大学卒業後、公益法人の立ち上げを経て、デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社(DTVS)に参画、2017年にはデロイトトーマツグループ最年少事業部長に就任した前田亮斗さん。DTVSをインフラのような会社にすることで、誰もがどこにいても新しいことにチャレンジできる環境や社会を創っていきたいと思い立ち上げた、地域イノベーション事業部は、日本のベンチャーが抱える課題を解決し、新しいイノベーションや事業が次々と生まれる循環システムを作り出すべく始動。前編では、事業部の設立背景と目指す世界観についてお伺いしました。
挑戦する人とともに未来を拓く。社内ベンチャーからのスタート!
デロイト トーマツ ベンチャーサポート(以下、DTVSと記載)は、ベンチャー企業の支援からスタートし、現在もそれを中心に事業を展開しています。「挑戦する人とともに未来をひらく」をミッションに掲げ、ベンチャーだけでなく領域を広げて、イノベーションを軸に様々な活動を行っています。
DTVSは監査法人の100%子会社で、休眠会社を復活させ、社内ベンチャーとして立ち上がりました。監査法人が支援するベンチャーは上場直前のすでに儲けが出始めている企業となりますが、実際は起業する前から儲けを出すまでが大変なのです。そこを支援していこうというメンバーが集結し、始動しました。
デロイトトーマツグループ全体を見渡しても、DTVSは比較的若いメンバーによる組織で、新しいチャレンジをさせていただいていると思います。日本で創ったモデルをデロイトのインフラにレバレッジをかけることで、世界中に展開していくことができれば、世の中をよりよくできるという思いがあり、組織や事業の規模を拡大させながら、展開しています。
日本で最も多くのベンチャーを支援。大企業や自治体との連携も強化
DTVSの事業内容は大きく3つのパターンがあります。1つは、その名のとおりのベンチャー支援。創業以来、全国約3000~3500社ほどの国内企業を支援しており、日本では最も数多くのベンチャーを支援している会社だと思います。広くベンチャー支援を行ってきましたが、最近では、もう少し深い支援をすることに力を入れ、ベンチャー企業の顧問を務めるケースも増えている状況です。
その一方、足元で対応しているビジネスとして2つのパターンがあります。1つは、大企業の新規事業のコンサルティング。もう1つは、国や自治体の取り組みへの支援です。具体的にはベンチャー、イノベーション、創業、産業政策のような事業テーマを受託する形で支援をしています。
活動範囲は全世界。ネットワークを活用して国内外に事業を展開
監査法人トーマツは全国に40拠点あり、そのうちの23拠点にDTVSの人員を配置しています。この23拠点で47都道府県のすべてをカバーしており、全国規模で展開しています。
また、海外については、世界有数のコンサルティングファームであるデロイトのネットワークとして、全世界に約150拠点。その中でイノベーションが活発な7拠点と連携し、日本から出張する形でその国をカバーしています。7拠点のうち、シリコンバレーとシンガポールには特に力を入れており、シリコンバレー、シンガポールそれぞれに日本人の駐在員を置いています。全国規模、グローバルで事業を展開しています。
新しい事業やイノベーションが生まれる循環システムの構築が使命
一つひとつの支援ももちろん大切ですが、私たちが目指している世界観は、一言で言うならば、イノベーションエコシステムの構築。エコシステムとは、ベンチャーを中心に様々なプレイヤーと機関が連携することで、新しい事業やチャレンジがどんどん生まれてくるような仕組みや循環を創るということです。
一例として、アメリカと日本を比較した場合、ベンチャーやチャレンジャーに対する投資金額が全く異なります。日本では、目指す出口の殆どがIPOになりますが、実際にはそんなに簡単なことではありません。IPOを目指して、エクイティファイナンスという手法で資金調達をしても、なかなか上場できず、苦しんでいる起業家が多くいます。
起業家には、その事業を一生かけてでもやっていきたいという起業家と、0から1を立ち上げるのが得意な起業家の2種類がいると思っています。
前者の場合は、IPOを目指して頑張っていけばいいのですが、後者の場合はIPOを目指す場合もありますが、IPOした後の次の展開が難しくなる場合があります。あくまでも一例ですが、アメリカのようにM&Aがもう少し増えれば、IPO以外の出口の選択肢が増え、ベンチャーと大企業の距離がもう少し近くなります。大企業の中に新規事業が生まれることもあるため、そういった意味でも、M&Aを増やしていくといった活動も行っています。
このような資金調達やM&Aの話はあくまでも一例ですが、イノベーションや新しい事業がどんどん生まれるような仕組みを創っていくことが、私たちが目指しているところです。
異分野の架け橋となること。プラットフォームであることの意義
我々は「イノベーションエコシステムの構築」を目指して活動をしていますが、そのアプローチには大きく2つの方向性があると思っています。1つはベンチャーや大企業、国・自治体に対して、個別の支援やコンサルティングを提供すること。もう1つは「ベンチャー×大企業」、「ベンチャー×官公庁」といった、異分野の"かけ算"を実現していくということです。
監査法人が母体となるDTVSは金融庁の監督下にあり、ベンチャーに直接投資することはできません。逆に言えば、多くのベンチャーとお付き合いでき、ネットワークも広範囲に持っています。監査法人という意味で社会的な信用があるため、大企業や国・自治体、メディアなどいろんな方とお付き合いできることが強みでもあるわけです。ベンチャーと大企業、ベンチャーと国・自治体など、要素と要素をつなぎ合わせるプラットフォームのような活動を行っていくことが、イノベーションエコシステムの構築につながると考えています。
世界のベンチャーと世界の企業や自治体をつなぐインフラとなる
要素と要素をつなぐプラットフォーム事業としての活動の一つに「モーニング・ピッチ」があげられます。「モーニング・ピッチ」とは、大企業とベンチャーの事業提携を生み出すことを目的に、テーマに沿ったベンチャー5社に登壇していただき、プレゼンテーションをしていただくイベントです。
朝7時からの開催にも関わらず、毎回およそ100~150名の方にお越しいただいています。3年間で約200回開催していますが、大企業とベンチャーの提携が資本業務提携を合わせて100件以上生まれています。ここから上場した企業も10社以上にのぼります。東京を皮切りに仙台、名古屋、大阪、京都など全国で定期的に開催し、地方の場合は50~100名の方にお越しいただいています。
現在は海外にも展開し、イスラエル、シリコンバレーでも定期的に開催しており、シリコンバレーでは「SUKIYAKI」という日本的なコミュニティネームで実施、シリコンバレーの最先端の現地ベンチャーが日本企業の駐在員向けにプレゼンテーションを行い、両者の事業提携を目指しています。
大企業とベンチャーのオープンイノベーションの動きはグローバルで進行しており、日本でもかなり進んできたという印象がありますし、海外には私たちのようなコンサルティングファームは数多くあり、同様に大企業とベンチャーを結びつける企業やサービスも多く生まれてきている状況です。
一方で、諸外国と比べた場合、日本では官公庁・自治体のような、所謂パブリックセクタ―とベンチャーとの協業がそれほど進んでいないことが課題としてあげられます。そのような課題解決のための取り組みが、官公庁・自治体向けの「パブリック・ピッチ(Public Pitch)」です。
昨年は、国土交通省観光庁と連携させていただき、全国8箇所で開催しました。企画時に8箇所で実施して1件提携が生まれるという仮説のもと進めましたが、実際は20件ほどベンチャーと自治体の事業提携に向けた話が進んでいます。
例えば、9言語対応の訪日外国人向けのメディアを運営しているベンチャーが鹿児島県や兵庫県篠山市と提携しています。
以上のような事業を通じて、オープンイノベーションのインフラになりたいと考えており、今後も、世界中のベンチャーと世界中の大企業とをつないでいく様々な取り組みを行っていきます。