広島市に本社を置き、スポーツ用品や自動車用関連部品など、革新的な商品を開発・製造しグローバル市場に提供する株式会社モルテン。社名「モルテン」は、英語のmelt(溶ける)に由来。主軸の「ゴムを溶かす」に加え、「古いものから脱皮して新しいものに生まれ変わる」という気概が込められているといいます。事業への想いや今後の展望について、代表取締役社長 最高経営責任者 民秋清史さんにお聞きしました。
―まず、会社概要についてお聞かせください。
1958年に創業しました。現在スポーツ用品事業、自動車部品、医療・福祉関連用品、マリン用品・産業用品事業の4つの事業があり、多様な商品をグローバル市場に提供しています。バスケットボールはロサンゼルスからパリまで11大会連続、ハンドボールは3大会連続でオリンピック公式球として、シッティングバレーボールは東京から、車いすバスケットボールや車いすラグビーは7大会以上連続で、パラリンピックで採用されました。
サッカーのAFCアジア予選の試合球にも採用されています。こうした、国際連盟に公式試合球を提供するのは、アジア企業で初めてです。
また、1人でバスケットボールのシュート練習が効率的にできる「B+シューティングマシーン」の開発・販売や、フットボールを通じて子どもたちに学習やスポーツの魅力を体感してもらい、体験格差を解消することを目的に、組み立て式のサッカーボールを作る、教育とスポーツをかけあわせたプログラム「MY FOOTBALL KIT(マイ フットボール キット)」などの新規プロジェクトに取り組んでいます。
また、沖縄では一般社団法人Arch to Hoopを運営しており、バスケットボールを通して子どもたちがあきらめることなく自分の可能性を広げられる未来をつくるため、体験格差解消の取り組みをNPOと一緒に始めるなど、従来のボール屋さんから脱却して、新しいスポーツの価値を再定義しようという活動も行っています。
自動車部品事業では、ゴムと樹脂を中心とする製品を開発・提供しており、マツダ株式会社様の「取引成績優秀賞」を史上最多の10年連続でいただきました。
Sound(音)、Vibration(振動)、Flow(流れ)に特化した高機能部品の開発のための研究開発を進めています。タイ、中国、メキシコに工場を、ベトナムに物流拠点をおき、グローバル市場に製品を提供しています。他にもアメリカ、ドイツ含めて、6カ国約3,500人が働いています。
―本当に幅広い領域ですね。医療・福祉機器事業やマリン・産業用品事業はどのようなことをされていますか?
医療・福祉機器事業では、2010年から2020年まで東京大学さんの「ライフサポート技術開発学(モルテン)寄附講座」で基礎研究していました。当時担当されていた教授が石川県立看護大学さんへ移られたこともあり、その後は石川県立看護大学さんと提携して共同研究講座を開設するなど、学術的な知見と実証データで成長してきました。褥瘡(とこずれ)防止用エアマットレスを中心として、手すり、車いすなど、病院、施設、在宅にて人々の動きをサポートする製品を開発、提供しております。
マリン用品・産業用品事業は、3年前に新たな事業部として独立し、浮桟橋や橋梁用の免震ゴムなど、建築・土木分野の「防災」「減災」「環境」の視点で製品の生産・販売とサービスの提供をしています。
―御社の強みについて教えてください。
4つの事業があることが最大の強みです。それぞれの部門の強みを合わせていくと、「攻めの部分」で開発が強くなり、自ずと成長するんです。「守りの部分」でもキャッシュフローが良くなります。例えばコロナショックなどがあると、自動車関連の売上は落ちますが、医療・福祉やスポーツ関係は落ちる波が遅い。景気の影響が事業によって分散するので補完し合える点は利点です。また、当社の場合、海外との契約があり、ドル払いもドル売りも多いので、為替の影響を直に受けにくく、いろいろな打ち手があります。ですから、従業員も安心して働けるのです。
もう一つ、当社はホールディングス化せず、一つの企業の中で全く違うビジネスを同ブランドで展開しています。我々はオンリーワンを目指して独自性を追求する会社であり、独自性のある組織体を持とうということで、分社化していません。その代わり、事業の垣根を越えて人、モノ、カネ、情報という経営資源を最大活用する「Crossover(クロスオーバー)」を大切にしており、これによって新しい価値を生み出せるのが強みです。
このクロスオーバーの象徴となるのが、開発陣を1ヵ所に集めた、テクニカルセンターmolten [the Box]です。エンジニア同士の目隠しを少なくして、お互いが何を作っているのかを話し合えるような環境を目指してつくりました。中でも象徴的なのが、オーク材で作った大階段「Giant Steps」です。普通に階段を昇り降りするのではなく、大きい段差と小さい段差を作り“違和感”を生むことで、考える時間を生み出し、新しい発想を引き出そうという狙いがあります。また、食堂もミーティングもできるような場所にしました。多くの人と食事をすることでコミュニケーションが生まれ、情報のやり取りができると考えていて、そういった面でも、建物の投資というより、人への投資だと思っています。
エントランス前にはGiant Steps
―御社は羊を飼っていると聞きました。それも創造力を生み出す試みなのでしょうか?
はい。東京ではできない事をやろうということで、羊を3匹飼っていて、非常に可愛いです。瀬戸内海や世界遺産が見える立地で、自然と調和した開発拠点を作りました。エンジニアが有機物に触れることで新しい発想が生まれるのではないか。だったら、動物が面白いのではないかと。それに、「羊がいる会社」で皆さんに覚えていただけますよね。動物や植物が人の創造性に与える影響は大きいですし、緑が増えれば、広島も豊かになっていくと思っています。
―経営において、大切にしていることをお聞かせいただけますか?
面白い仕事を社内に持ってくることが重要だと思っています。世界で勝とうと思ったら好きなことやらないといけないですよね。例えば、世界で一番美味しいパンを作ろうと思ったら、一日中パンのことを考えて苦にならない人でないとできないと思います。モルテンでは、「マイキャリデザイン」といって、「やりたいこと」「できること」「期待されていること」の3つの視点から自分のキャリアと向き合うことをしています。自分を内観して、1年間でやりたいテーマを事業化するという戦略研修を10年ぐらい続けていて、いくつか実現している事業もあります。そういった事業での達成感はひとしおです。
―人材にも力を入れているのですね。今、どのような方を求めていますか?
主にエンジニアを探していますが、やりたいことが明確にある人、明るく、変化を受け入れ楽しめる人が良いです。我々は学習する組織を目指しています。情報や機械が劣化していく中で、新しいことを学んでいけば、時代が変わっても乗り越えられると思っています。
ですので、IターンやUターンをして広島で落ち着こうという方は、モルテンには合わないかもしれません。優秀なエンジニアは海外に行きますから。モルテンには私を含めて海外経験者が多く、海外を知らないとグローバルビジネスがわからないと思っていて、グローバルを目指す人材を求めています。
―今後、チャンレンジしていきたいことはありますか?
ロボティクス技術は、製造・製品側の両方で注力していきたいです。製造は、工場内を自動化していかないと生き残れないと考えています。また、製品では、「シューティングマシーン2.0」の開発を進めており、新しいモーター技術や、IoTでcloudにデータを飛ばす仕組みを導入しています。さらに、データを基に判断していく「データドリブン」も重視していくつもりです。データで物事を考えていけるようになるといいなと思っており、これらを活かした、組織能力開発に力を入れたいです。
シューティングマシーンにロボット工学を取り入れた新規ビジネスを検討中
―最後に、広島への転職に興味を持たれている方にメッセージをお願いします。
世界的にハードウェアは勝てる可能性が高いですし、モルテンは質的にも量的にも成長している実感があり、従来のローカル企業とは違う形を目指しています。我々と一緒に製品を世界中に届けることに挑戦したい方がいれば、ぜひ、お待ちしています!
広島県企業の求人や、企業・暮らしに関する情報は、WEBサイト「kakeru広島」をご覧ください。
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