【岩佐・平林】一次産業はブルーオーシャン。地方にこそビジネスチャンスあり
GLOCAL MISSION Times 編集部
2017/11/22 (水) - 17:00

戦後、東京への一極集中が加速した日本。しかし最近では、東京で働き続けることよりも、地方でよりダイナミックに活躍する選択肢を視野に入れるビジネスパーソンが増えている。「脱・東京、Localが放つ可能性」シリーズ第1回は、地方の一次産業に着目し、震災後、地元を豊かにしようと、1粒1000円の「ミガキイチゴ」で宮城県山元町から変革をもたらすGRA代表・岩佐大輝氏と、宮崎県綾町で、特に有機野菜農家を稼げる農家にすべく、販路拡大に取り組むベジオベジコ代表・平林聡一朗氏にフォーカス。地方でビジネスを展開することの価値や、一次産業はどう変わっていくべきかを伺った。(全5回連載)

リタイヤする高齢者>新規就農者

──少子高齢化による後継者不足、人手不足で、日本の一次産業は危機的状況にあります。実際に現場で対峙する中で、この課題をどう感じていますか?

岩佐:そもそも日本は世界から見ても、一次産業の知識集約化に舵を切るのがすごく遅れました。
最近ようやくIT化が始まって、大規模効率化が進んできたとはいえ、そのスピードは遅い。ロボティクスが急激に進化しない限り人材難は免れないけど、人材減少のスピードにその進化が間に合わないでしょう。
平林:解決したい課題のひとつが、若者世代の就職の選択肢に農業法人が入らないこと。メーカーや銀行、商社に並んで、農業法人も選択肢に入ってほしいですね。
岩佐:農業に限らず漁業も林業も。国全体がシュリンクしていくのは分かっているのだから、労働力の分配は戦略的にやるべきです。

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平林:僕の会社があるのは、宮崎県綾町という人口7000人強の小さな町です。農家さんは高齢の方が多いので、今までと同じように農作物を作れなくなる日は、いつか来ます。
ただ、綾町は40年以上続く有機農業の地なので、その土地を受け継ぎたいと、幸いにも新規就農者に人気があります。それでも、高齢でやめていく農家さんや、亡くなってしまう農家さんの数に、現状のままだと新規就農者の数は追いつけないですね。

民間企業での「当たり前」が、一次産業を変える

──就職の選択肢に農業が入らない背景として、「稼げない」「休みがない」などのイメージがあると思います。現状を打破するには、どうしたらいいとお考えでしょうか。

岩佐:これは一次産業全体の話だと思いますが、これまでずっと、経営視点やマーケティング感覚がほとんど存在しない業界でした。だから、「稼げない」イメージが定着し、就職先に選ばれなくなってしまった。
ということは、経営視点やマーケティング感覚を取り入れ、生産性向上のための研究開発に投資すれば、一次産業は大きく変わるということなんです。
民間企業なら当たり前の視点が欠けているのだから、都会で働くビジネスパーソンの経験やスキルを取り入れるだけで、イノベーションが起きるはず。

平林:農家さん側からしても、農作物を作って収穫して農協等に卸したら終わり、という世界が当たり前だったから、消費者は何を求めているのかを考える機会はなかったし、その必要もなかったはずなんです。マーケティング視点は本当に必要ですよね。

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東京での経験は、想像を超えるバリュー

岩佐:よく言われていることですが、どの地方でもこれから重宝されるのは、「東京で働くビジネスパーソン」です。
彼らが当たり前のように持っているビジネススキルを、農家は持っていません。逆に農家は、都会のビジネスパーソンが持っていない、素晴らしい農作物をつくるスキルを持っている。
それを掛け合わせると、「勘と経験」が「仕組みやシステム」に変わったり、消費地が変わったりする。実績をつくれば、隣町や違う県でも横展開もできるだろうし、マーケットは海外でもいい。
Local to Globalでダイナミックな仕事ができる確率が高いし、そのバリューは想像以上でしょう。
それから、東京にいると自分の存在は薄まるけど、地方にいくと一人の価値が大きいから存在感も大きい。だから地方で何か実績をつくると、おもしろいくらい地方のイノベータ―たちとつながります。しかも東京をスルーして。
地方には、東京では知り得なかった魅力的な世界が広がっているのを実感しています。

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地方では50代でも“若手”

平林:地方は、東京でビジネスの最前線にいた人が来てくれるとなれば、きっとレジェンドみたいに扱いますよね。

岩佐:本当にスーパースター並みだよね。地方では、40代、50代は若手。40歳過ぎの僕だって、地元ではかなりの若手です(笑)。だから、地方に行くと若手としても活躍の舞台が広がっているんですよね。壮大な第二の人生です。
ちなみに弊社の経営メンバー5人は、東京の企業で働いていました。今は山元町でマーケットを考えたり、ベンチャーキャピタルとファイナンスの話をしたり、海外と交渉したりと、農業を経営しています。
今までそういう存在は地方に少なかったので、国内外から注目されていて、東京で働いていたころよりも、刺激的な日々を過ごしていると思います。やっている仕事のレベルはまさにグローバルレベルです。

平林:そういうスキルは一次産業にもっとも欠けていますね。

農家のフランチャイズ化でPDCAを回す

──岩佐さんはまさに、経営視点を持って変革を起こされています。農業×ITで効率化を図るのと並行して進めている、農家のフランチャイズ化について教えてください。

岩佐:農業は、植えてから収穫するまでのワンサイクルが長く、たとえば僕がやっているイチゴでいえば、親株を植えてから収穫までに20カ月かかります。
生産性を高めるには、問題になっていることの因果関係を見極めてPDCAを高速回転させるしかないけど、農産物に必要な絶対成長時間を縮めることはできない。するとPDCAが回らない。
そこで、一気に多くの情報を得て徹底的に効果検証をしながら、生産性と再現性の高い産業にすべく、新規就農支援事業「ミガキイチゴアカデミー」を始めました。

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具体的には、就農希望の研修生に寮生活をしてもらって農業ノウハウを提供し、最短1年で独立してもらう仕組みです。
いままでの農業は、一人前になるには弟子入りが必要で、しかもその期間がとてつもなく長いのが問題でした。僕も、最初イチゴ農家になろうと思ったとき、師匠から言われたのは「15年ついてこい」。
それでもいいかなと思ったけど、冷静に考えると、それはちょっと長すぎる(笑)。
いまの時代に若い人が15年もでっち奉公するなんて考えられないので、農家の「経験と勘」を見える化すべく、達人にウェアラブルカメラをつけて、すべての作業を映像で見られるようにした。
研修生は自分の作業と達人の作業を比較しながら、経験と勘を効率よく1年で学べるというわけです。
独立時には、農地確保やハウス建設、金融機関からの調達、イチゴの全量買い取りによる販路確保まで、独立を一気通貫でサポート。すでに6人が独立し、先月も新しい5人が入校しています。
このフランチャイズ農家が100人になれば、1人の農家では10年やっても6回分しか集まらなかった情報が、600回分も得られるようになる。産業は変わりますよね。

平林:すごいですね。ものすごく時間をかけてやっていたことを最短距離でできるようになると、無駄なことをしなくていいし、自分でもデータを元に仮説を立てながらPDCAサイクルを回せますね。
岩佐:そうなんです。研修生は20代前半から年配の方まで幅広く、最近では、脱サラして奥さんとお子さんの3人で寮生活を始めた人もいますよ。

──平林さんは学生時代、宮崎県にあるIT企業アラタナでインターン中にベジオベジコを立ち上げています。販路が少なかった有機野菜の売り先を増やし、農業を稼げるビジネスにするための取り組みについて教えてください。

平林:もともと僕は農家になろうと思っていたんです。だけど、当時インターンをしていたアラタナの社長から、「自分が農家になるんじゃなくて、売る側になって業界を盛り上げた方がいい」と言われたのをきっかけに、「農業を稼げる職業にするために、まずは流通をつくろう」と、ベジオベジコを立ち上げました。
ただ、EC事業を始めようとした当時、野菜のネット販売業者は宮崎県内だけでもたくさんいて、同じ地域で同じ顧客を奪い合っている状態だったんですよね。
そこで、はやっていたスムージーに目をつけて、スムージー用の野菜とフルーツセットを自宅に届けるサービスを始めました。
綾町でつくる有機野菜の味やこだわりを知ってもらうことで、リピート顧客が増えたので、今年の初めに、新たに事業を2つ立ち上げました。
1つは、お客様が圧倒的に多い東京に物流拠点を設けて、アプリで注文すると最短1時間でお届けする、即時デリバリーサービス「VEGERY(ベジリー)」。もう1つは、東京・根津にオープンさせたリアル店舗の八百屋です。

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この2つはかなり好評をいただいており、地元の農家さんの販路拡大に、少しは貢献できているのかなと思っています。農業は少しのアイデアがビジネスにつながるし、チャンスがとても多いと実感しています。

日本の中の地方ではなく、世界の中の地方

──東京で働くビジネスパーソンの地方への流動が起こったとき、地方がより豊かに栄えるには、一次産業はどうあるべきとお考えでしょうか。

岩佐:日本経済がシュリンクしている今、もはや日本の中の地方という考え方は古くて、世界の中の地方と考えるべき時代に突入しています。
僕の、「地方がどうしたら生き残れるか」という問いに対する答えは「グローバルレベルで通用する産業があれば、そこがどんな場所であっても栄える」です。
実際、農園に「ICHIGO WORLD(いちごワールド)」という、最先端のイチゴ栽培を見学できる施設を作ったところ、国内外から年間約2万5000もの人が来るようになりました。宮城県山元町の人口は約1万2000人ですから、倍の人数です。
有名な遺跡があると、どれだけ僻地でも多くの人が訪れるように、際立つ産業をつくって世界とつながれば、地方は豊かになる。そのポテンシャルは、全国各地にあると思います。

平林:綾町も、有機農業発祥の地と発信していることで、毎週のように国内外から視察が来ています。そういう意味では、地方はブルーオーシャンですね。

岩佐:まさに。とにかく僕は、農業をはじめとした一次産業を、資本市場で勝負できる、グローバルで戦えるビジネスに変えたい。それによって、世界に注目されて栄える地方をつくりたいと思っています。

 

 

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