DMOに懸ける想い/日本版DMO、その役割と可能性・第1回
GLOCAL MISSION Times 編集部
2017/06/16 (金) - 08:00

地方創生に関連したキーワードとして、「DMO」という言葉を見聞きすることが多くなりました。主として観光産業にまつわるもので、観光庁の後押しもあり日本各地で一種の流行にもなっています。日本人材機構では、「日本版DMO」を地方創生の重要な領域として捉え、地方と中央をつなぐ事業領域で実績を積んだスタッフを擁しています。その一人である創生事業本部ディレクターの田蔵大地にスポットを当て、キャリアをひもときながらDMOとは何か、その役割と日本人材機構との関わりについて本人のインタビューも交えて展開していきます。

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DMOは、地域が「稼ぐ力」を持つための推進役

──DMOという言葉はここ数年で目にする機会が増えましたね。日本人材機構でも地方創生・地方転職を進める上での重要な領域として、DMOを捉えています。ではそもそもDMOとは何なのか、そしてどんな役割を担っているのかを教えてください。

田蔵 地方創生にあたって観光産業を主眼に据えたとき、宿泊施設、交通事業者、飲食・商業、観光施設、行政など、いろいろな業種がそこに介在します。それらを取りまとめる役割を担うのがDMOなのです。「Destination Management&Marketing Organization」の頭文字で、観光庁のサイトによると、

日本版DMOは、地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人です。

とあります。地域が稼ぐ力を身に付けるための舵取り役です。いろいろな関係者の間を調整したりリーダーシップを持って観光事業を推進したり、という法人ですが、地域ごとに観光資源は異なりますから、一口にDMOと言っても地域の数だけ多様化しているのが実際のところです。

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──日本版DMOは、まだ提唱されてから日が浅いですね。

田蔵 観光庁が日本型DMOについての告知をしたのが2015年の11月、登録を開始したのは2016年2月からです。観光産業は地域への波及効果が高いので、地方創生を視野に入れた戦略として非常に有効なのです。国家的な取り組みとなっているわけですが、現状としてDMOに限らず宿泊、旅行、飲食、物販などのサービス事業領域においては中核となる経営人材や実務人材が圧倒的に不足しています。そういった専門人材を全国に供給できる仕組みを確立しよう、実施しようということで、日本人材機構の出番となりました。

「Jリーグなどでの経験を稼げるまちづくりに活かしたい」

──田蔵さんは日本人材機構に入社する前、Jリーグ事務局や栃木SCにいらしたんですね。

田蔵 元々、幼少期からサッカーをしてきたのですが、現実的なキャリア選択の中で、選手という道ではなく、プロを支える側を選択し、紆余曲折を経てJリーグ事務局に入社することになりました。川淵チェアマンの時代です。最初はプロ選手の育成事業やセカンドキャリア支援事業、経営者育成事業の立ち上げなどを担当しました。その後、Jリーグ映像(現Jリーグメディアプロモーション)へ移って、インターネット事業の立て直しを任されました。大変でしたが、収益モデルの見直しから始まり、メディア事業とコンテンツ事業を大きく飛躍させる過程の中、地域のJリーグクラブとの共同作業を通じて、地域ビジネスの難しさと面白さを経験する事ができました。その頃、出身地の栃木SCがJリーグ加盟を目指していました。まもなく、私もJリーグ事務局へ戻り、Jリーグを目指すクラブの支援や審査を行うチームに配属されました。そして、栃木SCの担当になり、気付いてみたら転籍していたと(笑)当時、チームには幼なじみのチームメイトが在籍していたことや、私の中の故郷の為に貢献したいという気持ちが、私自身のUターンに大きく影響した気がします。栃木SCでは、広告協賛事業やチケット事業、商品化ライセンス事業など、収益部門を統括していました。日常的にファン・サポーターやスポンサー、後援会や自治体など、様々な地域の方々と接点を持ち、巻き込み、巻き込まれながら、協力して事業を展開していく経験は、何物にも代え難い財産になったと考えています。

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──そしてサッカー、スポーツ業界の次は観光事業に。

田蔵 元々、自分自身の領域を広げるため、40代はよりマーケットの大きいビジネスの世界でチャレンジをしたいと思っていました。そして、次のキャリアを考えていた時に、幾つかお話を頂きました。その中で選んだのが、施設や建物を作り、そこにお客様をお招きして感動していただくという、サッカーと同じ図式を持っていた宿泊事業でした。そして、先ずはホテル運営事業&開発事業での事業拡大を経験しました。その後、自分の仕事の領域を拡げるべく、観光周辺の事業投資やベンチャー投資、そして、起業支援に関わるようになったのですが、あるとき自分のキャリアは何か、何がやりたいのか、何ができるかを冷静に考える機会がありました。やはり、産業としての観光領域でもっと力を伸ばしたい、もっと人を楽しませる仕組みを作りたいという気持ちを再確認し、新たなステージとして日本人材機構に加わる決断をしました。観光産業の強化を政府が打ち出し、インバウンドも追い風になって外国人観光客は飛躍的に増えています。人材雇用ニーズが日本中で高まりました。1年間で直接雇用が1万人、間接雇用は3万人増加しています。これだけの雇用を一気に増やしていける産業はなかなかありません。観光領域と、それと相関のあるスポーツ・文化・エンタメ・6次化領域を絡めながら、「稼げるまちづくり」に向けた事業投資やスタートアップ、事業のトップラインを伸ばす経営および人材支援の仕事を現在手がけています。

観光産業をさらに地域で加速する装置がDMO

──日本のものづくりが後退したあと、国家戦略として観光を産業にするというのは大きなビジョンですね。内外のお客様に喜んでもらえる観光事業を推進するのがDMOという捉え方でよいでしょうか。

田蔵 DMOには3つの区分があります。複数の都道府県にまたがる「広域連携DMO」、複数の市区町村にまたがる「地域連携DMO」、ひとつの市区町村などの小さな単位で活動する「地域DMO」です。2017年5月現在、合計して145団体がDMOとして観光庁に登録されています。それぞれのDMOは、お客様を地域の外から集客し、域内消費を拡大することが大きなミッションになります。この点で、私の経験したJリーグは似ているようで異なります。Jリーグはホームタウン制を採っていますから、お客様もおカネも集める対象はホームタウン内(原則、市区町村単位。一部、県および複数市町村)が中心。より収益を上げるためには域外からも集めなければなりませんが、強い地域密着戦略の為、制度上、他チームのホームタウンで活動することは難しい。ホームタウン制はJリーグの強みであるのですが、実は制約にもなっています。栃木SC時代、同じ栃木県内にプロバスケットボールのリンク栃木ブレックスがありましたが、こちらは日本人初のNBAプレイヤーである田臥勇太選手を擁して、地元だけでなく、より広域からお客様を集められる強みがありました。このようなスターの存在は経営にとって心強い存在です。その一方、観光にはJリーグのホームタウン制のような制度的な難しさも無く、地域観光資源をスター化し、上手く使えば、国内だけでなく世界中からお客様を集めることが可能です。地域観光資源を見出し、それらを商品化し、スターとなるグローバルブランドへ育てる事ができるのです。それには視点が内側を向いてしまったら成長はありません。人もおカネも外から持ってこないと。製品(地域観光資源)を外に売るという意識が必要です。今までは国内の観光交流人口で何とか産業を作ってきましたが、人口減少もあり、踊り場に来ています。だから海外インバウンドに力を入れていくのは当然の流れですね。そういった取り組みの推進役がDMOなんです。

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──冒頭でおっしゃったように、その地域の観光関連事業者を結びつける立場なんですね。

田蔵 地域で観光に関わる会社や人は、多種多様です。DMOが中心となって関係者の連携を作っていかなければなりません。そのためにははっきりした目標を立て、明確なコンセプトのもとに戦略を策定し、仕組みやプロモーションを実行していくわけです。しかし、現在はDMOという言葉が一人歩きしているように感じます。十分な検討や準備を以って登録しているDMOは多くない気がします。DMOはあくまでもソリューションの一つであって、すべてではありません。現実的に問題はたくさん出てきています。
(聞き手:清水園江)
 

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