観光DMO・DMCに求められる人材/日本版DMO、その役割と可能性・第3回
GLOCAL MISSION Times 編集部
2017/11/06 (月) - 08:00

2017年3月に「観光立国推進基本計画」が閣議決定し、2020年までに世界水準の「日本版DMO」を100組織形成するとされ、日本の観光産業を大きく成長させる「地域観光経営」がますます注目を集めています。今回は、そんな地域観光づくりの舵取りを担う法人「DMO」に求められる組織や人材の要素について解説していきます。

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1.観光DMO/DMC(以下、「DMO」)の現実

■事業性の検討が必要なDMO
DMOは、営利・非営利、または自治体主導から民間主導まで、現状、幾つかのタイプが存在しています。実際には自治体主導型で半営利のDMOが非常に多く、成り立ちとしては、観光協会の機能をスライドさせた組織や、地域の観光機能を統廃合して設立した組織が多数派です。自治体が主導する事で日本版DMOの登録は短期間で加速的に進んでいますが、一方で、これらの多くは事前の事業・組織づくりが十分でないまま設立を迎えてしまっているのも事実です。今日のDMOでは、地域観光資源の商品化による集客UPと、地域産業の活性化という狙いはほぼ共通だと思いますが、事業性の検討が十分ではないDMOが意外と多いという現実は注視する必要があります。

■ハコモノとしてのDMO
現在の観光産業の急速な成長は、国と自治体、民間企業が協力した成果である事は疑う余地はありませんが、ことDMOについては、国の強力な推進力と自治体の地元を想う気持ちがあったからこそ、このスピード感で拡大を続けているのだと思います。ただ、基本的に自治体主導の組織づくりとなる為、圧倒的に多いのが、先進事例や先行事例を研究しての組織づくり。地域独自の観光資源を開拓し、地域を差別化して、域外に売っていく事業は、本来、地域毎に独自性があるはずですが、組織自体は類似の形となってしまっています。設立ありきで、DMOが「ハコモノ」のように全国に作られる現象がしばしば起きてしまっているのです。

2.DMOにおける経営人材と組織の現状

■想定以上に難しい地域観光経営
日本版DMOの登録を国が始めて以来、Iターン、Uターン、形は様々ですが、多くの経営人材が首都圏から地方へと地域観光経営の世界に飛び込んでいます。まだ、DMO制度のスタートから間もないため、拙速な評価はできませんが、外部人材に対する反応も見え始めてきています。実際、地方に行くと、外部人材に対する期待も大きいのですが、反面、妬みや反発もある程度覚悟しなければなりません。更に、大企業であれば、組織でサポートしてくれますが、地方に行けば自分で解決しなければならないことだらけ。そして、全ての時間の流れは地方の方が緩やかで、自分の思うように進まないことが多い。これらの環境に適応する事ができないと、成果を出すことが難しいのが地方です。大企業で実績豊富な人材がその適応に苦労している姿が意外と目立ちます。

■地域の重鎮を組織に入れすぎて機能不全
一般的に地方は首都圏より人間関係が濃く、地域の中での縦や横の関係などの調和を図ろうとする傾向があります。ある組織では、地元の重鎮の方々に配慮し、それぞれに役員に入ってもらうことで、DMO事業への協力を約束して頂きました。ただ、その中の2人は元々地域でも対立関係にある人物で、案の定、ほどなく主導権争いが発生し、スタッフも巻き込まれ仕事にも影響が出る事態に。「船頭多く、船進まず」。調和を意識しすぎた結果、本来の狙いとは違って本末転倒な形になる事もあり、事前の組織設計は軽視できません。

■人材の個性を殺す行政型の組織運営
DMOは自治体主導の成り立ちが多い為、行政のルールが適用される事が多いのも事実です。首長の考え方に依るところが大きく、レベル感はまちまちですが、意思決定や運用まで、自治体が作成した事業計画や予算に縛られる場合があります。あるDMOでは、最終面接の際の「自由にやって、地域を変えて欲しい」という話が、就任後に「計画以外は余計な事は何もしないで欲しい」と言われた例もありました。また、自治体主導型のDMOでは、意思決定をする際に、担当部局を含む自治体内部の調整が必要な場合もあります。この場合、スピード感が削がれるだけでなく、中には、稟議書が回っている過程で、本来の企画内容から大きく変質してしまい、望むような効果が得られないこともあります。

■寄せ集め集団の組織運営
更に、現状のDMO組織を見ると、かなりの部分を出向者に頼っているのも事実です。地域との接点には、自治体からの出向者、旅行業の部分は大手旅行代理店の出向者、プロモーションの部分は大手広告代理店の出向者、マーケティングの部分は大手総研の出向者などなど。短期的に成果をあげようとして専門人材を適材適所で組み上げる組織づくり自体は間違いではありません。ただ、本来、中長期で地域で作り上げていくべき「地域観光経営」のノウハウやネットワークの蓄積が出来ず、出向者が戻ったらリセットされてしまう危険があるのです。中長期での組織づくりと人材育成への取り組みが今、求められています。

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3.DMOに求められる人材とは?

■DMOにおける人材ニーズ
好調なインバウンドに比例して日本の観光産業は成長し続けており、現在は、毎年一万人単位の新規雇用が生まれています。なかでも、宿泊・飲食・物販領域における成長は著しく、結果、グローバル対応ができる人材を中心に、人材ニーズは実務人材・幹部人材・経営人材の全てのレイヤーで発生しています。これに対し、地域観光をリードする組織としてのDMOも「人材」の課題を抱えていますが、主要ポストは出向者が多く、量的には制限されています。正直、DMOでは、観光業界全体における人材ニーズほど規模は大きくありません。実際は質的なニーズと言っていい状況です。しかし、今後、収益の柱となる事業開発を行いながら、DMOが現在の補助金体質を抜け出し、成長局面に入る中で、人材ニーズの拡大は可能だと考えています。

■地方で活躍している人材に共通する要素
2016年2月のDMO登録開始以降、全国のDMO組織やその様々な支援者と話をする中で浮かび上がってきた「地方で活躍しているDMO人材」に共通する要素ですが、以下の通りです。
・自ら地域コミュニティに入り、汗をかくことを厭わない人材
・多様なステークホルダーの中、地域内の自らのサポーターを最大化できる人材
・相手が日本人、外国人に関係なく、ネットワークを自らの手で開拓できる人材
・事業をゼロから作っていくことが好きで、かつ実行出来る人材
・ビジョンと情熱を武器に、他人の心に火をつけることができる人材
これらの要素を持った中で、専門性を持っていれば鬼に金棒と言えるでしょう。
どうでしょうか?これらの要素が当てはまる方はDMOに向いているかもしれません。

■観光DMO経営(幹部)人材の必要条件
最後に、DMO経営(幹部)人材の必要条件について話したいと思います。この部分については、様々なメディアやイベントで著名な方々が議論されています。本当に様々な諸説があります。旅行業界の経験や宿泊・飲食・物販等の経験を重視する説もあります。ただ、私が観光業界と人材組織支援業界の双方に関わる中で、地方での業務を通じて出した一定の仮説があります。それは、前項の人材要件を前提に、先ずは、ミッションとして、地方の為に働きたいという「地方指向性」、スキルとしての「マネジメントスキル」、そして、メンタリティとしての「JKK」です。JKKとは、①情熱、②気合い、③根性、の3つ(JKKはそれぞれのアルファベットの頭文字をとっています)。そして、この「JKK」こそが、旅行業や宿泊・飲食・物販業の専門性よりも、DMO経営(幹部)人材の必要条件として何より重要な要素として考えています。
単身、地方に入っていくとき、先ずは仲間を作る必要があり、それには、自分の想いを伝え、地域の人々の心を動かす事が必要です。「情熱」はその武器になります。また、地方では妬みや価値観の違いから、概して想定外の反発やトラブルが発生します。その度に、気持ちが落ちていては、前進する事などできません。突破できる「気合い」が原動力になります。そして、最後に「根性」です。地方では、大企業や東京などと比べると、時の流れが遅く、物事の進捗に時間が掛かります。地域とのコミュニケーションや事業開発など、何事にも粘り強く取り組んでいく「根性」が必要なります。

以上がDMO経営人材として私が考えている必要条件となります。「地域観光経営」という領域は日本では、ある意味、新しい産業です。旅行業や宿泊・飲食・物販業はそこに含まれますが、それはイコールではありません。したがって、その専門家も多くは存在しないのです。
現状、日本の観光産業を大きく成長させる「地域観光経営」の世界では、経営人材が不足しています。我こそはという方は、是非、我々と一緒に新しい産業創造に挑戦して頂ければと思います。

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