今、日本のDMOで起きていることとは?/日本版DMO、その役割と可能性・第2回
GLOCAL MISSION Times 編集部
2017/08/25 (金) - 09:00

観光庁が日本版DMOの推進を提唱し、全国で157団体が登録をしています(2017年8月4日現在)。日本人材機構でもその初期から積極的に関わってきました。このシリーズでは、創生事業本部でディレクターを務める田蔵大地がDMOの現状や可能性、問題点などをピックアップ、紹介しています。Jリーグ等で首都圏と地方のビジネスに深く関わった経験を生かし、現場からの視点で掘り下げて行きます。

DMOに懸ける想い/日本版DMO、その役割と可能性・第1回

観光DMO・DMCに求められる人材/日本版DMO、その役割と可能性・第3回

地域の持ち味によって多様化しているDMO

DMOとは、「Destination Management/Marketing Organization」の頭文字を取ったもので、地域を観光資源や観光産業によって活性化させ、収益を上げるための舵取り役としての法人です。観光庁が2016年2月から日本型DMO登録を開始し、全国各地にDMOが作られています。今までの「観光協会」との違いは、よりエリアマネージメントを重視し、マーケティングを強化したコンセプトを有している点です。その地域が観光で稼げるようになるには、民間企業では当たり前に行っているマーケティング視点に基づいた戦略が必要です。その上で、関連業界の利害関係を調整したり、行政とやり取りしたり、地域住民との橋渡しを行ったりと、地域の中心となって機能します。

日本版DMOの登録要件は法人となっているので、自治体の観光部門や観光協会が民間とともに一般社団法人や株式会社を設立しているケースが多く見られます。観光を収益の柱にするためのハブとして機能しなければならない為、地域をまとめる力が問われます。当然、調整機能が必要ですし、地域を俯瞰できる視点も欠かせません。実は、政府が日本版DMOを提唱する以前から、同様の機能を持った組織は各地にありました。その組織・機能は、工業団地造成ラッシュや温泉ブーム、別荘ブームを作り、ゆるキャラやB級グルメなどのご当地ブームを作り出してきました。それらが名前と形を変えて、地域観光機能を集約して進化した組織がDMOと言えるかもしれません。
観光資源の特性は地域ごとに異なります。また、地元企業・団体の関係性も多様です。その中で組織の範囲や役割が決定されてDMOが作られるため、地域の数だけ多様化していると言えるでしょう。

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観光・産業資源を生かすユニークなDMO

2017年8月の時点で私たちが把握しているDMOのうち、ユニークで事業性が高いと思われるものをいくつかご紹介しましょう。それぞれの地域の観光資源や活動内容を付加してあり、いずれも「地方創生」を主目的に置いています。

●一般社団法人せとうち観光推進機構(広域連携DMO)?観光産業支援・観光投資事業
●株式会社大田原ツーリズム(地域DMO)?グリーンツーリズム
●株式会社まちづくり小浜(地域DMO)?3セク×水産業6次化
●株式会社阿智昼神観光局(地域DMO)?星空×温泉
●一般社団法人ノオト(地域連携DMO)?古民家再生
●一般社団法人そらの郷(地域連携DMO)?ネイチャーツーリズム×農泊
●株式会社南信州観光公社(地域連携DMO)?研修×アウトドアアクティビティ
●一般社団法人みなかみ町観光協会(地域DMO)?山岳ツーリズム×温泉
●一般社団法人飛騨・高山観光コンベンション協会(地域DMO)?歴史文化資源×インバウンド

それぞれのDMOがどのような活動を行っているか、機会があればこのサイトで少しずつご紹介していこうと思います。

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補助金頼みでは未来はやってこない

観光業界の方々と話をすると、現時点で観光庁の目指す世界レベルに達しているDMOは157の登録のうち20団体くらいではないかと言われています。世界でも通用するレベルのDMOを100作ることが国の目標なので、この状況だと当面は多くの新規DMOを登録しなければならないということになります。観光事業者が増える事は、雇用を増やし、一見歓迎すべき事のように見えますが、同時に問題も孕む事になり、注意が必要です。私が在籍していたJリーグでは加盟クラブを急速に増やした時期がありましたが、同時に多くの経営問題という副作用を伴いました。急激な成長は経営リスクを抱えたDMOを数多く誕生させてしまう危険があります。第2、第3の「てるみクラブ」を全国で作らないための対策が、いま求められています。

実際、経営危機というレベルでなくとも、主軸事業の現実性、成長性を検証することなく法人化した結果、未だに有効な施策を打てていないDMOが見られます。隣の自治体が申請したからうちでもやらなければ、というケースもありました。それら「とりあえず作られたDMO」が当てにしているのが補助金です。ブームだし補助金も付くから何とかなるだろうという考えは無いとは思いますが、まだまだ補助金体質から抜け切れていないDMOが多いのも事実です。確かに既存の観光事業を切り出してDMO化すれば、国の補助金獲得により、自治体としても経費削減が可能です。地域経営として、この次のステージを狙って頂きたいのですが、まだそのレベルに到達しているDMOは数多くないと考えています。これらは国のDMO政策における制度上の課題と言えるかと思います。

他方、観光資源に乏しい中でDMOを作ってしまう動きもあります。地元の人たちは自信を持っているのですが、客観的に見ると地域観光資源に競争力がない。自分たちの価値を理解しないまま登録してしまうのです。こんなに素晴らしい自然がある、由緒ある神社仏閣がある、だからお客さんは来るはず、と。マーケティングやセールスは不足しているのに、いい商品は売れるという思い込みだけで走っている場合があります。反対に、うちには観光資源がないと思い込んでいる地域もあります。地域の人たちが気付いていないだけで、世界レベルの観光資源が眠っていることがあります。これは外部の目を導入するなど、気付きが必要となります。地域資源の価値評価は、間違えてしまうと結果は180度違ったものになるため、重視したいポイントです。

また、うちの地域はアクセス網が弱く、集客は難しいという話もよく聞きます。本当にその通りでしょうか?好例がJリーグの鹿島アントラーズです。交通の便が決して良いとは言えないスタジアムに、毎試合、東京からバスでピストン輸送をして千人単位のお客さんを呼んでいます。可能性を信じることと、やり遂げる意志は成功への必要条件です。地方では「できない症候群」も大きな課題になっています。

このように、日本版DMOの課題はいくつも顕在化しつつあります。その他にも、経営陣の経験不足、そもそもの人材不足といったマンパワー面での問題も浮き彫りにされています。次回のコラムでは「人材」にスポットを当て、DMOの本質である「地域の観光資源をマネジメントし、地域に集客できるマーケティング会社」となるためには、どんな資質を持ったスタッフが必要なのかを探ってみたいと思います。

◆こちらもあわせてご覧ください。

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