サプライヤーの一歩先を行く「Tier0.5」戦略で 自動車業界のイノベーションをけん引する
GLOCAL MISSION Times 編集部
2017/08/28 (月) - 13:00

激動する自動車業界のなかで

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一台の自動車には、約3万個の部品が使用されているといわれる。この膨大な部品を効率的に生産するため、今日の自動車業界はカーメーカーを頂点とするゆるぎのないサプライチェーンが構築されている。この中ではメーカーは階層化されており、カーメーカーに重要モジュール製品などを直接納入する企業を「Tier1」(第1次サプライヤー/主力モジュールメーカー)、Tier1に自社製品を納入する企業をTier2、以降、Tier3、Tier4として、国内の自動車業界が形作られてきた。しかし今やITの急速な進化により、これまで自動車とは無関係だったコンピューター関連企業やエネルギー関連企業など、世界中のメーカーが独自の技術を武器に自動車業界に参入しようとしている。では、このように新規参入を展望するメーカーは、どうすれば自動車サプライチェーンの一角に名を連ねることができるのだろう。そこに、「Tier0.5」というコンセプトを掲げ、自動車の研究開発・サービスを展開するAZAPAの存在意義がある。

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AZAPA株式会社

2008年、大手自動車メーカーでエンジン制御システムの開発をしていた近藤康弘代表取締役社長が設立したベンチャー企業。自動車業界での存在感は抜群で、大手自動車メーカーの研究開発部門や、自動車業界への参入をめざす各種メーカーの研究開発部門のエンジニアが、さまざまな開発課題を携えて引っ切りなしにAZAPAの門をたたく。少し前まで「夢のクルマ」と称された自動運転車の登場がいよいよ目前に迫った今、さらに「その先」の自動運転車の実現に向け、同社への期待は大きい。AZAPAとは、チリを原産地とするオリーブの希少種の名。平和の象徴であるオリーブを社名に冠したところに、同社がめざす未来社会の姿が見える。

本社所在地
〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦2-4-15 ORE錦二丁目ビル2F
設立
2008年7月
従業員数
70名(国内グループ含む/うち約1割が博士号保有者)
資本金
6,500万円

2008年7月

AZAPA株式会社設立

9月 

本社オフィスを移転

2009年4月

中国・上海に事務所を設立
ADEA株式会社を設立

2010年7月

資本金を800万円に増資

9月 

中国・北京に阿軋?(北京)科技有限公司を設立

2011年7月

資本金を2,500万円に増資

10月 

資本金を6,500万円に増資
沖縄にAZAPA R&D OKINAWAを開設

2012年4月

アメリカ カリフォルニア州に AZAPA R&D Americas,Inc.を設立

10月 

神奈川にAZAPA R&D YOKOHAMAを開設
神奈川にAIZAC株式会社を設立

2013年12月

東京にAZAPA R&D TOKYOを開設

2016年1月

本社オフィスを移転

11月 

AZAPA R&D YOKOHAMAをAZAPA R&D TOKYOと統合・移転

2017年4月

ADEA株式会社からAZAPAエンジニアリング株式会社へ名称変更

自動車業界にソリューションを提供する

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「お客様からのオーダーは、とにかく雲をつかむような話ばかりです」。そう語るのは研究開発本部の渋谷涼太マネージャーだ。

たとえば、自動車メーカーの研究開発部門から「『自動車の挙動を予測できれば燃費が改善する』という論文を海外で見つけたので検証してほしい」というオーダーが来る。そこで関連する要素を一つずつ分解し、自動車の燃費に関わるシステム全体を「数式」のモデルに置き換える。これにお客様から提供されたデータを投入し、実際の運転状況を想定しながら本当に燃費が改善されるかを検証する。これが、AZAPAのコア技術である「モデルベース開発」である。

一般的に、モデルベース開発とは仕様書に書かれた機能(制御ロジック)を数式とブロック線図でビジュアル化し、機能ごとにシミュレーションすることで開発プロセスのスピードアップを図る手法である。近年、要求分析から各種設計、コーディング、テストまでのプロセスが求められる自動車のECU開発でよく用いられるようになった。しかしAZAPAの場合、この手法を「自動車とは何か」といった、極めて概念的なアルゴリズムの解析に用いることで、開発プロセス全領域のイノベーションを生み出そうとしているところに大きな特徴がある。

ドライバーの心理状態に合わせた自動運転

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この手法を使って渋谷氏が取り組むのが「予測アルゴリズム」による燃費の改善。ドライバーにウエアラブル端末を装着させ、交差点や道路環境などの静的情報と、他車・歩行者などの動的情報に対してドライバーがどのような操作を行ったかというデータを収集する。

「このデータを分析し『次にドライバーはアクセルを戻すから、その前にエンジン出力を抑えよう』というアルゴリズムを組みます。従来とはまったく異なる視点からの、燃費改善へのアプローチです」

AZAPAでは、「人と機械の協調」をテーマに、この手法を自動運転にも応用しようとしている。「自動車は単なるロボットではなく、もっと人間に寄り添ったワクワクする乗り物だと思うからです」と渋谷氏は語る。

現在、ビッグデータの分析によってドライバーの心理状態をパターン化し、たとえば感情が高ぶっているときには自動車が「ブレーキを早めに作動させよう」と判断する、といった自動運転アルゴリズムを開発中のAZAPA。将来は静脈暗証技術と組み合わせ、より正確にドライバーのキャラクターを認識し、一人一人に合わせた自動運転車の実現をめざしていく。ここが、いわゆるIT系企業が推進する自動運転との最大の違いである。

あらゆる機械と、人が協調する世界をめざす

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モデルベース開発が机上のシミュレーションであるのに対し、独自に開発した「AZP-LSEV」という電気自動車を使ってアルゴリズムの検証ができるのもAZAPAの強さである。渋谷氏も頻繁に沖縄のR&Dセクションに赴き、自身がプログラミングしたソフトウエアの動作を確かめる。実験車はまだ公道を走れないため、今は駐車場内でデータを採取し、東京で解析とプログラミングを行うという。

またAZAPAでは、自動車業界以外のメーカーからの依頼に基づいて検証を行う「共創ソリューション」という取り組みにも力を入れている。「今、ある光学機器メーカーが開発したカメラを実験車に搭載し、このカメラにどのような機能を実装すれば運転支援デバイスとして利用できるかという検証を行っています」と渋谷氏は教えてくれた。

この共創ソリューションを通して、モデルベース開発と高度なエンジン制御技術を武器に、自動車分野から家電、物流、医療、農業まで、AZAPAがめざす「人と機械の協調」は、さまざまな領域へと広がりを見せている。

日本の自動車業界にはイノベーションが必要だ

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国内の多くの大手自動車メーカーの研究開発部門をサポートし、自動車業界にイノベーションを起こし続ける。そんな思いを抱くAZAPAを立ち上げた近藤康弘代表取締役社長は、もともと自動車にはまったく興味がなかったという。

大学を卒業して大手メーカーでシステム開発に携わり、29歳のときに縁あって自動車メーカーに転職。ここでエンジン制御システムに出会い、人生が大きく変わった。「驚いたのは、高級車に乗せられて『これと同じ感じの車を作れ』と先輩に言われたこと。だから全身で車を感じ、その感じを再現するための制御を必死で考えました」

もともと苦手なことほど挑戦したくなる性格。だから苦手だった車の仕組みを徹底的に勉強し、3年をかけて自動車の「走る・曲がる・止まる」仕組みをすべて理解した。「当時、シリンダー内に取り入れられた空気がどのような渦を描いて燃焼・爆発するかを粒子単位で説明できるまで勉強しました」

しかし転職から約10年が過ぎたころ、リーマンショックが起きた。安泰と思っていた日本の自動車業界が大きな影響を受けたのを見て、近藤氏は大きな危機感を抱いた。「そのとき、この業界にはオープンイノベーションが必要だと思ったんです」。この志のもと、近藤氏が立ち上げたのがAZAPAである。

Tier0.5というポジション

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AZAPAを立ち上げた後、近藤氏はMIT(マサチューセッツ工科大学)の「システムダイナミクス」という手法を知り、世の中の価値を根源的に解きほぐして考えるようになった。これが、後にモデルベース開発の手法に結びついている。「システムダイナミクスで自社を見直すと、自動車のエンジン制御ができるということが当社の最大の強みだということに気づきました」

エンジン制御では、エンジン自体の極小解を求めるのではなく、パワートレーンやドライブトレーン、ランニングシステムなど、自動車全体を見て最適解を導かなくてはならない。また、そこにはドライバーの感性や路面状況などの要素も関わってくる。「つまりエンジン制御を経験した技術者は、自動車のことを誰よりも知っているんです」

そしてエンジン制御技術を核にソリューションを提供するうち、自動車メーカーが持つ、まだ定義さえされていない漠然とした課題をモデル化し、最適解を導き出すという同社のビジネスモデルが生まれた。これが、自動車の研究開発や量産設計のサポートを行う「Tier0.5」というポジションである。

AZAPAの名に込めた、世界平和への思い

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Tier0.5を掲げると、今まで自動車とは無縁のメーカーや研究機関、さらに生き残りをかけた自動車部品メーカーなどからの問い合わせが急増した。その多くが、自社のコア技術を自動車業界で生かすにはどうすればよいかというもの。AZAPAはそんな課題を持つメーカーや研究機関とジョイントし、自動車業界にイノベーションを起こそうとしている。共に新しい価値を創り出す試みとして、近藤氏はこれを「共創ソリューション」と呼ぶ。「当社がめざすのは、自動車だけでなく、あらゆる機械と人間の協調です」

しかし近藤氏が見ているのは、さらにその先だ。「AZAPAとはオリーブの希少種の名。オリーブの花言葉には『平和』や『知恵』といったものがあります。私たちは、技術の力で世界に平和と豊かさを届けたいと思っています」

今日、AZAPAではBOP(Bottom Of Pyramid/貧困層)市場に積極的に技術を提供し、長期的な視野で貧困国の自立と経済の発展、そして世界レベルでの平和と繁栄をめざしている。「そのために、私たちは誰よりも高い技術を持ち、誰よりも高貴で優しくなくてはなりません。理想は高いですよ」。イノベーションの向こう側に世界の平和を見すえる。近藤氏の夢は、これからが本番だ。

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AZAPA株式会社 代表取締役社長

近藤 康弘

子どものころ、兄が書いたプログラムに憧れてエンジニアをめざした。大学卒業後は組み込み系制御システムの開発に従事する。当時から苦手なことほど積極的に関わるというストイックな性格で、「苦手な先輩や上司には必ず自分から挨拶した」という。自動車メーカーに転職した後、3年かけて自動車を徹底的に勉強した。これが後にAZAPAのコア技術である「制御開発・モデルベース開発」へとつながっている。

IT業界におけるモノづくり支援に限界を感じて……

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「大学を卒業してから、ずっと外資系企業で営業をしてきました」と語るのは、事業企画部の粕谷真則担当部長。外資系の大手コンピューターメーカーやPLM業界でコンサルティング営業としてのキャリアを積み、2017年の6月にAZAPAに入社した。

転職した理由は、そろそろ外資系以外の企業でじっくりとものづくりを勉強したいと思ったこと。そして何よりも、代表取締役社長である近藤氏の魅力が大きかったという。特に粕谷氏が驚いたのは、「イノベーションで世界に平和をもたらしたい」という近藤氏の言葉だった。「こんな情熱的な経営者は、今まで見たことがありません」。IT業界でのモノづくりへの支援に限界を感じていた粕谷氏は、本物のイノベーションをAZAPAで実現できると実感し、同時にAZAPAの存在をもっと世に知らしめたいと感じたという。

入社後、近藤氏に対する印象はさらに変わった。「情熱的というだけではありません。これだけ勉強している経営者は、他にいないと思います」。粕谷氏に言わせると、まるで宇宙人のような奇想天外なアイデアが次々と飛び出してくるのだという。「自動車のエンジン制御で培った技術を、まったく違う医療に生かすという発想なんて、普通はなかなかできません。社長は私より年下ですが、話をしているととても勉強になります」

外資系企業とは180度異なるマインドの会社

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初めて外資系ではない企業で働くことになった粕谷氏は、AZAPAの企業文化に大いに衝撃を受けたという。「どちらが良い・悪いではなく、AZAPAは私が知る企業とは180度違うマインドの会社でした」

当然だが、外資系の大手企業と比較すると組織の規模が違う。AZAPAはまだ設立して10年に満たないベンチャー企業。組織がまだ確立していないため、新しいことを始めるための障壁はきわめて低い。また、いわゆる外部とのパイプ役を担う営業を近藤氏が一人で行うため、ガツガツとお金もうけをするというよりも、丁寧にものづくりを行う姿勢を大切にしていることも、粕谷氏にとっては驚きだった。「そして何よりもAZAPAと外資系企業の一番の違いは、長い時間をかけて人を育てようという社風があることでした」

粕谷氏が所属していた外資系企業では、成績が上がらなければ3カ月後には解雇されるのが当然だった。しかし、AZAPAの目的はあくまでも自動車業界におけるイノベーションをけん引すること。それが容易でないことは、自動車業界の営業経験がある粕谷氏は理解している。だからこそ、時間をかけて人を育てるAZAPAの姿勢が魅力に映るのだ。

世の中にない商品を事業化する責任

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粕谷氏がAZAPAに入社するとき、近藤氏から「事業企画を任せたい」と言われたという。事業企画とは、AZAPAで開発してきたソフトウエア・ハードウエアの成果品を製品化するということだ。粕谷氏はこれまで自動車関連ソフトウエアの営業・マネージャー経験はあったが、世の中にない技術製品の商品化を手掛けてみたいという夢を持っていた。

「これまでのIT業界なら、製品がどういうサイクルで売れるかは予測ができます。しかしAZAPAの場合、従来にない最先端の商品であり、ニッチな商品が多いため、既存の常識が通用しません。その見極めがとても難しいですね」

粕谷氏が考える今日のAZAPAの課題は、市場に出せる価格・品質を実現するためのブラッシュアップと、企業の知名度アップだ。「とにかく、私がもっと頑張らなくては。今のスピード感だと、外資系企業ならとっくにクビです」と笑いながら語る粕谷氏。既に、いくつかの商材に、未来に大きく化けそうな可能性を感じているという。AZAPAという自動車業界の「突然変異種」を実らせ、AZAPAの名を世にとどろかせる役割を担うのが粕谷氏なのである。

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AZAPA株式会社 事業企画部担当部長

粕谷 真則

外資系の大手企業でコンサルティング営業のキャリアを積んだ後、IT業界でのモノづくり支援の限界を感じ転職活動を行い、近藤氏と運命的な出会いを果たしてAZAPAに入社。これまでとはまったく違う環境で、刺激的な毎日を送る。

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