政府が2017年6月に発表した「休み方改革」推進。働き方改革も現在進行形の中、休み方改革?と思われた方も少なくないのではないでしょうか。休み方改革と働き方改革の違い、想定されている目的やねらい、実現に向けて必要なことについて考えます。
休み方改革とキッズウィーク
まず、休み方改革とは何かということについて整理していきましょう。
政府は2017年6月に「休み方改革官民総合推進会議」の新設を発表しました。この背景のひとつには、日本が「休暇後進国」である現状が挙げられます。
厚生労働省の2016年調査によると、日本における年次有給休暇取得率は48.7%となっています。この割合は、世界的にみても最低水準です。
8月はお盆休みがあることから、高速道路や新幹線、飛行機などは非常に混雑します。お盆時期以外でも、有給休暇を活用すれば法制度的には休めるはずですが、現状は休暇取得時期が偏ってしまいがちです。
政府が今回打ち出した「休み方改革」においては、2018年度から「キッズウィーク」の導入が予定されており、大きな改革目玉となっています。キッズウィークとは、全国の小学校から高校までを対象に夏休みの開始を遅らせたり終了を早めたりする代わりに、他の時期にまとめて休みましょうというものです。例えば夏休み中の平日5日間分を新たに別の週に移すことで、夏休み期間とは別に連休を作ることができます。別に設ける予定の連休時期に関しては、地域によって時期をずらしたほうがよいだろうという考えより、各都道府県で日程調整をすることになりそうです。例としては、都民の日(東京都が1952年に制定した記念日。10月1日)や横浜開港記念日(6月2日。市内の小学校~高校は休校日)など地域で制定された記念日の前後を休みにする案が上がっています。
続いて、働き方改革との関係性についてみていきましょう。
働き方改革の主目的は、大手広告代理店の過労自殺などで広く報じられた「長時間労働」の是正、出産・育児等を考慮した柔軟な働き方の推奨、労働生産性の向上とされています。一方、休み方改革の主目的は長期休暇の有効利用に伴うワーク・ライフ・バランスの推進や地域活性化、および消費拡大の実現をはかるべく、自身の休み方を考えることにあります。先述のキッズウィークは、お盆休み前後に集中する夏休み期間の観光需要の分散、親と子供が休みを合わせやすくなり、子供と向き合う時間が確保しやすくなるだろうというねらいのもと、施策が検討されています。観光の面では、キッズウィークの導入により国内旅行消費創出効果が0.4兆円に上るとの試算もあります。
年次有給休暇取得率の向上
政府は先述の通り世界最低水準の日本の年次有給休暇取得率を、2020年までに70%にする目標を掲げています。さらに労働基準法の改正が検討されており、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者が年5日以上取得できるようにすることを、企業側の義務とすることが改正案に盛り込まれています。2017年9月現在正式成立はされていませんが、目標達成までの進捗が思わしくない現状を考えると、いつこの「有給休暇年5日取得義務法案」が成立してもおかしくないでしょう
この動きを見据えて、企業の中には有給休暇取得を全社的に推奨する動きが出てきています。ソニーは「フレックスホリデー」と呼ばれる、平日10日間(土日を含めると最長16日間)の連続休暇が取れる制度の活用を促進しています。日本航空でも、2017年夏より「ワーケーション」と呼ばれる制度を導入し、仕事と休暇を組み合わせることで有給休暇消化率100%を目指す取り組みを始めています。人手不足が叫ばれる中、消化率を上げることで多様な労働力を確保したいという思惑もみえます。
導入に向けた課題
キッズウィーク導入により年次有給休暇取得率があがり、ワーク・ライフ・バランスを向上させる…いいこと尽くしのように思えますが、課題もあります。
休み方改革は、キッズウィークや有給休暇取得だけで解決できるわけではありません。特に日本の企業の9割以上を占める中小企業では、少ない労働力で多くの仕事をこなさなければならない状態に陥っているところが大半です。仕事の量が変わらなければ、いくら休みが増えても、そのほかの日に長時間労働をすることになってしまうことになりかねません。
長時間労働が大きな社会問題になったことから原則午後10時から翌午前5時まで全館消灯が義務付けられた先述の大手広告代理店においても、社員からは「10時に帰っても仕事が減るわけではない」「仕事の持ち帰りが増えている」という声が出ており、根本的な改革となほど遠い様子が伺えます。また、学校教育自体への影響を懸念する声も聞かれています。
働き方改革や休み方改革の本来の趣旨を鑑みると、制度を新設するだけではなく「業務の属人化の見直し」など、これまでの業務の仕方を見直す必要性のほうが大きいように思います。そもそも誰のため、何のためのキッズウィークなのかということをひとりひとりが理解した上で業務効率化をはかることが先決と言えるでしょう。