高齢化社会の医療介護問題と地方創生の関係とは
浅賀 桃子
2017/05/22 (月) - 08:00

日本は世界でも類を見ない超高齢化社会になっています。総務省の統計によると、高齢者の国内総人口に占める割合は27.3%と過去最高を記録しました(※1)。2050年にはこの割合が4割近くになることが予想されています。
また人口移動に関して、東京都5,423人、大阪府1,101人など24都道府県で転出超過となっています。仕事を定年退職した後に東京・大阪などから他都道府県に移り住む人が増えてきている様子が伺えます。
さて、高齢化社会につきものなのが「医療介護」の問題です。この問題を地方創生と合わせて考えてみましょう。

都市部での医療介護問題

日本ではこれまで、自立した生活が難しくなってから老人ホームなどの高齢者住宅へ入居することが一般的でした。しかし、急速な高齢化に老人ホームや対応できる専門家の確保が困難になっている現状があります。
厚生労働省の統計(※2)では、2014年の特別養護老人ホーム入所申込者(=待機者)は約52万人おり、5年前の統計結果に比べ10万人ほど増加しています。特別養護老人ホームの開設にあたっての運営資金は介護保険で多くが賄われており、国の財政悪化にもつながるため簡単には増やすことができません。また、入所待機者の多くは都市部に集中していますが、地価の高い首都圏では余計に開設が難しいという現状もあります。日本創成会議のまとめでは、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年には、首都圏の介護施設が13万人分不足するとの推計結果が出ています(※3)。

首都圏では医療介護のケアが難しくなりつつある点に加え、定年退職後などの第二の人生を地方で行いたい都心部の高齢者ニーズもあり、検討が進められているのが「日本版CCRC」なのです。

注目を集めつつある「CCRC」

CCRCという言葉はまだ聞きなれない人も多いかもしれません。CCRCとは、Community Care Retirement Communityの頭文字をとった言葉で、アメリカでは1970年代から増え始めた「高齢者地域コミュニティ」のことを指します。健康なうちからある地域に移り住み、医療介護が必要になってからもそのまま住み替えることなく継続的にケアを受けながら生活できるというメリットがあり、アメリカで浸透しているこの仕組みを日本でも導入しようという「日本版CCRC」構想が出てきています。
日本版CCRCでは、自立した生活が難しくなってからやむなく入居する従来型の老人ホーム等の高齢者住宅とは違い、健康なうちから入る地域コミュニティとしての働きを担うことが期待されています。高齢者は医療介護サービスの受け手としてだけ存在するのではなく、これまでの社会経験を活かし大学で授業を持つなど、可能な限り社会活動、生涯学習などで地域に貢献する、時には地域の支え手としての役割が求められるようになるでしょう。

リタイア前の世代から移住できる仕組みを

東京在住者の男女50代に調査した「地方への移住希望」結果によると、男性の50.8%(具体的な時期は決まっていない人も含む)、女性34.2%が移住を予定または検討していると回答しています(※4)。日本版CCRC制度が整ってくることで、これらの方々が積極的に移住できる環境ができることが期待できます。シニア層の「第二の人生」の場所だけでなく、健康で働けているリタイア前の世代から地方へ移住し、地域での新たな人間関係などを築きながら余生を引き続き移住地で過ごせるようになることが、これからの高齢化社会および地方創生の問題を解決する上で必要になってくると思われます。

新潟県南魚沼市では、市内の大学をCCRCの拠点にし、周辺に住宅や介護施設、飲食店やフィットネスクラブなどを整備する計画を全国に先駆けて進めています。東京から新幹線で約1時間半という立地に加え、学生の8割以上が世界各国からの外国人留学生である国際大学などもあることから、「グローバルITパーク南魚沼構想」推進に向けた協定を締結し、海外でソフトウェア開発事業を展開しているIT企業の呼び込みも進めています。単なる高齢者の介護施設の場所にとどまらない取り組みが魅力です。
都心から90㎞ほどと、車で1時間ほどの距離にある山梨県都留市でも積極的にCCRCプロジェクトを進めています。高齢者向け住宅建設を進め、市内の大学と連携し移住者が活躍する場を用意することにしています。移住者の受け入れ人数は1,000人を見込んでいます。福岡県北九州市では点在する空き家を活用し、移住者を受け入れる方針を打ち出しています。

これらの自治体の取り組みに共通する点は「高齢者だけのつながりにならず、若者を含めた多世代交流を実現するための拠点を整備しようとしている」ことにあります。元気なうちから移住し地方へ溶け込み、地域を盛り上げていける担い手になれれば、地方活性のメリットが出てくるでしょう。医療介護施設の確保、コミュニティを運用する上での大学や企業との連携、リタイア前の人材の雇用をどれだけ増やせるかなど課題もまだありますが、将来的に地方移住を考えている方にとってはこれからの動向に大いに注目していきたいところです。
 

※1 統計からみた我が国の高齢者(65歳以上) 総務省統計局 2016年9月18日
http://www.stat.go.jp/data/topics/topi970.htm
※2 特別養護老人ホームの入所申込者の状況 厚生労働省 2014年3月25日
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12304250-Roukenkyoku-Koureishashienka/0000041929.pdf
※3 東京圏の高齢者、地方移住を 創成会議が41地域提言 日本経済新聞 2015年6月4日
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS04H2N_U5A600C1000000/
※4 「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」の結果概要について 内閣官房 2014年9月19日
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/souseikaigi/h26-09-19-siryou2.pdf

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