盛り上がる地方創生の「今とこれから」を確かめる──第1回地方創生EXPOレポート
鳥羽山 康一郎
2018/04/04 (水) - 08:00

「地方創生」とは2014年、安倍内閣発足に際して発表された重点政策のひとつだ。東京圏への一極集中を是正、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることが目的とされる。このかけ声のもと、国・地方自治体・民間企業を挙げての取り組みが始まっている。5年目を迎える2018年、これに関わるさまざまなジャンルの出展社が一堂に集まった「第1回 地方創生EXPO」が開催された。その会場を歩きながら、地方創生は今どう進んでいるか、これからどう進んでいくかを報告してみたい。

開催日:2018年2月21日(水)?23日(金) 会場:幕張メッセ

目立った地方自治体などからの来場者

会場となったのは幕張メッセ。6つのホールを使い、「イベント 総合 EXPO」「ライブ・エンターテイメントEXPO」「スポーツ ビジネス 産業展」といった展示会との同時開催となった。それらと合わせ、出展社は630に及ぶ。3日間の来場者は合計で24,000人近く。会場内を歩いている人たちのネームタグを見ると、地方自治体の関係者とおぼしき来場者がとても目立つ。テーマが「地方創生」であるから当然だが、主催者であるリード エグジビション ジャパン株式会社の発表でも、来場対象を「自治体・観光協会・観光案内所・商工会議所……など」としている。出展社は観光やサービス産業、地域産業や企業支援といったジャンルが目立つが、後述するようにエンターテイメント、アミューズメント、スポーツ産業の出展社とうまい具合にシンクロしていることがわかる。地方創生の大きな要素である「観光」は、これらジャンルを取り込まなければ成立しないからだ。言ってみれば、自治体と民間企業とのマッチングの場ともなっている。実際、ブース内には「商談スペース」が設けられ、詳細な説明を受けている来場者の姿が目立った。企業側としても、相当「濃い」ターゲットが多数行き交うわけだから、このEXPO出展は大きなチャンスと捉えているだろう。

何でもありの賑やかなコンテンツ

こういった大規模展示会の常だが、大手企業の華やかで大がかりなブースと、1コマ程度のスペースに出展しているこぢんまりしたブースとの対比が面白い。コンパニオンや着ぐるみのキャラクターが呼び込み、目立つ装飾をしつらえたブースに目を奪われながらも、小さいけれど工夫を凝らした展示ブースの前でも足を止めることが多い。
すべてを紹介するのはとても無理だが、「GlocalMissionTimes」のフィルターを通した視点で引っかかったいくつかのジャンルやブースを紹介していこう。

●イベント系
「人を集める」ことに関しては、何と言ってもイベントの力によるところが大きい。従って、非常に多くの出展社がイベントに関わるコンテンツを展示していた。単発・単品の目玉イベントをアピールしているブースも多い中、きゃりーぱみゅぱみゅや中田ヤスタカらを擁するアソビシステムは、コンサルタント業務まで視野に入れたイベントによる地方創生を謳う。所属タレントやクリエイターらを起用する尖ったイベントのプロデュースを既に全国で開催しているとのことだ。
体育会系の人材事業などを手がけているグリットグループホールディングスは、「祭」をテーマにしたブースを出展。日本ならではの祭を訴求することでインバウンド集客もターゲットにしている。
サイバースタジアムは、ステージ全体をゲーム画面にして、モーションキャプチャーカメラを使った映像でプレイヤーが遊べる仕組みを実演。VRゴーグルを付ける必要がなく、大画面で展開できるので非常に人目を惹くだろう。

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●ITソリューション系
イベント系ブースの華やかさとは対極をなすが、こちらもニーズの高そうなのがITソリューションを謳ったブースだ。地方の中小企業では基幹システム自体が何世代も前というケースが多い。自治体も同様かもしれない。どんなトラブルがあるか、何を訴求して地方創生を行うか、それぞれの業務に合わせたパッケージソリューションを商品化している出展社も目立つ。例えばシステムディというソフトウェア開発会社もそう。会計、文書管理、教育、アミューズメント施設の顧客管理など、地方創生に特化したパッケージをアピールしていた。

●出版社系
会場では、出版社の出展も目を惹いた。自社媒体を持ち、それらを活用することで地域のPRを行うというわかりやすいアピールの他、各社が蓄積してきたノウハウをどうアレンジするかの提示が多かった。

扶桑社
主婦系・生活系の雑誌を活用した広告出稿や記事タイアップなどの訴求以外に、エリアをアピールする書籍の自費出版、ふるさと納税の支援、インフォマーシャル制作などを掲げていた。

小学館
こちらも自社雑誌、特に若い女性向け雑誌とのタイアップ企画やコンテンツ制作を売り物にする。また、アウトドア誌主催のイベントを通じて地域の食や伝統、自然を紹介して移住にまで結び付けるロードマップも見て取れた。

モーターマガジン社
車やバイクなどの趣味雑誌を数多く出版している同社だが、愛好家を集めてのイベント開催で地域創生につなげる試みをアピール。アクティブなマニアを呼び込み、地域とのつながりを醸成する考えだ。

その他、公共図書館が地域の教養・文化の拠点であり続けるための活動を行っている図書館と地域を結ぶ協議会という任意団体が、ごく簡易に図書館を構築できるキットを展示。他にない切り口が新鮮に感じた。

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●仕事創生系
地域において仕事をつくり出すことは、地方創生における柱のひとつ。転職サイトを運営するビズリーチでは、地方での雇用創出を支援するためのコンサルタント業務にチカラを入れる。これによって大都市から地方への人の流れも強化することができる。
ユニークな試みとして、内職の斡旋を専門に行う内職市場がある。地域に出店し、その地元に住む主婦や高齢者へ内職を紹介するというもの。FC方式で増加しており、話を聞いた時点では全国47個所に出店中とのことだ。軽作業の他、デジタル作業にも対応しているので、働き方改革の進行にもつながる可能性があるだろう。

他にも、旅行系やクリエイティブ系(漫画をPRツールやキャラクターづくりに活用するブースも目立っていた)、着ぐるみ製造会社など、実に広い範囲からの出展社が集まっていた。

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ボーダレスなジャンル横断も特徴

先ほども述べたように、この日の幕張メッセでは同じ会場内で「イベント 総合 EXPO」「ライブ・エンターテイメントEXPO」「スポーツ ビジネス 産業展」も開催されていた。各イベントは特に隔てもないので、ごく自然にそれらのエリアへ移動することができる。地域の目玉となるコンテンツを探している来場者が、スポーツイベントやアーティストライブを発見するという収穫にもつながるのだ。主催者は、地方創生とエンターテイメント・アミューズメントとの高い親和性をじゅうぶん理解していると感じた。
秋葉原の地下アイドルとして抜群の人気を持つ仮面女子もブースを出していた。メンバーの何人かが普通にチラシ等を配っている光景を見て、やはり「中の人向け」イベントであることを再認識。もらったチラシを見ると、したたかな戦略のもと活動を拡大していると感じる。イージーに生み出されるご当地アイドルとは一線を画しているようだ。
他には、仮想通貨少女というタイムリーなユニットも目を惹いていた。

多くの特別講演、専門セミナーも開催

会場では、基調講演、特別講演、専門セミナーといった、識者や当事者、推進する行政側の担当者などによる講演会がほぼ一日中開催されていた。その中から、2つの講演・セミナーを紹介する。

■特別講演
自主・自立の地方創生をめざして ?まち・ひと・しごと創生総合戦略 2017改訂版を中心として?
末宗徹郎氏 内閣官房 まちひとしごと創生本部事務局 統括官補

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地方創生を推進する内閣府から、キーパーソンである末宗徹郎氏が壇上に立った。まずは、地方創生5カ年総合戦略の中間年である2017年に、KPIの総点検を行ったことを報告。その中でも問題は人口の移動。全国的に人口減は続いているが地域差はあり、また地方から東京圏への人口移動は依然として減っていない。20代の若者層では100万人が東京へ転出。10万人を超える転入超過だという。
その是正も含め、4本の柱を目標に据えて引き続き総合戦略を推進する。その柱とは、「地方の仕事」「人口の流れ」「結婚・子育て」「まちづくり」だ。
・地方の仕事:魅力的な仕事を創出することが肝要。5年間で30万人の若者雇用が目標で、中間年の2017年では18万人の雇用を実現。
・人口の流れ:先述のように東京圏へ10万人の転入超過で、改善できていない。この目標達成のため施策に厚みを付ける。
・結婚・子育て:第一子出産において、女性の仕事継続率は高まっている。子育てしやすい環境を、地方企業でも整えている。
・まちづくり:150都市をコンパクトシティにという目標のうち、既に112都市が実現。目標を300都市に上方修正した。
そして、人口の流れを改善するための具体的な施策もいくつか語られた。
進学や就職時、あるいはUIターンで転入する人たちに魅力ある条件を提示するなど、流れを変える施策も考えている。「きらりと光る地方大学づくり」の一環として、総花的な大学からの脱却を目指し、特色を持った取り組み例を紹介。高知大学の、農業と先端科学の応用で生産性アップを図る研究などが語られた。さらに、企業の本社機能移転を促すための税制改革、生涯活躍の街とするための支援施策、雇用創出に成功した岡山県西粟倉村の実例なども紹介した。
従来の「地域活性化」との違いは、危機感の強さ、省庁横断による取り組み、KPIやPDCAの導入だという。ベースとなる「まち・ひと・しごと創生法」の再確認、官民連携の推進、多様性・重層性の理解促進といった積み重ねで、成果を出していきたいと結んだ。
現在、深刻な危機感を全国の自治体が抱いていることは間違いない。それをバネにし、連携することで地方創生が少しでも前に進めばいい。楽観視はできないが、国や自治体の本気度が伝わってきた。

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■専門セミナー
地域経済活性課の先導役は地方銀行! ?【自治体×地方銀行】で進める地方創生戦略
株式会社静岡銀行 常務執行役員 大橋 弘氏

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各ジャンルの第一人者による専門セミナーでは、地方銀行の立場で地方創生を推進している静岡銀行の地方創生担当 営業本部(地方創生部)から大橋弘氏が登壇した。

静岡銀行では、2015年に地方創生部を発足させ、県内企業や自治体とともに積極的に取り組んできた。日本最長の吊り橋をはじめとする活性化事業や、県境を越えて実現した横浜銀行との連携など、数々の実績を持つ。それらの紹介をしつつ、これまでの2年あまりで見えてきた「地方創生のダメな要件」も語る。

地方創生に当たって「まず止めた方がいい」項目は、「アンテナショップ」と「プチ東京化」だという。どうすればよいかわからないまま銀座地区に特産品ショップを出店し、その多くは何の成果も上がらず頓挫しているのが現状だ。また、高度成長期に多くの市町が駅前にプチ東京をつくろうとした。しかしそれがかえって東京の価値を上げてしまい、地方の個性が失われ衰退へつながっていった。

また、地方創生の失敗条件も挙げる。「やりっぱなしの行政」「頼りっぱなしの民間」「まったく無関心の市民」──聴講者には耳の痛い指摘かもしれない。

静岡銀行が取り組んできたプロジェクトは、こういった反省を踏まえての発想だ。紹介された事例は、どれもがそれらの呪縛から解放され、かつ「まち・ひと・しごと」のどこかにぴったりフィットしている。大橋氏は、これから目指す方向として、企業の生産性向上・IoT活用・観光と農業の3つを掲げた。静岡県の現状と特質を踏まえた方向性であることは間違いない。自治体ではなく地元産業でもなく、地方銀行がハブとなって取り組む地方創生の進め方は各地域からも熱い注目を浴びている。セミナー終了後、挨拶や名刺交換のためにできた長い列がそれを証明していた。

さいごに

政府によるかけ声は、往々にして空回りすることがある。しかし、地方創生に関して言えば自治体も民間もうまく歯車が噛み合っているようだ。それはやはり危機感の深刻さによる。そして、導入されたKPIやPDCAといった検証方法が具体的という要素もプラスに働いている。行き当たりばったりの施策を繰り返して衰退する一方だった自治体も、これによってようやく経営的思考へ舵を切ったようだ。そして民間企業にとっては、大きなビジネスチャンスの到来である。この「地方創生EXPO」、既に第2回目の開催がアナウンスされているが、来年はどのくらいの規模にまでふくらむか期待していたい。

 

(参考URL)
第2回地方創生EXPO
http://www.sousei-expo.jp/

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