2015年に国連で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されて3年が経過し、その際に目標として掲げられた「持続可能な開発目標(SDGs)」への関心も高まっています。政府は全閣僚からなる推進本部を設け、「国家戦略の主軸」、「SDGsで世界の未来を牽引」とうたい、持続可能なまちづくりのモデルとなる「SDGs未来都市」も選定されました。今回は「SDGs」をめぐる地方創生の動きを追うとともに考えてみたいと思います。
17分野にわたる持続可能な開発目標と169ターゲット
2015年9月に「国連持続可能な開発サミット」が開催され、150超えの加盟国首脳が参加し、その成果文書として「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。SDGsには法的拘束力はありませんが、230の指標により達成度を評価していく仕組みがあります。達成には、全ての国がさまざまな関係者とパートナーシップの下で取り組むことが示されているほか、自治体などの取り組みも目標達成に向けて期待されています。
■SDGs(Sustainable Development Goals)
持続可能な開発目標(SDGs)、通称「グローバル・ゴールズ」は、17の目標と169のターゲットからなっており、全ての国連加盟国が2030年までの達成を目標に、貧困に終止符を打ち、地球を保護し、全ての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指す普遍的な行動を呼びかけています。
「SDGs(持続可能な開発目標)17の目標」(資料:内閣府資料より)
日本では2016年5月20日、安倍総理が本部長、すべての国務大臣がメンバーになり、「SDGs推進本部」が設置され、続く12月22日に開催された推進本部会合では、「持続可能で強靭、そして誰一人取り残さない、経済、社会、環境の統合的向上が実現された未来への先駆者を目指す」をビジョンとする「SDGs実施指針」がまとめられ、普遍性、包摂性、参画型、統合性、透明性と説明責任の5つを実施原則としました。
「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」の8分野に関する優先課題と具体的施策(資料:「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針の概要」より)
政府では2018年は、「日本SDGsモデル」の方向性を踏まえつつ、同モデルの具体化に向けて先の「SDGs実施指針」で示された経済、社会、環境の分野における8つの優先課題と140の具体的施策の取り組みに注力し、これらの取り組みも含め、官民のベストプラクティスを蓄積・共有し、得られた知見や技術を地球規模に展開することで、国内外におけるSDGs達成のためのより幅広い取り組みにつなげていくとしています。
国ばかりでなく、地方自治体なども課題解決のための主体であるとされますが、自治体にSDGsを導入し、経済や社会、環境に関わる諸課題の解決に統合的に取り組むことは持続可能な発展をもたらし、国全体としての地方創生の推進にもつながるでしょう。また、自治体は世界の共通言語であるSDGsを推進することにより、国の内外の産学官民のステークホルダーとパートナーシップを構築し、持続可能な開発に向けて一層の社会貢献を図ることもできるでしょう。
国が「SDGs未来都市」として29自治体を選定へ
さて、我が国がこれまで取り組んできた「環境未来都市」構想では、経済・社会・環境の三側面における新たな価値創出によるまちの活性化が目指されてきましたが、SDGsの理念と共通する点が多いこともあり、地方創生を一層促進するために「環境未来都市」構想をさらに発展させ、新たにSDGsの手法を取り入れて戦略的に進めていくために、政府が持続可能なまちづくりのモデルとなる「SDGs未来都市」を設けました。
これは、持続可能な都市・地域づくりの優れた取り組みを提案する自治体を選定し、政府として予算も付けサポートしていこうという取り組みで、内閣府地方創生推進室は、6月15日に自治体によるSDGsの達成に向けた優れた取り組みを提案する29都市を「SDGs未来都市」として選定しました。同時に、29都市で行われる取り組みから特に先導的な10事業を「自治体SDGsモデル事業」として選定しています。モデル事業には上限4000万円の補助金が交付されます。
選定された「SDGs未来都市」(資料:内閣府資料より)
自治体におけるSDGsの達成に向けた取り組みは、地方創生の実現に資するため、その取り組みの推進が重要になります。今後、「SDGs未来都市」に対して、自治体SDGs推進関係省庁タスクフォースにより強力な支援やイベントなどによる成功事例の普及展開を通して自治体におけるSDGsの達成に向けた取り組みの拡大を目指すとともに、地方創生の深化につなげていく意向といいます。
また「SDGs未来都市」に選定された都市は、国とも連携をしながら提案内容をさらに具体化し、3年間の計画を策定して取り組みを実行し、定期的な進捗管理を行っていきます。都道府県及び市町村におけるSDGsの達成に向けた取り組み割合は、2020年度目標で30%を目指しています。
地域特性に合わせ自然資源活用目指すSDGsモデル事業
政府が「持続可能なまちづくり」のモデルとなる「SDGs未来都市」として選定した29都市で、「自治体SDGsモデル事業」にも選ばれた10自治体の中には、北海道下川町、富山県富山市、岡山県真庭市、熊本県小国町など木質バイオマスの活用を掲げる自治体が多くあります。国土の66%を森林面積が占めていることもあり、森林資源を抱える市町村が多いことも背景にはあるのでしょう。
資料:内閣府資料より筆者作成
北海道下川町は町面積の約9割が森林であり、林業と農業が基幹産業ですが、ICTやIoTを活用した伐採、造林から加工流通林業のシームレス産業化、健康省エネ住宅の主流化、除雪体制や災害対応、森林バイオマスを中心とした再生可能エネルギーの利用拡大などの事業について、SDGsパートナーシップセンターを構築・活用し、各側面における相乗効果を発揮しながら推進していくとしています。
また、熊本県小国町は地域資源を活かし、町主体の公正を担保した開発計画による地熱資源の有効活用や未利用熱水を活用したバイナリー発電の利用拡大検討、持続可能な公共交通確保のためのカーシェアリング導入検討などの三側面の取り組みを進めています。ニセコ町でも冬場の化石燃料の消費を減らすために、地中熱や地熱・温泉熱などの利用を産学と連携しながら進めていくといいます。
北九州市はエネルギーを核としつつ、技術力や市民力を活かした課題解決事業を展開し、国内外への普及展開を視野に入れ、低炭素エネルギーの振興や環境産業の活性化、女性や高齢者・障害者の活躍、エネルギー・リサイクル産業の技術向上と海外展開などを進めるといいます。このように各自治体とも地域の特性に合わせた自然資源の活用が考えられています。エネルギーの地産地消によってお金が地域で循環し、地域の活性化やSDGsの達成を目指しています。
SDGs活かしたまちづくりへ自治体が住民をサポートへ
「SDGsモデル事業」に選定されている自治体では、SDGsに沿った施策が始まり、さまざまな地域の特質に合わせた自然資源の活用を目指した動きも顕著ですが、2017年8月から10月にかけ全国1788自治体を対象にSDGsの認知度や取り組み度合いなどSDGsに関する全国アンケート調査「地方創生に向けたSDGsを活かしたまちづくり」が実施され、648(38.2%)自治体の回答を得て、以下のような結果が出ています。
資料:SDGs推進本部資料より筆者作成
残念ながらいまだに自治体の「SDGs」の認知度も5割に満たず、関心度に至っても3分1にとどまっています。地方創生は、少子高齢化の課題に対応し、地域の人口減少と地域経済の縮小に歯止めをかけ、将来にわたって活力ある社会を維持することを目指していますが、安心して暮らせるような持続可能なまちづくりと地域活性化が必須です。特に、人口減少で「消滅可能性」の危機にある地域では、くらしの基盤の維持・再生を図ることが重要になります。
上記の調査結果からSDGsに対する自治体の認知、関心を高めることが急務でもありますが、17分野・169の目標には抽象的なテーマも少なくなく、行政のどの施策も何らかの形で関わるといえます。大事なのはSDGsの理念に沿って施策をどう見直していくかですし、さまざまなステークホルダーと対等の立場で力を合わせていく。それがSDGsの精神でもありますので、すべての地域住民がまちづくりに関われる自治体のサポートが望まれます。
人口や税収が減少し、これまでの自治体主導の地域づくりにも限界が訪れ始めています。これからは、自治体任せではなく、能動的にまちづくりにかかわろうとする住民たちの思いと行動がより重要といえます。SDGsの目標やターゲットは、暮らしに関連するものであり、ローカルな地域課題の解決に貢献し、いかに持続可能なまちづくりを推進するか、地域の持続可能性を高められるかが問われます。各地でSDGsの目標の一つである「住み続けられるまちづくりを」の達成が期待されます。