繊維ごみの削減を目指して
大阪市西区にある株式会社ウィファブリックは、2015年3月、繊維商社出身の福屋剛代表取締役社長が設立した。繊維・ファッション業界で長く問題視されている繊維ごみの課題に向き合い、解決策につながるビジネスを起こした。
事業のひとつは「RDF」(Re-Design Factory)。再生工場を意味するブランドだ。倉庫に眠っている生地や糸などの在庫を仕入れ、企画・デザインを施して新たな商品に再生させていく。これまでに高級綿の残糸で織り上げた今治タオル、高級岡山デニムの余り布を使ったエプロンやクラッチバッグなどを商品化してきた。
もうひとつは「SMASELL」(スマセル)。繊維在庫を売りたい会社とそれらを買いたいバイヤーとをつなぐ、繊維・ファッション業界に特化した、業界のためのECサイトだ。大量の在庫に頭を抱えるアパレルメーカーや商社のデッドストック解消の手段として注目され、利用者が増えている。
繊維ごみという社会問題を軸にどのように業界の課題解決を図るのか。デザインとアイデアとコンサルティング力を武器に、この難題に挑むウィファブリックのビジネスに焦点をあてた。
株式会社ウィファブリック/WEFABRIK Inc.
社会問題化している繊維製品の大量の廃棄処分に目を向け、繊維・ファッション業界の課題解決を目指して2015年に設立。基幹事業となる繊維・ファッション業界のBtoBフリマサイト「SMASELL」事業をはじめ、在庫を仕入れて自社ブランド商品をプロデュースする「RDF」事業、繊維・ファッション業界の課題をデザインというフィルターを通じて解決するブランディングコンサルティング事業を手がけている。
- 住所
- 〒550?0003 大阪府大阪市西区京町堀1-14-24 タツト靭公園ビル7階
- 設立
- 2015年3月9日
- 資本金
- 2,500万円
- 従業員数
- 8名(アルバイト含む)
2015年03月 |
株式会社ウィファブリック設立。「RDF」ブランド事業開始 |
2015年10月 |
ブランディングコンサルティング事業開始 |
2016年11月 |
新オフィスに移転 |
2017年07月 |
繊維・ファッション業界に特化したBtoBサイト「SMASELL」をオープン |
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未使用の生地や糸の在庫を買い取って商品化
繊維製品の廃棄処分量はなぜそんなに多いのか。福屋氏は「繊維・ファッション業界は川上から川下まであらゆるフェーズで在庫が残る構造になっているからです」と言う。メーカーの工場は生産ラインを止めることなく製造し、小売店は陳列する商品を欠品させないように在庫を持つ。間に入る問屋や商社も小売店の機会損失を防ぐために余剰在庫を抱える。
それらの在庫は売り時を逃すと商品の価値を落とし、安値でたたき売られるか廃棄処分場行きとなる。そんな繊維在庫を活かすためにつくられたのが同社の「RDF」というブランドだ。倉庫に眠る未使用の生地や糸、廃材を仕入れ、デザインの力でクオリティーの高い商品を生み出す事業である。
たとえば同ブランドの今治タオルは某大手紡績メーカーが在庫として抱えていた高級綿糸サンホーキンを利用したものだ。「余った2トンの糸を有効に活用する方法がないかという話をいただき、うちが安価で引き取って今治タオルをつくったのです」と福屋氏。
企画とデザインを同社が手がけ、糸を今治のタオル工場に持って行って織り上げてもらう。モダンな柄と鮮やかなブルーが目を引くカラーバリエーション、優しい肌触りの質感と優れた吸水性のタオルが完成した。
その他にも高級岡山デニムの余り布に染め師がペイントを施したエプロンやクラッチバッグ、オーガニックコットン100%のブランケットなど、職人技が光るデザインや心地よさを追求した素材の商品が並ぶ。「在庫を利用したというだけで、生地そのものの質は良いのです」と福屋氏が言うように、クオリティーに敏感な消費者が同社の「RDF」ブランドに目を留め始めている。
繊維・ファッション業界に特化したBtoBのECサイト
2017年7月、同社は新たな事業を立ち上げた。売れ残った在庫を企業間でシェアしようというコンセプトでつくられた「SMASELL」というECサイトである。繊維・ファッション業界の在庫を企業間で売買できる、業界初のプラットフォームだ。
福屋氏は立ち上げの経緯を語る。「『RDF』がメディアに取り上げられたときに、『うちの在庫も買い取ってほしい』という依頼を多くの企業からいただきました。でも、ブランドのコンセプト上『RDF』では商品を取捨選択したので依頼の多くを断っていたのです。業界の課題を解決すると言いながら、自分たちが取捨選択をしている。それでは解決につながらないと感じました」
「それなら必要としている企業と企業をマッチングさせればいい」。そうしてできたのが「SMASELL」だ。この事業は大量在庫に悩む大手商社やアパレルの関心を引き、サイトオープン前から多くの人が会員登録した。オープンから約3カ月、現在も登録者数は増えている。「その数字はいかに繊維在庫の問題が根深かったのかを示しています」と福屋氏は言う。
流通量拡大とグローバル展開を目指して
「SMASELL」が評価される理由のひとつは出品基準だ。同社は出品物の質とサイトの健全性を保つために、会社の規模や取扱商品、取引関係などをもとに出品者の登録基準を設定している。もうひとつの理由はサイトの利用料。出品者もバイヤーも登録時の費用は無料のため、コスト面のハードルが低い。
「商品売買が成立して初めて手数料が発生する仕組みなので、私たちが積極的に売っていかないと手数料が入ってこないのです」。そのため、福屋氏をはじめとする同社のメンバーは出品者に代わってサンプルを持ち、バイヤーのもとへ商談に出かける。プラットフォームの構築のみにとどまらず、売り手と買い手をリアルにつなぐ営業活動にも力を注いでいる。
「『SMASELL』は当社の基幹事業になっています」と福屋氏は話す。5年後の2022年には流通総額65億円を目指している。「SMASELL」で業界の在庫が流通し、繊維ごみが資源として見直されて廃棄物が削減されていく。それを国内だけでなく海外にも展開していく。同社が描くのは社会的意義の大きいグローバルなビジョンである。
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無駄の多い業界を変えたいという決意
国内で170万トン、世界で8,000万トンといわれる繊維製品の廃棄量。「その量は自分自身が想像していたよりもはるかに多い」と福屋氏は語る。その問題に目を向け始めたのは前職の繊維商社時代だった。
福屋氏は大学を卒業後、繊維商社で10年間、インテリア製品の企画生産販売に携わった。「大量のものを企画して、つくって、販売して、残して、捨てることを私自身がやってきたんです」。自分が働いている業界が環境に大きな負担をかけている、その事実に何とも言えない罪悪感があったのだという。
もともと商社に入ったときに「ゆくゆくは自分のブランドを持ちたい」という思いがあった。繊維・ファッション業界で自分のブランドを持つことには華やかできらびやかなイメージがつきものだが、福屋氏は同時に、この業界の負の部分にも気づく。
「きらびやかなブランドを立ち上げるのは自分の性に合わないんじゃないか」。次第にそんな思いが強くなっていった福屋氏は、業界の課題に目を向け始めた。「繊維・ファッション業界の課題はいろいろありますが、自分自身がいちばん強く感じたのが廃棄の問題でした」
「無駄の多い業界を変えたい」。その思いが明確になった2015年、福屋氏は独立を決意し、株式会社ウィファブリックを設立する。
ビジョンに共感する人たち
事業のスタートは自宅マンションの一角からだった。「RDF」のために仕入れた在庫が部屋に山積みになり、自分が通る場所すらなくなっていく。商品が完成するとそのスペースはやや広くなるが、次の商品のためにまた新たな在庫が積み上がる。「在庫の問題を解決するつもりで始めたのに、自分の家が在庫の山になっていた」と苦笑しながら当時を振り返る。
資金面の苦労もあった。「起業して間もなくお金が尽きかけた時期があり、その時がいちばん苦しかったです。数百円で生活する日もありました」。しかしそれを越えると事業が波に乗るようになる。大阪市のベンチャー企業支援プログラムに採択され、福屋氏の考えに賛同する投資機関と出会い、資金調達につながった。
投資機関も取引先も社内のメンバーたちも、周囲に集まってくる人々は皆、福屋氏の理念とビジョンに共感した人たちばかりだ。「そういう人たちに助けられている」と福屋氏は感謝の言葉を口にした。業界がもたらす環境負荷を、自分にできるところからビジネスの力で解決していく。福屋氏が発信する思いは多くの人々を引きつけている。
収益を伴うビジネスを
福屋氏は設立の年にブランディングコンサルティング事業をスタートさせた。繊維・ファッション業界の課題をデザインというフィルターを通して解決していく事業だという。顧客となるのは商社、小売店などアパレル業界の川上から川下まで。製品の企画やプロモーションに新たな活路を見いだしたい企業を対象に、グラフィックやWeb、空間建築、アプリやシステム開発など多様な手段を用いて解決策を提示している。
「繊維ごみをなくすというビジョンにスポットが当たりがちですが、私たちはビジネスをやっているので、課題を解決して初めて収益につながるんです」と福屋氏は言う。事業の生産性と収益性は重要なポイントだ。「たとえビジョンに共感しても商品が良くないと消費者は買わない。だから『RDF』でもデザインや質にはかなりこだわっています。同様に『SMASELL』も出品者とバイヤーの収益につながることを重視しています」。安定した収益の確保があってこそビジョンは実現するという考えだ。
今後の展望を尋ねると「まず、2022年に上場」という目標を示す。そして「今のビジネスで業界が良くなり、さらにグローバルに展開して、その先に地球環境が良くなることも達成できたら、それはもう本当にうれしいです」と、設立時の思いをあらためて語った。
株式会社ウィファブリック/WEFABRIK Inc.
代表取締役社長
福屋 剛
関西外国語大学在籍時に40カ国以上を単独で旅する。同時期に「URBAN RESEARCH」にてショップスタッフ、ニューヨーク留学時にアパレル関連のアシスタントバイヤーとしての経験を積んだ後、瀧定大阪株式会社(繊維商社)に入社。同社にて約10年間、繊維製品の企画・生産・販売までを一貫して行い、これらの経験のなかで、大量に企画・生産・販売し、残したものを自分自身の手で廃棄処分することに疑問を感じるようになる。2015年1月に退職後、さまざまな課題を抱える繊維・ファッション業界の現状を変えるため、同年3月に起業する。
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繊維商社での経験を活かして
セールスマネージャーの赤松義健氏は繊維業界での営業経験が長い。大学卒業後に繊維の専門商社に入社し、生地の営業や貿易部門の営業に携わった。その後、転職しながらも繊維業界か営業職のいずれかに軸足を置いてきた。営業職ではトータル11年のキャリアだ。
ウィファブリックという会社の存在は人材紹介会社を通じて知った。会社のことを調べながら繊維業界の課題解決を図ろうとするビジネスに共感を覚えた。自分自身も繊維商社時代、大手ブランドメーカーへの営業を通じて同じ疑問を抱いていたからだ。「ブランド品は簡単に価格を安くできません。アウトレットに回りにくいんです。売れ残った商品は大半が焼却処分です。焼却の費用もかかるし、環境にも良くない。廃棄処分はマイナスだと目の当たりにしてきました」
繊維業界で仕事をしてきた経験があるからこそ、福屋氏の語るビジョンとビジネスモデルが腑(ふ)に落ちた。ビジネスチャンスに満ちた会社だとも実感した。そして赤松氏は複数の転職先候補のなかから同社への入社を決める。
「SMASELL」の認知度と機能性向上を担う役割
現在携わっている仕事は「SMASELL」の営業だ。業界で注目度が高く会員登録者数は順調に増えているが、認知度向上の余地はまだまだ大きい。出品者とバイヤーを訪れ、このサイトの意義、サービスの内容、システムの使い方などを説明して利用者の新規開拓を行っている。
また、サイトの機能性向上も赤松氏が担う役割のひとつだ。いずれはバイヤーの数量交渉や価格交渉もサイト上でオートマッチングしていけるのが目標だが、現在はまだ発展途上だ。バイヤーからさまざまなニーズを引き出し、サイトの機能を上げていくのが今後の課題だという。
出品者に代わりサンプルを持ち歩いてバイヤーに商品を売り込む仕事も行う。「そもそも在庫として残ってしまったものを出品していただいているので、売りやすい商品ではないんです。ただ、商品の価値を見直したり価格が折り合ったりすれば、必ずどこかに需要はあります」。一朝一夕にマッチングできないもどかしさを感じながら、営業職で培った粘りを武器にビジネスチャンスを探っている。
各分野のスペシャリストたちとともに自分を磨く
営業ではまず相手からの信頼を得ることを心がけているという。繊維業界での経験があるとはいえ、今の仕事で出会う人はほとんどが初対面。「早く覚えてもらえるように工夫をしています。お客様の要望に素早く対応することはもちろん、関西人なので会話のなかに小ボケを入れてみたり」と笑う赤松氏。知識を広げることも大切にしている。ニュース、本、アニメなど、ジャンルを問わず多方面の話題を自分の引き出しに収めているという。
同社に入ってまだ間もないが、この会社のビジネスに携わっていることにやりがいを感じている。「福屋をはじめ、この会社にはシステム構築、デザイン、ブランディングなど各カテゴリーのプロが集まっています。少人数でありながらスペシャリストたちが事業をやっている会社だと思います」と魅力を語る。
毎日学ぶことは多い。11年の営業実績を自負しながらも、これまで経験しなかった分野を学んで成長できることがモチベーションになっている。「会社が展開しようとしているビジネスを、自分にできることからやっていく。5年後の上場目標に向けて一戦力になりたいですね」と抱負を語った。
株式会社ウィファブリック/WEFABRIK Inc.
セールスマネージャー
赤松 義健
2006年、大阪経済大学卒業。繊維専門商社で2年間レディース向けのカットソーの生地営業に従事。その後4年間、貿易部問にて専門店やSC(ショッピングセンター)ブランド向けにレディースアパレル製品のOEM・ODM営業に従事し、企画から納品までの一貫した対応を行う。同社退職後、IT系企業の営業や繊維資材を扱うメーカー機能のある商社にてメーカー営業に従事。数社を経験した後に福屋氏と出会い、アパレル業界における各企業の課題である在庫問題を払拭するという社会貢献性の高いウィファブリックの事業に共感を覚え、2017年10月に入社。
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