仕入れ先開拓と品質管理が成功のカギ
熊本市内から車で約40分。島原湾に面する熊本県宇土市にカネリョウ海藻株式会社はある。「より上質な海藻を」と市場、漁協、漁師など国内外200カ所以上から色もの海藻やもずく、めかぶを買い付け、今や年間2万トンもの海藻商品を販売している。
強みはこの「仕入れ力」だ。足で探し、信頼関係を築き上げてきた仕入れ先があるから、たとえ不作で収穫量が少ない年でも安定して商品を供給できる。スーパーやコンビニエンスストアなど約1,000社に卸す1,500種以上もの製品の生産にいつでも対応が可能なのだ。
また品質を保ち、商品の安全性を高める加工技術を自社で開発しているのも大きな特徴だ。独自技術によるTHC(高木式加熱冷却機)で加熱殺菌することで、素材そのものの色や風味、食感を生かした加工に成功している。
先代の社長夫婦2人だけで創業し、熊本県の名産「オゴノリ」の仕入れ、販売からスタートして約60年。独自の仕入れルートと加工技術、そして一軒一軒に電話をかけて契約を獲得してきた取引企業との絆を武器に、今後の海外展開に勢いをつける。
カネリョウ海藻株式会社
1954年に先代社長・高木良一氏(現会長)が個人で海産物卸売業を始め、1967年に高木商店として海藻加工業をスタート。熊本本社工場、仙台工場、沖縄の協力工場で年間2万トンの海藻商品を生産。国内約1,000社の取引先への販売、海外26カ国への輸出で年間70億円、グループ企業あわせて170億円を売り上げている。2014年に「究極のこぶ茶」を開発、2017年からは海藻コスメ開発も手がけている。
- 住所
- 〒869-0402 熊本県宇土市笹原町1544番地
- 創業
- 1960年(高木商店
- 従業員数
- 42名(グループ計330名)
- 資本金
- 3,000万円
1954年07月 |
現会長、高木良一氏が個人で海産物卸売業を始める |
1967年05月 |
高木商店として海藻加工業をスタート。工場、貯蔵タンクを新設 |
1977年04月 |
有限会社高木商店(資本金300万円)を設立 |
1984年05月 |
原藻貯蔵タンク増設(原藻600トン貯蔵可能) |
1988年06月 |
本社工場の増設、海藻乾燥加工場新設 |
1993年09月 |
カネリョウ海藻株式会社設立 |
1999年06月 |
味付けもずく製造ライン増設稼働 |
2004年05月 |
めかぶ製造ライン新設稼働 |
2011年03月 |
仙台工場新設 |
2004年05月 |
めかぶ製造ライン新設稼働 |
2011年08月 |
東京営業所開設 |
2011年09月 |
大阪営業所開設 |
2012年09月 |
仙台営業所開設 |
2013年09月 |
本社工場がSQF(Safe Quality Food)を取得 |
2013年10月 |
「三陸宮城県産めかぶ」で農林水産大臣賞受賞 |
2014年11月 |
めかぶ製造ライン新設稼働 |
2004年05月 |
第25回全国水産加工品品質審査会で「美ら海もずく」が主婦大賞受賞 |
2015年12月 |
「究極のこぶ茶」が料理王国100選2016に選出 |
2016年11月 |
第27回全国水産加工品総合品質審査会で「匠のもずく(三杯酢)」が大日本水産会会長賞を受賞 |
2016年12月 |
「究極の梅こぶ茶」「幸せの黄色いお砂糖」が料理王国100選2017に選出 |
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新工場完成直前に起こった震災
国内の取引先が増えるにつれ、熊本本社工場以外の生産拠点が必要になった。興味を持ったのが宮城県だ。めかぶの一大産地であり、関東方面への流通の便も良い。もともとあっためかぶ工場が立ち退く話を聞いて、すぐに工場設立に乗り出した。操業開始予定は2011年3月下旬。そこに、東日本大震災が起こる。
「工場は山の上にあり津波の被害は受けなかったのですが、設備は修理が必要でした。立て直しまでは約3カ月かかる。新たに雇用した20名の従業員はただ待つしかありません。余震は続き生活の不安もあると聞いたので宿泊所を用意して熊本に呼び、工場稼働までの就労を可能にしました」と話す高木良將取締役。
無事に工場が稼働し、めかぶ商品の生産は軌道にのる。当初20名だったグループ会社の従業員は80名を超え、2015年にはめかぶ部門だけで30億円以上を売り上げて業界のトップへとのぼりつめた。また、同社の看板商品「三陸宮城県産めかぶ」は第24回全国水産加工品創業品質審査会で出品総数722品のなかから最高賞の農林水産大臣賞を受賞している。「私たちの工場が宮城県の雇用創出につながり、賞までいただけたことは震災後のうれしいニュースでした」
加工のために機械装置も自社開発
同社が業績を伸ばし続けているのは安定した供給体制を整えていることに加え、品質を保つ商品製造ラインを確立している点にある。「私たちの商品がおいしくて、安心安全なのは当然のこと。品質管理が99点ではだめなのです。常に100点でなければならない。だからこそ人材育成には力を入れています」と話すのは入社23年目になる中村貴己工場長だ。
部門ごとに作業手順・確認事項にこまやかなチェックポイントを設け、担当者が責任を持って管理。現場では指さし確認をする。当たり前のことを当たり前にやる、この基本の徹底なくして品質管理はありえない。また国際的な衛生管理の手法「HACCP」を導入し、熊本本社工場では食品安全・品質管理の国際認証規格「SQF(Safe Quality Food)」を取得した。
さらに、同社の製造ラインで使用する機械にも工夫がある。加工業者向けの機械装置を使うのではなく、自社でTHC(高木式加熱冷却機)を開発したのだ。海藻に電気を通すことで海藻自体が導体となって発熱し、風味や食感をそこなわずに殺菌できる。「加工業者はほかにもありますが、自社で機械の開発まで手掛けているところはほかにはありません」
海外ニーズに応える商品開発をスタート
販路と設備を拡大し、「海藻のことならカネリョウに聞け」といわれるまでに成長した同社。近年はヨーロッパ、アメリカ、東南アジアと世界26カ国への輸出も開始している。ただ、輸出額は年間約1億円とまだ少ない。年間2万トンもの海藻を仕入れても、国内だけでほとんどを消費してしまうのだ。本格的に海外展開をすすめるにあたり、今の仕入れ量から海外向けの新商品をつくらなければならない。
「海外には国内と変わらない需要があります。海藻サラダ用の商品のほかにも海外の健康志向を取り入れた海藻麺を開発する予定です。また、イスラム文化圏ではハラルフードとして海藻の認知度が上がっています。国内でハラル認証を取得することもできますが、海外に拠点を置いて認証を得ることで、海外の消費者に安心感を持ってほしいと考えています」と高木氏。
海藻販売額で国内トップクラスの企業が世界のトップシェアを狙うには、今後の開発力がカギを握る。既存商品のリニューアルで品質を改善し、各国の文化に合わせた新商品をつくり出す――海藻のパイオニアならではの経験とアイデアで世界に打って出る。
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スーパースターを生み出すために
「実家が海藻加工会社を経営しているのに、海藻が嫌いでした」と話す高木氏。料理として食べたことはほとんどなく、水揚げされた海藻のにおいを同級生が「臭い。そんなもの食べんやろ」と言っているのを聞いて、ますます避けるようになっていた。
転機は高校時代に訪れる。「そういえば、父の会社はどういう商品をつくっているのだろうか」とふと思った高木氏は、初めてカネリョウの商品を食べた。選び抜いた素材を使い、丁寧に下処理すれば臭みもない。「なんておいしいんだ」と感じた。
「私のような食わず嫌いの子どもたちを減らしたい。業界の未来のためにもファンを増やしたいと思いました。学生時代に飲食店でアルバイトをしていたこともあり、自分のつくったもので『おいしい』と言ってもらえる喜びを、カネリョウで感じたかったのです」
大学卒業後は福岡県内の大手食品メーカーに就職し、ブランディング、商品設計について学ぶ。やがて「『カネリョウといえばこれ』と言える看板商品を開発したい」「良質な海藻の味をもっと多くの人に知ってほしい」との思いが強くなり、カネリョウに入社。オリジナル商品の開発に乗り出した。
海藻専門の会社が「昆布茶」を手がける
注目したのは昆布茶だ。海藻専門の会社なのに昆布茶はラインアップになかった。また、お湯に溶かして飲むだけでなく、調味料として浅漬けやパスタなど和洋さまざまな料理にも使えると知ってもらえれば、消費拡大にもつながる。30代~40代の主婦をターゲットに定め、ユーザーが気軽に使える商品をつくりたい、と考えた。
「昆布茶をつくったことがないので、最初は塩水のようなものができあがってしまいました。あらゆる会社の昆布茶を取り寄せて試飲し、社内で200回以上試作したのです。ようやく、だしではなくお茶としておいしく飲める『海藻屋』の昆布茶が完成しました」
満を持して、2014年10月に「究極のこぶ茶」「究極の梅こぶ茶」を発表。羅臼昆布をベースにカツオやニボシ、しいたけでバランスをとり、淡路島の海藻からつくった藻塩、国産きび砂糖でコクを出している。パッケージは若い世代が手にとりやすいスタイリッシュなデザインを採用した。
昆布茶で海外のソムリエをうならせる
販路は通信販売と百貨店、セレクトショップに絞った。毎月店頭に立ち、自ら消費者に説明しながら販売する。「800円という価格を考えると、スーパーにただ置いているだけでは売れません。素材にこだわり化学調味料無添加であること、料理にどのように使うのかを丁寧に伝え、良さをわかってくださる方に届けたいと思っています」
素材の良さ、味わいが消費者に評価され、やがて飲食業界専門誌「料理王国」が選ぶ食の逸品「料理王国100選」に選出された。また、ベルギー・ブリュッセルに本部を置く国際味覚審査機構(iTQi)によって毎年開催される「The Superior Taste Award」で2016年に優秀味覚賞の2つ星を受賞している。
嫌いだった海藻にのめりこみ、気づけば海藻が苦手だった同級生が「カネリョウの商品はおいしい」と結婚式の引き出物に使ってくれるようになっていた。子どもたちに海藻の本当の味わいを伝えるため「だしソムリエ」の資格を取得して、小・中学校での食育活動にも積極的に取り組んでいる。「いつか、海藻のおいしさを味わえる飲食店も出したい」と、高木氏の挑戦は続く。
カネリョウ海藻株式会社 取締役
高木 良將
1989年9月生まれ、熊本県宇土市出身。東海大学付属熊本星翔高等学校卒業後、日本経済大学・福岡キャンパス卒業。福岡市の大手食品メーカー勤務を経て、2014年4月にカネリョウに入社。マーケティング本部マーチャンダイザー、取締役に就任する。主に商品開発・提案を手がけ、2014年10月には「究極のこぶ茶」「究極の梅こぶ茶」を発表。2016年10月に自社商品の通販サイトを立ち上げる。
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「日本一の会社」の広報へ
東京造形大学を卒業後、ソニーミュージックに就職した植野譲太氏。父の体調不良をきっかけに熊本に帰郷し、大手化粧品通販会社へと転職を果たした。入社後はお客様満足室に配属。元々広報企画・運営の業務に興味があったが、なかなか携わる機会がなかったという。
「28万名もの顧客がいる大企業だったので、業務の傍らで企画を出しても、社内で認可を得るまでにさまざまな過程を経なければなりませんでした。広告物制作から配送、クレーム対応までカスタマーサービス企画の業務が多かったのです。もっと広報としての仕事に携わりたいと考えるようになりました」
そのころに出会ったのがカネリョウだった。地元に「日本一」の会社があることに驚いた。BtoBを中心に成長してきた会社だが、「今後はBtoCのマーケットを掘り起こしたい」という課題があり、しかも企画・広報の社員を募集している。「ここで、自らのアイデアで市場を切り開きたい」と転職を決めた。
チャレンジを後押ししてくれる社内風土
2016年7月に入社し、まずは10月に通販サイトの立ち上げ、広報プレスリリース強化、リクルート強化に着手。次に手がけたのは2014年に販売を開始した「究極のこぶ茶」の販促だ。「おしゃれで素材にこだわった昆布茶」というブランドイメージを考え、県内のTSUTAYAでの取り扱いを打診すると、併設のカフェでの販売が決定した。
また、2016年から販売を始めたカンボジアのパームシュガー「幸せの黄色いお砂糖」は、「幸せ」というキーワードから結婚式の引き出物としての需要があると考えた。熊本市内のホテルと交渉し、ギフト商品の一つとして取り扱ってもらうことになったという。「どんな場所で誰にアプローチをするのかを考え、自らの行動で結果が出るのが楽しい」と植野氏は話す。
さらに、同社のリクルートにも携わり、全国各地を飛び回りながら学生たちに会社説明を続けている。企画・広報という職種でリクルートにも関わることは「仕事でのステップにつながる」と考えている。「会社の魅力をつくる、伝えていくという意味ではすべてが『広報』といえます。今後、日本や世界で高みを目指すなら、部署間のさらなる連携が必要ですから」
可能性を秘めた素材の魅力を世界に広めたい
今は各エリアの社員や部門が協力して開発を進めている「海藻スムージー」、海藻コスメの発売、東南アジアを拠点にした海外展開と、やりがいのある事業に取り組んでいる。
商品の広報だけでなく新商品企画・開発、プロモーション、新卒採用と想像以上に幅広いフィールドで働くことになったが、「企画・広報という職種にこだわって、この会社を選んで本当に良かった」と植野氏。どれも自らの知識やアイデアを生かせること、すべての業務が連携して事業として前進することに喜びを感じているという。
「カネリョウに入社して知ったのですが、海藻は日本近海だけでも1,000種を超えるといわれています。しかし、成分や特性はすべてが解明されているわけではない。その意味でも、夢がある素材だと思うんです。これからも『海藻といえばカネリョウ』と言われるように、国内外での認知度向上に貢献したい」と使命に燃えている。
カネリョウ海藻株式会社 マーケティング本部 主任
植野 譲太
1982年1月生まれ、熊本県熊本市出身。東京造形大学を卒業後、ソニーミュージックに就職。その後、熊本県にUターンして化粧品通信販売会社でお客様満足室に所属し、広報、販売、カスタマーサービスを経験する。2016年7月にカネリョウ海藻株式会社に企画・広報担当として入社。通販サイトのリニューアル、広告宣伝の企画・販売促進、新卒採用に携わる。
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