「グローバル人材」という言葉が広く使われるようになっています。政府内でもグローバル人材の育成についてのさまざまな検討がなされ、経営のグローバル化が進行する近年は企業の人員募集でもよくみかけるようになっています。 筆者はキャリアカウンセラーとして、転職希望者から相談を受ける機会も多いのですが「グローバル人材」の定義について、多くの方が勘違いしているように感じることがあります。それでは「グローバル人材」とはどのような人のことを指すのでしょうか。
グローバル人材の定義とは
グローバル人材ときいて「外国語が流暢に話せること」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。外国語の中でも特に、グローバル経営の共通語とされる英語を話せること、TOEICのスコアをあげることなどが注目されがちです。企業の採用でもこの傾向はみられ、例えば楽天は入社時に原則TOEIC800点以上のスコアが求められます。その他、アマゾンウェブサービスジャパンやジェイティービーのグローバルエントリー部門ではTOEIC750点以上が応募要件のひとつとなっているなど、採用基準として活用されている会社が増えています。
参考までに、政府の「グローバル人材育成推進会議審議まとめ」(※)で整理されているグローバル人材の概念をご紹介しましょう。
要素Ⅰ:語学力・コミュニケーション能力
要素Ⅱ:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
要素Ⅲ:異文化への理解、日本人としてのアイデンティティ
上記からも、外国語が話せるといういわゆる語学力はもちろんあるにこしたことはないものの、それだけで「グローバル人材」とはいえないことが伺えます。
採用現場で求められるグローバル人材とは
海外市場の活発化などを受け、求人情報でもよくみられるようになった「グローバル人材」の文字。先述のTOEICスコアはあくまで採用基準のひとつであり、目安とするTOEICスコアに達していたとしても不採用になるケースは少なくないものです。
ここで、海外とのやり取りが頻繁にあるIT企業にて筆者が採用に関わった事例をご紹介します。当時採用されたのはTOEICスコア900点超で海外留学経験を持っているAさんと、英検3級レベルで海外留学経験なしのBさんでした。Aさんは日常会話レベルの英語力は問題なかったものの、広い視野に立った専門性や普段からの意識の向き方(日本の外に向いているかどうか)などの面で問題があり、現場をがっかりさせていました。一方、実はあまり期待されていなかったBさんが、現場も驚く活躍をみせたのです。Aさんと比べると文法もスピーキング力も劣るものの、積極的に海外企業とやり取りをし信頼を勝ち取ることができていたのです。Bさんには「狭い日本国内だけで満足してはいけない。積極的に海外からの情報を取得し、相手を知ろうとする努力をし、自分たちのビジネスに活かしていきたい」という前向きさがあったことが幸いしたのです。
上記は一例であり、もちろん各企業によってグローバル人材の定義は多少変わってくるものではありますが、多くは語学力に加え「異なる文化の方々と円滑なコミュニケーションをとるための適応力」「論理的な思考力」さらには「ビジネスセンス」を求めています。いくら日常会話レベルの英語ができたとしても、ビジネス上で使いこなせなければ意味がありません。筆者の経験からも、逆に日本語でしっかりビジネスができ最低限の語学力があれば、グローバル人材になり得るものだと考えます。
TOEIC500点未満でも、グローバル人材になれる可能性がある
英語を流暢に喋れるだけであれば、多くのビジネスパーソンが該当するかもしれませんが、論理的に考え、国籍も文化も異なる人々と建設的なやり取りを行うコミュニケーションスキルが求められます。そのなかで大切なことは、日本での当たり前を基準にするのではなく、日本について客観的な視点を持つこと、そして多様性を意識した上で物事を考えていく姿勢であると考えられます。
※グローバル人材育成推進会議 審議まとめ グローバル人材育成推進会議 2012年6月4日
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/global/1206011matome.pdf