとつを丁寧に行っていることではないかと思います。
具体的には、地域の金融機関や監査法人、外部アドバイザーなどから、地域企業をご紹介頂き、まずは、経営者様に対して困っていることはないかというヒアリングを行います。その際は、企業訪問の前に可能な限り集められるだけのデータを収集・精査・検討し、業界や企業について徹底的に調査し、どのような方向性に進むべきかという仮説をもちつつ、ヒアリング及びディスカッションを行なっています。そして、どんな経営課題があって、今後どういう方向に舵を切ることが会社にとっていいのか、そのためにはどんな人材が必要かというディスカッションを繰り返しながら、幹部人材の紹介やコンサルティングサービスの提案の精度を高めていきます。(ディスカッションの結果、特に人材の話にならないこともあります)このプロセスはとても時間がかかる部分ではありますが、その後のソリューションの実行を考えるには、もっとも有効かつ効率のいい手段なのではと考えています。
弊社が紹介する人材のミッションを明確にするために事前のコンサルティングを通じた受入体制の整備、紹介人材が着任後に早期に独り立ちして、新天地で活躍できるようにするためのフォローアップも行います。弊社が紹介する人材に対して、地域企業側からの期待値が高いケースも多いのですが、首都圏からいきなり地域企業に転籍してすぐに100%の実力を発揮することは、難しいこともあるので、微力ですが、このような活動を通じて、企業と候補者の信頼関係構築のお手伝いをしています。
地域企業の陥る構造的で根深い問題
「昔はよかったが今はそういう時代ではない。」私たちが地域企業の経営者とディスカッションを行っていると頻繁にこのフレーズを耳にします。(この言葉自体はお酒の席などでよく聞く話ですが・・・)地方により格差はありますが、人口減少による消費者・労働者減が加速し、経済規模の縮小が進み、外部環境は厳しくなっていることは全地方に共通しているので、この発言を多く聞くこと自体に違和感はありません。本当の問題はそのあとです。通常、外部環境が変化(悪化)した場合、ビジネスのモデルを環境変化に合わせるように方向転換をしていく必要があるので、「昔はよかったが今はそういう時代ではない。だから○○の方向に転換する、新たに○○をする」としていかなければなりません。しかしながら、地方においては「昔はよかったが今はそういう時代ではない。だけどこのまま頑張るしかない、このままでもなんとかなるはず」というニュアンスであまり動かないケースが多いと感じます。私たちのお客様には地方の名士として、地元では知らない人がいない企業も含まれておりますが、そういった企業であっても例外ではありません。いくつかの実体験を振り返って、この問題を考えてみた時に、構造的で非常に根深い問題だということが自分なりに理解できました。
(変革できない企業の行動サイクル)
地方経済縮小・人口減少⇒企業の売上・利益の減少(特にサービス業は顕著)
⇒売上・利益維持のために本部人材の削減⇒本社機能(企画・人事・経理・システム等)の人員不足
⇒本来変革の旗振り役となるはずの本社が機能しない
地方経済縮小・人口減少⇒企業の売上・利益の減少(特にサービス業は顕著)
⇒お金のかかる投資をしない(しようとしない)⇒新たな業務(事業)への導入コストを払わない⇒ITや技術が進む中で変化に対応できない
以下は、特定企業の話というわけではなく、多くの企業様がかかえる共通の課題の一例とご理解下さい。
1.本社人員不足により、本社機能が企業運営上の最低限の機能のみ
本社機能の役割を大きく区分すると、会社の事務管理機能/企画機能に区分できます。経理機能でいえば、日々の伝票記帳・決算書作成・売掛金の債権管理等が前者、管理会計の強化・KPI設定やKPIに基づくPDCA管理を徹底し、将来の打ち手を検討するのが後者のイメージです。また、人事機能だと、毎月の給与計算・振込、社会保険料の計算等が前者、人事評価や人材育成制度構築・将来を見据えたローテーションや人員登用計画の策定が後者のイメージとなります。前者は経理・人事のいずれにおいても会社運営に欠かせない業務であり、“短期的な”優先度が高いことは言うまでもありません。しかし、後者の機能が欠如した場合、機動的な戦略策定・実行ができず、企業の“中長期的”な成長は阻害され、弱体化に陥る大きな要因となります。本来もっと中長期的な思考ができる体力があるにもかかわらず、短期的な思考にとらわれた行動を続け、知らず知らずのうちにこのような事態に陥っている企業は思ったより多いのではないかと思います。2.思い切った投資や改善に踏み切れない
この問題の最もわかりやすい例がシステム投資だと思います。私自身この分野に詳しいわけではありませんが、IT化・自動化が進んだ現在において、単純作業に関しては人がやるよりITの方が早く、正確なのは常識となっています。また、非効率を排除するために、システム連携やデータ連携をはかる必要があり、クラウドやリモートを活用することで社内外にて効率的に情報共有が可能です。成長企業においてはほぼ例外なく、一定の基幹システムやシステム環境に対して、投資を行いますが、地域企業ではこれがなされず、10年以上昔のシステムがアップデートされずに使用されているのをよく見かけます。システムという目に見えないものにお金を払いたくないという気持ちは理解できる部分もありますが、この点を改善しないとより時代から取り残されるという危機意識を醸成していく必要はあると感じました。
以上のような問題意識を強く持ったのは、私がこれまで上場企業の本社機能(管理部門)の方と接する仕事が多かった為かもしれません。しかし、多くの地域企業が抱える問題であり、改善していくべき点だと思います。そのために私ができることは、企業側に対しては、本社機能拡充や課題に対する投資の必要性を訴え続けること、首都圏の人材に対しては、地域企業で働く上での役割を明確にすること、ひいては、地方で働くイメージを持っていただくことしかないと信じています。それができれば弊社のミッションの達成につながるのではないか──弊社に参画して1年間経過し、そんなことを考えながら地域企業様の伴走を続けていきたいと考えています。
>>>こちらもあわせてご覧ください。
地域企業の変革に向けての取組とは!?/地域企業の「伴走者」となるために〈後編〉