日本人材機構で金融機関担当に籍を置く佐々木琢也氏。500社超の中小企業経営者と面談してきた同氏が考える「地域銀行」「地域企業」の関係性から見えてくる現状とは? そして、地方創生のラストワンマイルになる「適切な人材ソリューション」とそれを引き出す「適切な事業性評価」について語っていただいた。
人材ニーズからみた地域企業と地域銀行
私は大学時代から企業の経営分析に関心を持っていたこともあり、卒業後は中小企業金融公庫(現・日本政策金融公庫)に入庫。以来、500社を超える中小・中堅企業の経営者とお会いしてきました。ひと口に「経営者」といってもそのタイプは百人百様です。それぞれにこれまでの沿革に詰まった歴史やドラマがあり、経営者の考える理念・ビジョン、思考、人材に対する考え方は異なります。中小・中堅企業と対話する際には、その企業・経営者の違いを理解したうえでアプローチすることが必要です。
今回は、私自身のこれまでの経験をもとに、「地域企業」が求める「人材ソリューション」とそれを引き出す地域銀行の「事業性評価」について、お話ししたいと思います。
まずは、地域銀行を取り巻く現状や課題に目を向けてみましょう。
地域銀行は日本に106行存在します(内訳は地方銀行64行、第二地方銀行41行、その他銀行1〉。
地域銀行の特長、特に都市銀行との大きな違いは、地域銀行の事業領域が地域の経済圏と密接にシンクロしている点です。地域銀行は自らの営業エリアの企業や経営者らと密接なつながりのなかでビジネスを行ってきているため、われわれが、地域企業の経営者との接点を持ちたいと考えたとき、メインのソーシングルートは、地域銀行を通じて行うこととしました。
社内で育てる? 外部から採用する?
では具体的に、私たちはいかにして「人材の力」で地方創生をサポートしようとしているのか。まずは地方企業が抱える人材面での課題について考えてみたいと思います。
(ここでいう人材は、主に経営幹部人材のことを指しています)
「人材」について地域企業の経営者の最もよき相談相手として、地域銀行をはじめとする地域の金融機関が挙げられます。日常の与信取引のなかで、地域銀行はさまざまな情報を得ます。取引先企業がどういう問題に悩んでいるのか。売上があがらない(営業戦略・商品開発・マーケティングなど)、内部管理が弱い、自分の戦略が実行できない、後継者をどうするかなど、その悩みは経営全般にわたります。
その悩みを課題に落とし込んでいくと、「ヒト」に行きつくことが多いです。営業戦略を企画・実行できる人材がいない、管理面に強い人材がいない、自分の参謀となって動いてくれる人材が欲しい・・・。「社長の悩み」から「経営課題」が抽出され、「人材ニーズ」に繋がります。そうすると、その人材ニーズをどう充足するか。「社内の人材で賄うのか」「外部から採用することを検討するのか」といったプロセスを踏むことができます。
これまでは「経営的視点をもった人材が(都心から)地方には来てくれない」という先入観が地域企業にはありました。(そもそもそういった選択肢があることを知らなかったり、適切な人材情報・サービスが少なかったこともあります)。しかしながら、われわれの独自調査を通じて、「地方の企業で幹部人材として活躍したいという人材はいる」ということがわかってきました。地域を担う企業と志をもった経営幹部人材。その二つをいかにして「繋ぐ」ことができるかが、日本人材機構のミッションであります。
地域企業の人材ニーズ発掘のカギは適切な事業性評価にあり
これまでお伝えしたとおり、地域の企業・経営者は、多くの悩みを抱えています。それを、いかに人材ニーズに「変換」できるか。そのプロセスを実現するカギが、地域銀行の行う「事業性評価」にあると考えています。
通常、金融機関が企業に融資する際、一次的には、企業を財務データで評価します。財務データに基づく「スコアリング=点数」をベースに、担保・保証状況、将来PLから算出した返済原資の見通しなどを総合的に勘案し、融資決裁の判断を行います。
事業性評価は、「これまでの経営状況の結果」として算出される「スコアリング」だけではなく、より将来PLの予測能力に比重を置き、現状の事業性から予測される利益水準に基づいた与信判断を行う。さらに踏み込んで言えば、目指すべき経営状態と現状のギャップを埋めるために、どのような解決策(ソリューション)が必要なのかを共に考え、サポートしていくことに繋がると理解しています。「社長、売上が達成できていません」ではなく、「こうしたら売上が達成できます」への転換です。企業に処方箋を与える役割になるのですから、しっかりと事業の内容を把握する必要があります。そのためには、経営者と同じ目線で企業をみることが大切であり、その考え方が、事業性評価なのです。
わたしたちが目指すのは、つぎのような好循環です。
・地域銀行が、適切な事業性評価に基づき地域企業の経営課題を抽出する
・経営課題に対して地域銀行がソリューションを提供する
・経営課題の解決が地域企業の成長に繋がる
・地域企業の成長が地域の発展に繋がり、そこを地盤とする地域銀行が共に成長する
この過程で、地域銀行と地域企業との信頼関係がとても強固になると思います。
日本人材機構が提供する「経営幹部人材紹介」は、地域銀行が提供するソリューションの、「ひとつのメニュー」です。
事業悪化から再成長を果たした飲食チェーンの事例
ここで、私が取り組んだある事例をご紹介したいと思います。
【事例/伸び盛りの飲食チェーン企業の場合】
その企業は現在、年商約10億の飲食チェーン。若き経営者は、将来的に30億を目指したいという経営目標を掲げている成長企業です。
しかし、この企業は、過去、経営危機に陥っていました。飲食事業とは別のノンコア事業がリーマンショックを機に業績悪化。共倒れとなる危険性があると考えた経営者は、地域銀行に相談しました。
その地域銀行は、経営者や事業の優位性を評価し、単なる融資のみではなく、関連のファンドを活用し飲食事業のMBOを支援。結果として、飲食事業に集中できる環境を得た経営者は、その後、再成長を果たし、現在に至っています。
この事例から見えてくることは、地域銀行が提供する「ソリューションの質」により、その企業の将来が大きく変わったかもしれない、ということです。もし、両事業を抱えたまま、経営改善を行っていく再生プロセスを経ていたら、ノンコア事業の改善に注力をせざるを得ず、本業に集中できないまま、現在のような成長ステージに至っていないかもしれません。本事例のソリューションは、金融関係者や専門家から見ると、ごく普通のソリューションかもしれませんが、この企業のターニングポイントを支えたことは間違いありません。
本事例は、解決策が金融ソリューションでしたが、企業によっては、それが経営幹部人材であることも十分あるはずです。
地域企業もいろいろ。ソリューションもいろいろ。
地方に限らず、中小・中堅企業には多種多様な企業が存在し、そこに経営者がいます。
地域の働き場としての雇用を支え、地域発展とビジネス拡大を実現している素晴らしい経営者もいます。
また、低迷している老舗企業であっても、あるきっかけによっては大きく成長を遂げるポテンシャルを秘めた企業も数多く存在します。そういった地域企業の抱える経営課題に、一つ一つソリューションを提供していくことによって、その効果が地域に座布団のように積み重なり、地域経済の発展に繋がっていくと確信しています。
先にご紹介した【伸び盛りの飲食チェーン企業の事例】のように、求められる経営課題に適切なソリューションが提供され、結果として、数年後再成長を果たした企業事例はいくつもあります。
(いま、まさに、その飲食チェーン企業様から、成長を加速させる人材のご相談をお受けしているところです)
ご紹介した事例はごくごく一例ですが、こういったアンテナをもち、地域企業の成長発展にコミットしている銀行が増えてきたと感じています。
── 次回は、佐々木 琢也氏の第二回として〈地方企業が抱える「経営幹部人材ニーズ」〉をお届けします。