契約農家を大事にし、結ばれた強い絆。

宮崎県の最南端に位置する串間市。宮崎空港から車で約１時間半、サーフスポットとしても有名な海岸沿いを走り、山道を越えると「AOI FARM」のロゴが記されたが巨大な倉庫が目につきます。ここに、くしまアオイファームの本社がありました。

「くしまアオイファームは、青果用のさつまいもに特化した事業を展開する企業です。独自にブランディングしたさつまいもの生産から加工、販売を一貫して行っています。ここは特別なものはない片田舎ですが、実はさつまいもの生産やアジアへの輸出には適した地域なんですよ」

そう取材班を出迎えてくれたのは、取締役副社長の奈良迫洋介さん。2年前に転職し、東京から串間に移住しました。

くしまアオイファームは、さつまいもの生産を自社農園で行うとともに、約100ヶ所の農家と栽培契約を結んでいます。生産規模は、自社生産が20ha、契約農家は100haほどで、契約農家のエリアは、串間市内にとどまらず、鹿児島県志布志市、種子島の安納地区、熊本県大津町、大分県豊後大野市など広範囲に及んでいます。

「創業は1950年、でんぷん用さつまいもの栽培農家でした。池田社長の祖父が小規模の栽培を開始し、2013 年の法人化後、現在は 100 軒の契約農家まて゛広か゛っています」。

たった5年て゛、と゛のようにしてここまて゛拡大て゛きたのて゛しょうか。

「農家さんからの信頼を得るために大事にしていることは、時間や支払いの約束を忠実に守るといった、当たり前のことを当たり前にすることですね。契約に至っては、唐突にお願いしても断わられることも多いですし、粘り強く交渉を重ねて、時には他の農家さんから紹介してもらい理解を求めてきました」

そして彼らは、契約農家を対等なビジネスパートナーとして、共に成長するために、さまざまな取り組みをしています。

「何かがあればすぐに駆けつけますし、情報の共有も怠りません。また、農家さんを海外の展示会に連れて行くこともあります。生産現場だけでなく、自分たちが作ったさつまいもがどのように評価されているのかを、ダイレクトに知ってもらうためです。直接反応を知ることで、彼らのモチベーションにもつながります」

こういった関係づくりが、農家さんとの絆を強固にし、さつまいもの品質向上にもつながっていると言います。

あおいファーム最大のミッション「強い農業は、超えていく」

「私たちが掲げるビジョンは『強い農業は、超えていく』。”強い農業”とは、『安全・安心を前提に、さらにおいしい農産物を作り、安定的で高い収益性を生む農業』のことです」

そう語る奈良迫さん。日本全体の農業への危機感とその変革への思いが込められていると言います。

「日本全体で農業者が減少している負のスパイラルから抜け出す方法は、農業が儲かることです。いいものを作り、相応の対価を得ることができる仕組み作りなんです。そのため弊社では生産者と直接取引をすることで、販売価格は安く、生産者の利益は高くなることを実現させています」

しがらみや既成概念、自分自身も超えていくことで、農業に関わるすべての人が肥えて、豊かに幸せになっていく社会を作りたい。そこには、家業として、自らも農家として池田社長が味わってきたこれまでの様々な経験が礎となっています。

「先人の知恵を知り、学び、自分たちのものにする。今の時代に合わせて変えることが、新しい未来を切り拓くことだと思っています。それを、私たちは『温故拓新』と呼んでいます。将来農業を志す若者を増やしたいですし、農業を継がせたい仕事にしたいんです」

品種、貯蔵、販促。惜しみなくこだわり、とことん突き進む。
くしまアオイファームクオリティ。

ビジョンを具現化するためのくしまアオイファームの挑戦は、生産に留まらず、加工、流通、販売にまで多岐に渡ります。

「私たちの強みの一つは、さつまいもの多品種生産です。通常、徳島は『なると金時』、種子島なら『安納芋』と、ひとつの地区に1品種という生産地域が一般的ですが、私たちは、現在5品種を栽培しています。サイズや甘みの異なる多品種を生産することにより、例えばバイヤーはあちこち電話をかけなくても、アオイファームに注文すれば事足りますし、取引先が一本化できるというメリットがあります」

その5品種のさつまいもの年中出荷を可能にするのが、西日本最大級を誇る1,200t収容可能な貯蔵庫です。

「昨年新たに設けた貯蔵庫が、高品質なさつまいもを一年中出荷できる方法を可能にしています。さつまいもは通常8月から11月までが収穫期なのですが、収穫後に傷だらけになっているものも少なくないんです。それを貯蔵庫に入れることによって、適正な温度や湿度で管理することができ、傷も自然に治癒し活性化します。さらに長期保存も可能です。どの農家さんが育てたさつまいもか、管理もデジタル化することでトレーサビリティも徹底しています」

また、商品開発においては、6次化認定企業として消費者ニーズに合わせた積極的な商品開発を行うとともに、販売の領域でもきめ細やかな販促を実現しています。

「商品パッケージでは、生産者の顔を見せて、農場と売場をつなぐことで、安心感・信頼感を伝えています。売場棚も自ら提案し、店舗や客層に合わせたブランディングを行っています。少しアッパー層がターゲットとなるスーパーさんにはモダンなデザイン、大衆向けのスーパーさんには親しみやすいパッケージなど、売場に合わせた商品を店頭に並べています。現場毎に迅速に対応できる体制は、社内にデザイナーを抱えている弊社ならではの大きな強みでもあるんです」

さつまいも民間出荷量第一位。宮崎という立地から逆転の発想。
アオイを世界ブランドにするために海外へ。

こうした強みをいかんなく発揮しながら、急成長を続けるアオイファームは、国内のみならず海外向けのさつまいも輸出量が民間企業の中でナンバーワンに上り詰めています。
現在、シンガポール、台湾、タイ、マレーシア、香港、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどに輸出しており、特にシンガポールにおいては海外輸出シェアの80%を占めます。

「宮崎という立地からの逆転の発想なんです。東京など首都圏の大消費地は遠く、近隣の千葉、茨城産にシェアを占められ、同じ土俵に立つメリットがないのが現状です。ならば別の土俵で勝負しようと、海外へと目が向きました。海外への輸出のウエイトはどんどん増え、販路拡大へ向けたビジョンもすでに描いています」

くしまアオイファームの年間輸出量は375t、輸出額14,426万円。前年度比480%という急速な勢いで上昇しています。

「2020年までには10ヵ国に輸出し、輸出量は2,000トンを見込んでいます。今は、日本から輸出されるさつまいもの5割のシェアを占めることが目標ですね。そのために、農産物の国際認証であるグローバルGAPやHCCP取得を視野に入れ、国内トップクラスのさつまいも選果場を建設しました」

また、流通面でも妥協を許しません。現状、シンガポールであればさつまいもを出荷するには15~20日ほどかかるため、通常の輸送では半分ほどが腐敗してしまうのですが、海外で売れる小ぶりのさつまいもを最低限のロス率で出荷することを実現させました。

「私たちはメーカーといっしょに専用の袋を開発して、コンテナやダンボールの改造にまで取り組み、腐敗率を下げることに成功しました。生産からお客様の手に届くまでを細かくチェックし、“さつまいものことなら、なんでもやる”のがアオイファームなんです」

串間市が日本を代表するさつまいもの輸出拠点となる日も、そう遠くはないのかもしれません。

社長の即決力と大胆な権限委譲が、会社を成長させる

これほどまで、多岐に渡り挑戦し変革を実現するくしまアオイファームの底力は、若さ溢れる社員と会社の社風にありました。 従業員は法人化時点は4人だったのが、2017年11月現在でパート・アルバイトを含めて70人まで増えています。

「スタッフの平均年齢は30歳。若手が多く、社長も社員と同じフロアに机を構え、社長室はありません。何事もスピードが早いですね。先手を打って勝負して、ダメだったら手を引くのも早い。社員の声も通りやすい社風で、口に出せば任せてもらえます。責任感とやりがいがある仕事ですね」

勢いあるくしまアオイファームで働くスタッフの実情と、今後会社が展開していくために求める人材、そして未来への展望とは。後半に続きます。

ルールやしばりが少なく、スピード感あふれるビジネス。

スタッフ平均年齢30歳、スタッフ70名の新進気鋭くしまアオイファーム。
パート・アルバイトスタッフや農家さんとのコミュニケーションを欠かさず、さつまいも愛に溢れ、野心漲る副社長奈良迫さん。前職は東京の商社に勤めていました。

「当時は、日本食品を海外へ輸出する部門に勤めていました。その中で、さつまいもの可能性を知り、偶然台湾のスーパーで、あおいちゃんマークのさつまいもを目にしたんです。こんなところに日本のさつまいもが出荷されるのかと、マーケティング手法に惹かれたのが始まりです」

その後、食品部門を外れることになった奈良迫さん。さつまいもの情熱に火が点き、アオイファームへ自ら問い合わせました。

「求人があるかも知らずに、電話で直談判しました。採用されて、東京を離れるときも、夢があったので恐れはなかったですね」。実際に転職し働き出すと、驚きの連続だったと言います。

「ここではすぐに意見が通るんです。入社半年で、発案した現地生産拠点を作るために、ベトナムに海外転勤したことがありました。わずか入社半年の私の提案を受け入れて、事業そのものを任せてくれる。半年くらいベトナムで奮闘し、インフラ整備や輸送費の問題で最終的に断念したのですが、折々に社長の指示は仰ぐものの、ほとんどが私自身の判断に委ねられていました」

ダイナミックな決断と行動力。圧倒的なスピード感で取り組み、前進か撤退かという決断もすこぶる早い。社長との信頼関係が築かれる中で、奈良迫さんは確かな手応えを感じたと言います。ワークスタイルについて訪ねてみると

「くしまアオイファームは私が以前働いていた商社に比べ、ルールやしばりが少ないのが大きな特徴ですね。ベトナム案件も、起案者として次こそは！と闘志が湧きます。一方で、いろんなハプニングも日常茶飯事。いきなり畑に土砂が流れ込んできたり、南国なのに水道管が破裂したり。農家さんのところにも駆けつけます。こんなにハプニングが多いのも、自然を相手にする地方だからでしょうか。
また、ビジネスの場面で言うと、リアル店舗の焼き芋屋さんをやりたいね、と内部で話していたら、外部からそうした商談が舞い込んでくるというようなことも多々あり、不思議に感じています」

正社員の平均年齢は30歳と若い企業。社長と社員の距離が近く、だれの意見にも対等に耳を貸す。それだけ社内に活気がみなぎり、その熱い気持ちが社外にも伝わり、奈良迫さんが語るような商談を呼び込むのかもしれません。

殿（しんがり）を務める。
新しいことを始めた時に落ちるものをひろっていく。

地方企業だからこそ、Uターンしてアオイファームへ入社した人もいます。入社2年目、総務部で経理を担当する山下友美さんもその一人。入社した経緯を伺いました。

「前職はフランチャイズの学習塾に勤め、九州各地を担当し転々としていました。会社を辞め実家に戻り一定期間休んだ後、職探しをしよう思いましたが、この辺りの求人は介護や医療関係がほとんど。その中で、アオイファームの存在を知って応募、採用となりました」

前職の業務とは全く異なる分野での、あたらしい業務。実際に働いてみてどうだったのでしょうか。

「入社したての頃は、上司が全員私より若いので驚きました。ああ、どうしようという感じでしたね。スピード感がすごくて、決定が速いんです。ビューンと行くんですが、まちがえたと思うとスーッと引くって感じです。それに、私なんか入社2年目でまだ新人ですが、こうした方がいいんじゃないですか？と提案すると、任せた！って声が返ってきます」

社内の懸案事項が会議室といったあらたまった場所で決まるのではなく、現場現場で決定されていく風土。池田社長は社員の中に入ってフランクな話し合いの場をもちながら、物事を決めていきます。仕事のやりがいについては、

「任せたって言われるのは嬉しいですね。失敗したら降ろされるかもしれないですけど…。そこは覚悟の上でやっていますし。また、社内のいろいろな体制についても意見を言わせてもらえます。経理は過去しか見ないのですが、未来の事業戦略について発言しても好意的に受入れてもらえます」

一方で、串間市での暮らしや環境については、近隣の宮崎市や日南市も車で行き来できる距離で、転職して移住してきたスタッフも、買いものや子育てには困らないようです。

「ふだんの暮らしに必要なものは近くのスーパーで間に合いますが、ファッションや色々な買い物となると、車で1時間半ほどかけて宮崎市内へ出かけます。隣の日南市は移住者も多く、ここまで30分で通えます。串間市には、小・中学校、それに高校もあります。保育園の待機児童なんてゼロですよ。唯一ネット回線も光が届いていないのと、出荷などの配送面でリードタイムを必要とするのが困る点ですね」

山下さんの今後の仕事への取組みについて尋ねて見ると、頼もしい言葉が返ってきました。

「私は社内の中ではお姉さん的存在です。新しいことや改革をしていくタイプではありませんが、経験があるので、後方を任せてもらえる人になりたいと思っています。新しいことを始めると、ポロポロと落ちていくものがありますよね。そのこぼれていくものを拾ったり、整えたりする役割を担っていきたいと思っています。なにか失敗が起きた時に、殿（しんがり）を務められる人間でしょうか」

くしまアオイファームスタッフは、前職もバックグラウンドも様々。多様性があるからこそ、個性や得意分野を生かしながら、チーム一丸となって、ミッションに立ち向かう。このチーム力が、会社を急成長させる最大の要因なのかもしれません。

くしまアオイファームの飽くなき挑戦

くしまアオイファームの今後の展望を奈良迫さんに聞いてみました。

「今後は、海外の生産拠点、輸出拠点を作ることを目指しています。アフリカに輸出するためにも、海外に生産拠点を持ちたい。海外輸出は、2020年までに10ヶ国、総輸出量2,000t、日本からの輸出シェア50%を目指します。また、さつまいも専門店を世界展開して『YAKIIMO』を世界共通語にしたいです。どれも壮大な夢に思われますが、こうやって目標を掲げることで、私たちスタッフは果敢に挑戦していけます。そして何よりも、1人でも多くの人にアオイファームの美味しいさつまいもを食べてもらいたいですね」

この壮大な夢を実現するための課題についても聞いてみました。

「多方面にどんどん走らせている状況なので、全般的に人材不足ですね。裏を返せば、やる気さえあれば、活躍できるフィールドはいくらでもあります。移住して転職する正社員はもちろん歓迎しますし、首都圏にいるままでも、経営者やプロフェッショナルの方々に、弊社のパートナーとなって我々の事業に専門の能力を発揮していただきたいです」

土地柄をうまく取り入れ、地方から海外に展開し、社員の声を取り入れ、迅速でスピーディな事業展開をするくしまアオイファーム。将来的にも可能性を感じさせる企業に共感し、自分の能力を新しいフィールドで発揮してみたい人や、日本の食の海外輸出に興味のある人、自身も挑戦してみたいと思う人は少なくないのではないでしょうか。

モテる大人こそ、アオイファームが求める人材

「とにかくモテろ。逆に言うとモテようとしないやつはいらない。今モテようとしなくてもいい。モテようとする姿勢が大切だ。異性だけじゃなく、すべての人間、なんならすべての生き物にモテまくれ」

これは「アオイファームの行動指針」です。自分を信じて努力を重ね実践し、目標を達成できたら自慢せず、まわりの人に優しく教えてあげる。きつくてしんどい時も顔や態度に出さず、満面に笑顔をたたえキラキラ輝いている。そういう人こそがモテる大人であって、くしまアオイファームの求める人材です。

求人については、具体的には、商品開発やマーケティングができる人。品質管理ができ、だれとでも対等にコミュニケーションを取れる人。インボイスなどを書くことができ英語が堪能で海外営業ができる人。経理や財務で一次決済できる人などなど。しかも、週3日勤務、繁忙期のみ働く、外部からのアドバイザー的な役割というように、働き方についても要望を出すことが可能です。若い会社ですがポテンシャルが高く、地方にあっても中央や海外と対等に渡り合える企業でともに挑戦しませんか。今後も、くしまアオイファームの素早いアクションから目が離せません。