新型コロナ感染症の感染拡大は私たちの生活に大きな変化をもたらしましたが、コロナ禍が過ぎて戻ったものと、戻らないものがあります。たとえば人の移動。コロナ禍で東京への人口一極集中は大きく改善されましたが、新型コロナの感染法上の扱いが変わった現在では元に戻りつつあると言われています。このままコロナ禍以前の一極集中がまた始まってしまうのでしょうか？それともコロナ禍を経て、何か変化が起きつつあるのでしょうか？今回は、東京を中心とした人の移動に関わる「今」と「これから」について考えてみました。
コロナ禍で大きく変化した東京への人口一極集中
都市や町への人の転入数や転出数を比較する尺度に「転入超過」、「転出超過」というものがあります。転入超過とは転出より転入が多い状態で、その町の人口が増加していることを表します。また転出超過はその逆で、転入数より転出数が多い状態、つまり人口が減少していることを表します。
コロナ禍前の東京都の状況を見てみると、2016年の転入超過は58,207人、2017年が61,158人、2018年には79,844人となっていて、転入超過の状況が数年続いていることがわかります。2017年のデータでは、全国1,719市町村のうち転入超過となっているのは408市町村（全体の23.7％）で、なかでも東京都は転入超過の人数（61,158人）が突出しています。2位の大阪府は転入超過数が10,691人、3位の北海道札幌市は8,779人となっていると聞けば、東京都への一極集中がとても極端であることがわかるでしょう。
ところが2019年は世界的にコロナ禍となり、この一極集中に変化が現れます。東京都の転入超過数は64,176人となり、2018年の79,844人から15,000人以上減少、2020年には31,125人に、2021年には5,433人となりました。相変わらず転入超過の状態ではあるものの、その数はピーク時（2018年）に比べ9割以上の減少となったのです。
この原因が、新型コロナの感染拡大であることは明白でしょう。密を避けることが感染拡大を防ぐ方策の一つであったこと、また感染拡大で一気に普及したテレワークによって、東京都から転出する人が増えたことも、この結果には影響しているものと思われます。
東京への転入超過はコロナ後、どうなった？
では新型コロナの猛威が収束しはじめた、もしくはウィルスが変異し毒性が下がった状況（2022年）で、転入超過はどのように変化したのでしょうか？総務省が毎年公表している住民基本台帳に基づく人口移動報告によると、2022年の東京都の転入超過数は38,023人となりました。2021年の5,433人から大幅に増えてはいますが、ピークであった2018年に比べれば、この超過数は半分程度でしかありません。
もちろんこの先数年の推移を見ていかねば、転入・転出の傾向について明言することはできません。まだ感染法上の位置づけが変わって間もない状況では、傾向を把握するためのデータが少なすぎるのです。ですが、一部では働き方改革やテレワークの普及で東京都を含む三大都市圏（東京圏、名古屋圏、大阪圏）への転入超過には、ある程度の歯止めがかかるのではないか？とも言われています。確かに都市圏にあるオフィスのスペースを削減したり、従業員の通勤費を削減したりして事業の効率化を図っている企業は多くあります。またそのような企業は、今後もテレワークを継続する方針を早々に打ち出していることが多いのです。
コロナ後も地方移住はライフスタイルとして定着
テレワークによる地方移住での勤務や、従業員のライフスタイルを尊重する働き方改革は、ワークライフバランスを実現する手段として定着しはじめています。普及のきっかけは新型コロナの感染拡大防止策であったかもしれませんが、ワークライフバランスの実現は優秀な人材（従業員）の確保につながります。つまり地方移住を含むこのような働き方や暮らし方は、コロナの収束後も、実績のあるライフスタイルとして定着していくと思われるのです。
まとめ
都市圏の利便性を魅力的だと感じる人、一方でそれをストレスに感じてしまう人。人の感じ方はさまざまです。コロナ後の人の移動は、テクノロジーの進化によって選択できる幅が大きく拡がりました。東京都への一極集中の鈍化は、選択肢を手に入れた人たちが自分の生き方について真剣に考えはじめたサインなのかもしれません。
＜参考＞
コロナ禍で注目された「地方移住」は進んでいるのか？
https://news.yahoo.co.jp/articles/67a2c85d04ad262c4546d5b784ef3524cdac6c0c?page=1
東京一極集中はコロナ禍前に戻ったのか～２０２２年の国内人口移動におけるコロナ禍の影響①～
https://www.sompo-ri.co.jp/2023/03/15/7290/
