壊すことで創る。斬新アタッチメントで切りひらく無限の可能性
GLOCAL MISSION Times 編集部
2017/07/24 (月) - 15:00

他社を寄せ付けない開発スピードで業界トップを目指す

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山陽新幹線をはじめ山陽本線ほか多くの在来線が乗り入れるJR岡山駅から、車で西方へ約20分。県庁や市役所がある岡山市北区で平野地区の一角を占めるように、本社ビルと大きな工場が併設して立っている。経営トップが社内の誰よりもものづくりへの情熱を持つ同社は、建機のアタッチメントメーカーとしてナンバーワンを目指す。

油圧ショベルでつかみ作業ができる「グラスパー」シリーズを筆頭に、業界屈指の切断力・圧砕力で話題を集める「ガジラ」シリーズのほか、草刈りやマグネット機能を備えたアタッチメントのシリーズも同社ならではの創意と工夫で人気上昇中だ。

そんな同社の強みは、柔軟なものづくりへの考え方から生まれるアイデアはもとより、強力な製品化スピードにある。現場で顧客のニーズをくみ取り、素早く設計製造に反映させるのは「言うはやすく行うは難し」である。同社は、製造機械の製作はもちろん、管理システムの構築に至るまで徹底した「内製化」に取り組むことでこれを実現。アイデアとスピードで業界を席巻する。

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株式会社タグチ工業

1957年6月、創業者・田口武男氏により岡山市北区厚生町2丁目13番地に山陽熔接工業所として発足。溶接を本業とする鉄工所から、現在の建設機械アタッチメントメーカーへと成長してきた。全国に営業所やサービス拠点を展開。関連グループ企業も相次いで設立し、現在、従業員数は200名を超えるまでに成長。2016年の暮れに誕生したコーポレートスローガン「re-create the world」(再創造せよ)を旗印に、油圧ショベル専用アタッチメントの設計・製造、そして販売・レンタル・保守メンテナンスなど、総合的なサービスを提供するアタッチメントメーカー。

住所
〒701-0151 岡山県岡山市北区平野561-1
設立
1962年4月(株式会社タグチ工業)
資本金
1,200万円
従業員数
215名(グループ合計)
グループ会社
株式会社タグチ工業(建設機械アタッチメント・各種機械の設計・製作)/株式会社田口クリエイト(建設機械用アタッチメントの販売、建設機械用アタッチメント・建設機械のレンタル・修理、建設機械用中古機アタッチメントの販売)/株式会社タグチアシスト(建設機械用アタッチメント・建設機械のレンタル・修理、高圧・油圧ホースの製作・販売・出張サービス、建築事業)/株式会社タグチアシスト西日本(建設機械用アタッチメント・建設機械のレンタル・修理、高圧・油圧ホースの製作・販売・出張サービス)/OO-com(オオコム)株式会社(タグチグループを支える業務システム・グループウェアの設計・開発、クラウドに特化した各種業務システム・ECサイトの構築、RFIDを用いたレンタル管理・在庫管理システム)ほか5社(計10社)

1957年

山陽熔接工業所 誕生

1962年

有限会社タグチ工業に組織変更

1985年

株式会社タグチ工業に社名および組織変更
元祖強力グラスパー 誕生

1990年

株式会社田口クリエイト 設立

1993年

ガジラ小割 誕生

1997年

レンタル事業部 発足

1998年

ガジラカッター 誕生

1999年

グラスパーV3・ガジラ大割 誕生

2002年

クサカルゴン・オートマガジラ 誕生

2003年

ホースマン事業部 発足

2005年

六機社貿易(上海)有限公司 現地法人設立

2008年

OO-com株式会社 グループ化(システム事業部 発足)

2009年

建築事業部 発足

2010年

販売事業部 発足(現・販売本部)

2012年

建築事業部 建設業許可証取得

2013年

P.T.Guzzilla International(インドネシア)出資設立

2014年

株式会社佐藤デザイン事務所 グループ化
株式会社タグチアシスト西日本 設立

2015年

重機型巨大ロボットSUPER GUZZILLA 誕生

2016年

JAXA「宇宙探査イノベーションハブ」参加

工夫を凝らしたオリジナルアイテムは50種以上

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油圧ショベルなどの建設機械に取り付けて作業を効率化する建機専用アタッチメント。その形状は用途によってさまざまだが、なかでも斬新なアイデアと実績によって、業界から厚い信頼を得ているのが、同社が提案するアタッチメント群だ。

オーソドックスだが掘削作業用バケットをはじめ、解体工事の現場などで「つかみ作業」に使われる「グラスパー」シリーズは30年以上の実績を誇り、業界シェアトップクラスの人気商品。また、コンクリート構造物を鉄骨や鉄筋ごとやすやすと切断できる「ガジラ」シリーズは、業界上位を視野に入れる、右肩上がりの売れ行きをキープする。重機で雑草や雑木を刈り、アスファルトの表面を削り、強力電磁石で金属を吸着する「マグネット」シリーズなど、独自製品のラインアップは他社を圧倒する充実ぶりだ。

50種類を超えるアイテムはいずれも同社のオリジナルであり、随所に工夫が凝らされた製品の副産物として、特許も20種あまりを数える。たとえば、油圧発電式の電磁石で解体現場の金属を回収するアタッチメント「マグ・ゴン」は、重機本体からの電気配線を不要にするアイデア製品。装着するだけでマグネットが使える便利さから、現在ヒット商品となっている。

ものづくりに純粋に向き合う創立時からの社風

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「当社の製品の特徴はとにかく軽いこと。もちろん必要な強度はしっかり保っています」と言うのは、同社の森谷創技術本部長。素材となる鋼板は厚さが均一。手間暇がかかるため一般的には敬遠されがちだが、同社では、コストがかかっても、最適な強度バランスを実現するために機械加工で削り出しをすることで軽量化を図る。

さらに素材も強度がある、アタッチメント専用のオリジナル鋼板(YT570)の開発にまで及んでいる。「利益ありきではなく、とにかくいいものを作りたいという一心で取り組むのが当社の方針。時間はかかりますが工夫を凝らして作業の効率化を図り、アイデアを出し合うなかで、たとえば経営トップの田口裕一のイニシャルを冠した『YT570』という当社にとって最適な素材の誕生にもつながりました」

同社には、メーカーとして製造、販売、カスタマーサポートなどの各部門があるが、製造に関わる技術部は、新製品の開発部門、工場の設備や品質を安定させる治具の設計などを行う生産技術部門に分かれる。社員は、いずれかの部門に配属されるわけではなく、本人の希望や生産の状況に応じて随時、担当する製品や部門が変わる仕組みだ。

「どの部門を担当しても、何もないところからスタートできます。素材から考え直して設計し、最終的に機械が稼働するところまですべてに関われるのが技術部の魅力です」と森谷氏。純粋に、ものづくりに取り組みたいと望むなら、理想的な職場であるのに違いない。

業務効率を大幅に向上させる管理システムを社内で開発

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ないものは、社内で作ろう──。これが同社の一貫した考え方だ。メリットは大きい。仮に建機のアタッチメントの部品を外注すると、こちらが要求する仕様や納期、予算のいずれもが100%満たされることは一般的にまれだろう。だが、社内で生産できれば、より早く、より現場の意見を反映させたものづくりが可能となる。

これを実現させるため、タグチ工業では、アタッチメントの設計・製作、販売・レンタル・修理・中古販売、油圧ホースの製作・販売・出張サービスなど、それぞれ専門の事業を立ち上げ、グループとして取り組む体制を作り上げている。グループを支える業務管理システムの開発を一任されているのが専門のシステム部門・OO-com(オオコム)株式会社だ。

OO-com(オオコム)がまず取り組んだのは伝票処理の効率化。「全国二十数店舗の納品書、請求書を本社で一括して入力していたため月末の事務はてんてこ舞い。システムを構築・導入した現在、業務が大きく改善しました」と、OO-comの三村和弘代表取締役。以前に比べて月末残業6時間もの削減につながったそうだ。

営業担当用に「れぽっと!」という日報システムも生まれた。「訪問先を出る際、営業担当者が端末に、要点のみのコメントを入力して送信。日報作成がとても効率的になりました」。社内での情報共有をリアルタイムで行え、グループのトップまで一気に情報が流れる。社内からアイデアが出やすく、レスポンスを向上させることもでき、製品開発のスピードアップにつながっている。

すぐに役立たなくても、面白ければ作りたい

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「クレージーなんですよ。常に飛び抜けていたい」。開口一番、田口博章専務はこう答えた。社風についても、しばらく考え込んだのち、すがすがしい笑顔を見せ、「ものづくりに関して、企業としても、また社員一人一人も、どこより誰より、普通でありたくないんです」と語る。

いいものを作るのは当たり前の世界で、同社は、これまでにないアイデアを積極的に採用し、その実現に向けたチャレンジを惜しまない。「当社では、型にはまらないのはいいことで、PR動画やテレビCMにも挑戦しています。『スーパーガジラ』は当社のクレージーぶりを知ってもらう好例でしょうね」と笑う。

全長約7m、幅約3m、高さ約3.5m、重量約15t、最高走行速度30km/h。日立建機製ホイールローダをベースにコックピットを取り付け、切断・圧砕アタッチメントの「ガジラ」を左右の腕に配した「スーパーガジラ」は、タグチ工業がイメージする未来の重機型巨大ロボット。

「制作費はほぼ1億円かかってます。でも当社の技術力を再確認し、業界では新しい電気制御分野を経験することができました。何より、さまざまなイベント会場で子どもはもちろん、大人のみなさんも目を輝かせて見学してくれることがうれしいです」。「スーパーガジラ」は、テレビCMやPR動画に出演、また雑誌等の取材を受けるなど、同社屈指のPR担当だ。

その他にも、タグチ工業はJAXA(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)の新プロジェクト・宇宙探査イノベーションハブに参加。2015年から超軽量建機アタッチメントの共同研究を行っている。

同社の未来展望は、電気制御そして宇宙へと広がっている。

たすきは、断れない人から諦めない人へ

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創業者である田口武男氏が独立創業したのは、1957(昭和32)年、岡山市北区厚生町に建てた山陽熔接工業所だった。孫にあたる博章氏が物心つくころにはすでに他界していた祖父のことを、祖母・田口光子氏にたずねたところ、「腕の良い溶接職人で、頼まれると断れない人でね。何でも作ってたね。お金にこだわらない人だったから、私が経理の担当だった」と答えたという。

創業当時、厚生町は自動車街で部品メーカーや修理工場、溶接工場、板金工場などが立ち並んでいた。タグチ工業も「ものづくりに研究熱心で仕上がりの評価も高く、バイクのフレーム修理や自動車部品修理に加え、すり減ったブルドーザーのショベル修理などを任されていたそうです」。

そこで培った技術とアイデアをもとに、1985年に独自ブランドの「グラスパー」が誕生。同社はこれをきっかけに急速に成長していった。2代目として会社を引き継いだのは現CEO兼CTOの田口裕一氏。「祖父が断れない人なら、父は諦めない人。期限を決めて必ずやりとげる、ものづくりに厳しい人。社長職を退いた今も、CTOとして寝ても覚めてもアイデアを求め、製品開発の最前線に立っています」

働きやすい環境へ、日々進化する

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「創業から数えると60年にわたる技術の蓄積があります。建機アタッチメントの製造技術レベルは国内トップクラスでしょう。ただ、その力を生かし切れていない。だから、他社に売り負けることもあるんだと思います」と、田口氏。

そこでアタッチメントのレンタル事業やインターネットも活用した中古販売事業、油圧ホースの出張メンテナンスなど、アタッチメントのメーカーだからこそ提供できる信頼のサービスにも力を注ぐ。「在庫管理システムを自前で構築できたため、レンタル事業や中古販売事業もより効率的に行えるようになりました」

約3,000点用意しているアイテムの貸し出し窓口は全国約20店舗の事業所「バケットランド」。アイテムの稼働率による振り分けや、より近い店舗からの搬送などに役立てている。また、油圧ホースの出張修理を手掛けるホースマン事業では、部品の管理をシステムで行い、部品の劣化などによる交換のタイミングの事前把握に役立てる。

「これからは、効率的で社員がより働きやすい環境づくりが欠かせないと考えています」と田口氏。「見た目には分かりにくいかもしれませんが、アタッチメントはアイデア一つで劇的に機能が向上する面白い機械。しかも当社では、最初から最後まで設計を一人で担当できます。完成したときの満足感はほかでは味わえないのではないでしょうか」と続ける。同社では今後、機械式のアタッチメントから、稼働の自動化に向けた電気制御技術の導入を急ぎ、かつ、新たなアタッチメント開発を見据えている。

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株式会社タグチ工業 専務取締役、品質保証部 部長

田口 博章

1990年2月10日生まれ。2013年12月、テキサス大学サンアントニオ校機械工学部卒。2014年1月~12月の安田工業株式会社への出向を経て、2014年12月、株式会社タグチ工業に入社。創業者の田口武男氏は祖父。

派遣事務から素質を認められ正社員へ

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「関東で就職したのですが、体調を崩して岡山市に帰ってきました。出身は香川県にある直島なのですが、岡山市の高校に通っていたのと、実家がこちらに引っ越してきたのとで、なじみ深い土地だったのです」と猪塚氏。

岡山市に帰ってしばらくは派遣社員として建設・不動産関係の会社で事務に従事した。タグチ工業には、同様に派遣社員として2014年6月から勤務し始めたが、その年の10月には正社員として採用され、技術本部へ配属が決まったという。

派遣期間は3カ月間だったが、猪塚氏の能力の高さに田口CEOは気づいていたということだろう。「派遣は事務職だったのですが、正社員としては設計で働かないかと打診されました」。このとき、猪塚氏はあまり残業したくないと思っていたという。「ただ設計そのものには抵抗はありませんでした。大学でCADには慣れていましたので」

正社員になって1年。当初担当していたCAD設計から、製品パンフレットや3Dで確認できる製品のCG制作へ業務の幅が広がり、意外なことに誰よりも長く社内にとどまっているという。そこまで変貌した理由は何だろうか。

ものづくりが好きなら、やりがいはきっと見つかる

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「どうしてでしょうね。言葉は悪いですが残業を嫌がっていたのが不思議なくらいです。興味のある仕事を好きなようにやらせてもらって、むしろ時間がないくらい」と笑う。CAD設計したものをCGに変換していく作業など、リアルな仕上がりに際限はないようで、ついつい時間を忘れてしまうのだという。

実現したい目標ができれば、積極的に稟議(りんぎ)書もあげる。「精巧なCG画像を制作するために、非常に高価なソフトの購入をお願いしたんです」。稟議が通っただけでなく、ソフトをストレスなく稼働させるため、PCのスペックも増強され、さらに高度なCG技術を学ぶための研修にも参加できた。「自動車メーカーのデザインを任されるような制作事務所で研修させていただき感激しました。研修終了後には作品を披露したのですが、それを見たCEOから『う~ん、変人だ~』と笑いながら高く評価され、いっそうやる気が出ました」

正社員になってからの初めの1年間、同社でCADでの設計を経験したこともCG制作に大いに役立っているようだ。たとえば「ガジラ」の立体図を制作する際にも、実際に設計したエンジニアリングの経験があるため、よりリアルな表現が可能になり、製品プレゼンテーションの現場でも、より効果的にイメージを伝えることに役立っている。

ものづくりを追求できる職場

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CGを駆使したフォトリアル制作への興味が尽きないという猪塚氏に、今後かなえたい夢のかたちをたずねてみた。「CG制作の技術レベルを上げ続けること。どこまでやっても切りがないのですが、挑戦しがいはあります」と、笑って答える。

「自分の目標と、会社が目指している方向が一致していると感じています。やりたいことを見つけさせてくれたのは、この会社だったと感謝していますし、だからこそ期待に応えられる高いスキルを身につけたいと思っています」。CGで再現したアタッチメント製品をモニター上で動かした際に見られる光の反射の具合、あるいは溶接の盛り上がり方などディテールをよりリアルにと、猪塚氏の追求は終わらない。

「岡山市にメーカー開発設計やCGの仕事なんてないと諦めている人は少なくないかもしれませんが、やる気のある人にはぜひ、当社の存在を知ってほしいと思います。そして今後入社される方々に、私の修得した知識を伝えられる存在になっていきたいです」。ものづくりの発展にとことん取り組める環境がある。成長したいと考える人には理想的な職場だといえそうだ。

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株式会社タグチ工業 技術本部

猪塚 敦子

1985年生まれ、香川県香川郡直島町出身。2009年3月、横浜国立大学工学部物質工学科中退。2009~2012年、研究職や派遣社員として勤務。2014年6月、株式会社タグチ工業に派遣社員として入社。2014年10月、株式会社タグチ工業に正社員として入社、技術本部へ配属。以降、技術本部で開発設計、2017年からはCG作成を手掛けている。

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