5月17日に行われた、楽天株式会社主催の「地方創生×ふるさと納税 ECサミット2018」。
インターネットを活用した地域振興の取り組みや、最新の動向などを共有する場として数年にわたり開催されており、100を超える自治体が参加し、今回で9回目を迎える。
このイベントの中でも、今回は、楽天Edyを活用したファンクラブ制度による「飛騨市ファン増大計画」という、岐阜県飛騨市の楽天株式会社とのファン獲得連携プロジェクトについて取材を行った。
岐阜県のなかでも目立たない「飛騨市」とは
会場は全国の自治体からたくさんの人が集まり超満員。地方の発展のきっかけをつかみたいという関心の高さがうかがえる。スピーカーは、飛騨市役所企画部地域振興課の上田昌子氏。
そもそも、今回の取り組みを行った飛騨市とはどのようなところなのか。
岐阜県の最北端に位置し、総面積792.52?の約92%は森林という飛騨市。「周囲の白川村は白川郷、高山市の飛騨高山など有名な観光地にはさまれた目立たない“市”です」と冒頭で上田氏は話す。また、目立たないだけでなく、いわゆる過疎化が進み、10年前に3万人だった人口が現在では2万6,000人にまで減り、近年も年間400人ずつ減少し、高齢化率も38%と「過疎先進地」という。
そんな飛騨市の最近の3大ニュースは、以下の3つ。
1.2015年秋に東京大学宇宙線研究所の所長である梶田隆章先生がノーベル物理学賞を受賞
2.2016年夏にアニメ映画「君の名は。」が大ヒットし、舞台となった飛騨市が有名に
3.2016年冬に夢須古無形文化遺産に「山・鉾・屋台行事」が登録される
話題性のあるニュースとはいえ、過疎化を考えると、新たな手を打つ必要がある。
何とかしないといけないと、市長からの命が下ったのが、上田氏の前任者だった。「飛騨市のファンを増やすこと」が唯一のミッション。それをどう実行していくかは担当にゆだねられていた。そこで、今までになかった取り組みを中心に、さまざまな施策を講じていく上田氏。試行錯誤の連続で、「まだ今後のことについては頭を悩ませています」と話す上田氏だが、一定の成果を上げている取組について、もう少し詳しくご紹介しよう。
口コミ作用を活かした、飛騨市ファンクラブの仕組み
飛騨市ファンクラブの仕組みは、シンプルだ。ファン登録をした会員には、飛騨市の観光地がプリントされた会員証と本人の氏名入り名刺が届く。この名刺は知り合いなどに“飛騨市の魅力をPRしながら”配布し、その名刺を持った方が飛騨市に訪れると、飲食店の割り引きやお土産などのサービスが受けられる仕組みだ。このPRの効果(名刺を持った人が飛騨市を訪れた人数)に応じて、会員も飛騨市から特産品をもらうことができる。すでに2名の方が飛騨牛などの特産品をもらったそうで、さらにPRをしてもらうことを期待する。
この仕組みのポイントは、口コミを活用している部分にある。自治体主導の広告宣伝ではなく、飛騨市のことをよく知り、よさを分かっているファンの会員が直接PRする点だ。知り合いから話をきくことで、より訴求力が高まり、ファンが拡大するという仕掛けになっている。さながらファンが観光大使となって、自然と全国各地でPRを行っていることになるのだ。
この仕組みを軌道にのせるために、まず、「ファン」獲得のためには、認知度を上げる必要があると考えた上田氏。全くゼロの状態から市長にも何度も相談を重ね、市としてはめずらしいさまざまな施策を行ってきた。
たとえば、youtubeでの配信がその一例だ。なんと市長室で市長不在の中、他職員と一緒に動画を撮影し、それをそのままyoutubeに配信。市長席に自分が座り、ファンクラブをアピールした。この動画は10,000PVを達成。市区町村としては異例の視聴数となったそうだ。そのほか、ファンクラブの会員証のデザインを総選挙形式で決めるなど、話題づくりにも注力する。
楽天との連携は「三方一両得」
一見ここまでも順調な会員制の仕組みをさらに加速させることになったのが、楽天との連携だ。その一つ、電子マネー「楽天Edy」を活用したファンクラブ制度は、全国初の取り組みとなる。楽天Edy機能付きのファンクラブ会員証を発行し、このカードで買い物をすると、利用額の0.1%を楽天Edyが飛騨市に「企業版ふるさと納税」をする仕組みだ。会員に対しては、市と楽天が連携したお得な情報が届くようにもなっている。全国の人たちに、日常的に飛騨市を意識してもらうには、普段使いのカードをつくることが一番よいとの考えから、楽天との連携に至った。カードを通して毎日のように「飛騨市」の名前を見てもらえることは、広告プロモーションとして非常に効果的だ。
また、この連携がうまくいっているのは、「楽天」「地元事業者」「飛騨市」それぞれが収益をあげられる三方一両得の仕組みが整っているからだ。地元の活性化につながり、事業者も恩恵を受けられるということ、飛騨市全体の活性化につながることが、特に内部の反発も呼ばず、企業連携を円滑に進められた要因だ。
このほかにも、楽天と飛騨市は10個の連携を行っている。内容は以下の通り。
【連携内容】
1.電子マネーを活用した飛騨市ファンクラブ事業の構築と推進に関する事項
2.ふるさと納税の推進に関する事項
3.市内事業者のモバイル決済利用促進に関する事項
4.国内外に向けた飛騨市産品の販路拡大に関する事項
5.耕作放棄地の活用及び新規就農育成に関すること
6.被災地のドローン活用及び物資輸送試験に関する事項
7.森林の保護及び整備に関する事項
8.市内事業者のIT活用促進に関する事項
9.学校と連携したIT活用促進に関する事項
10.観光誘客の促進に関する事項
企業と地方自治体の協定締結では、10項目の締結事例は過去例のないもので、中でも、1.5.6については、全国初の取り組みということで、日本経済新聞など大手メディアにも大きく取り上げられることとなる。
このような取り組みが実を結び、2018年5月17日時点での会員数は、2,006名と2,000名を突破。そもそも、上田氏は数百いくかどうかと考えていたところ、市長から1,000名を目標にすると言われ、頭を悩ませたそうだ。それが2,000名を突破したことで、市長も驚きを隠せない様子だったという。地域も、全国47都道府県を制覇し、全国にファンがいる状態となった。
継続して会員でいつづけてもらうために
ここまでは新規会員獲得の取り組みを紹介してきたが、今後、会員数を維持・増加させるためには、既存会員へのフォローも重要となってくる。そのため、既存の会員同士のリアルなつながりを促進するための、メールマガジンの発行や、「ファンの集い」などの交流会も年2回程度開催するなど、余念がない。
また、取り組みが認知されるとともに、飛騨市内の協賛店舗の数も増え続け、会員が飛騨市に訪れた際に、より魅力を感じられる内容となっている。
会場で最後に上田氏は「みなさん、他自治体ファンクラブとの連携でもっと面白いことをやっていきたいと思っています!一緒にやりませんか?」と語りかけた。
地方の小さな市の取り組みが、企業との連携で大きなうねりを作り始めていることを実感したイベントだった。今後の飛騨市の取り組みからも目が離せない。