利益の追求だけでなく、地域の活性化にも力を注ぐ「日向中島鉄工所」。その源泉は、代表取締役社長の島原俊英さんの「宮崎・日向」への想いにある。後編では、オンリーワンの機械製作に取り組む本業についてのお話や、自らも家族とともにUターンした経験を持つ島原社長が、今改めて感じる地方の良さ、世界をも見据えた今後の構想について伺った。
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創業50年を迎える機械設備メーカーが臨む、ふるさとの未来と地域再生(前編)
口コミが、会社を成長させた
―創業当時のメンバーはわずか6名だったとか。そこから現在に至るまでの歩みについて教えていただけますか?
もともとうちの会社は、この近くにある製糖会社の建設当時に、うちの父親が現場責任者として常駐したというのが始まりなんです。それをきっかけにして、この地域のいろんな工場のメンテナンスをやり始めたんですね。工場ってたくさんの機械を動かしていますから、定期的にメンテナンスをしておかないと工場自体が稼働できなくなってしまうんです。
ですから昔は食事をしていても、お客さんから「工場が止まりそう」と電話が掛かってきたら飛んで行く、というようなことをやっていました。それで信用ができていき、「あそこは良く動いてくれるよ」という風に口コミで評判が広がって、だんだん取引が増えていったんです。
とにかくうちはお客さんの立場に立ってやっていたんで、どんな要望も断らずに受けて、応えてきました。だからこそ次の仕事をどんどん紹介してもらえたんだと思います。そのうちにメーカーさんから、「これぐらいの機械なら、おたく作れるんじゃない?」と言われるようになって、機械の製作もするようになったんです。現在はほとんどの機械をオーダーメイドで作っています。
オーダーメイドって、最初から最後まで一気通貫でやるんですよ。一番最初に、お客さんが達成したい事柄があるのですが、具体的に何をどうすれば良いかはわからない。そこで我々が「こういう機械なら、達成できるんじゃないですか?」と提案をして、話し合いをしながら形にし、図面に落としていくわけです。
ただし、ものを作る製法だけを考えればいいというわけではありません。その機械を誰がどういう風に使うのか。それを現場にどういう手順で搬入するのか。どう据え付けたら使いやすいのか。どういう風にしたらメンテナンスしやすいのか、といったいろんなことを考えながら計画を立てていくんです。
もちろん最初から完璧にはいかないので、プロセスの途中で何度も修正を重ねていきます。そうして関わるすべての人たちが、1つの完成した姿を思い描きながらやっていかないといけないのです。ときにはズレたり、不具合が発生したり、さまざまなことが起こりますので、密に話し合いを重ねながら、トライ&エラーを繰り返していく。そこが難しいところだし、面白いところでもあるんです。
―クライアントさんはどういった企業ですか?
地元では、食品工場が多いですね。あとは全国的にお客さんを持っているエンジニアリングメーカーさん。メーカーさんは自分たちで作る部分もあるけれども、全部は作れないので、全体を計画した上で、部分的に我が社に依頼がくるんです。
うちは、来年で創業50周年になるのですが、もう30年ぐらいお付き合いさせてもらっているお客さまもあります。そういう大事なお客さまを何社も持っていられることが、我が社の強みかもしれません。長くお付き合いしているからこそ、お互い工夫・改善をしていって、他社ではなかなかできないことが達成できているのだと自負しています。
鉄工所が野菜をつくり始めた理由
―外部との共同開発は、どのようなことに取り組まれているのですか?
現在は、宮崎県の工業技術センターと共同開発をしています。宮崎県の大きな課題は、農業、畜産、林業、漁業から生み出される一次産品を、“付加価値をつけないで売り出している”ということなんですよ。そこで農業に対して何かできないかということで、我々が野菜工場の会社(株式会社ひむか野菜光房)を作ったのです。
―野菜工場の稼動はいつから?
平成24年です。場所はここから15分ほどの門川町。ハウスの面積は66アールほどあります。
この事業に関連して、「鮮度保持装置」という機械も開発しています。ハウスのなかで環境制御をしながら葉物野菜を作っているのですが、野菜工場を運営する中で、農場の生産性を上げるためには、いろんな装置が必要になってくるということがわかってきたんです。例えば、今まで人の手でやってきた作業を機械化するとか、栽培に必要な温水を作るとか。温水を作るのは、普通だったら重油や灯油を焚くんですが、うちでは廃棄物を燃やして作ろうとしているんです。
―ホームページに「挑戦と変革を続ける風土」という言葉があったのですが、まさにそこを体現する取り組みですね。
我々は新しいチャレンジをしていくしかないですからね。特にこれからは、宮崎らしく、食と環境とエネルギーをテーマにした事業に力を入れていきたいと考えています。
「株式会社ひむか野菜光房」プロモーション動画
離れていたからこそわかる、地方の可能性
―地域を活性化させていきたいという思いは、もともとおありだったんですか?
ずっと日向を離れていましたから、離れていると逆に地域のことが見えるんですよね。自分が育った地域なので、もうちょっと元気にしたいなぁと。宮崎県自体が、もっとできることがあるのになぁ…と。戻ってきた時から、それを担えればという思いはありました。だから最初から、自分の会社も大事だけれども、同時に地域全体が豊かにならなければならない、という意識はありましたね。
―だからこそ、島原社長ご自身の目線やアンテナが会社の外に向いているんですね。
自分の会社だけ見ているのは嫌なんです。発信は日向からなんだけれども、意識はいつも世界に向けていたいと思っていました。世界の中で光るというか、注目されるような企業に育てていきたいなと思っています。
―社員さんの中に、UターンやIターン人材はいらっしゃいますか?
はい。設計の技術者を2名、中途で採用したんですが、1人は地元出身者のUターン、もう1人はIターンですね。
我が社が50周年を迎えてさらに飛躍をしていくためには、設計や管理スタッフが不足しています。そこで、「会社をさらに大きく発展させるために力を貸して欲しい」というふうに募集をしたところ、我々の思いに応えてきてくれたんです。
また、現役を引退した各産業界のOBの皆さんの中にも、それまでの経験によって修得した様々な知識や技術力を中小企業で発揮したい、あるいは次世代に伝えたい、という方が大勢いらっしゃいます。そのような方々を組織して、活躍の場を作るということもやっています。
―都心で働いていると、地方は仕事のスケールそのものが小さくなってしまうのでは?という先入観にとらわれてしまいがちですが、決してそうとは限らないわけですね。
私も大企業に勤めていましたが、確かに自分が扱える予算は大きいかもしれないですけれども、自分がやっていることって一部じゃないですか。地方に来たら、自分で開拓しさえすればいくらでも仕事は作れますし、全体を見渡しながら仕事ができますから、間違いなくやりがいはあると思います。
教育環境としての地方の利点
―ずばり、日向で暮らす上での魅力についても教えてください。
たくさんありますよ。まずは「暮らしやすさ」です。衣食住にあまりコストをかけずによいものが手に入りますし、地元の歴史や文化がすごく身近にあるので、そういったことにも自分が関わることができます。それも貴重な経験ですよね。
それになんといっても、自分がしっかりした考え方を持っていれば、いろんなネットワークが身近に作れるということが魅力ではないでしょうか。遊び方についても、価値観は人それぞれ。人工的な遊び方も楽しいかもしれませんが、日向は海もあれば山もある。いろんな遊び方ができると思います。
―ご自身もお子様がいらっしゃいますが、教育環境としてはどうですか?
それこそ何を“幸せ”と感じるのか、何を“豊かさ”だと感じるか、でしょう。例えば、良い大学に入って、良い会社に入るためにとにかく学力をつけさせるということであれば、今はそのための手段もたくさんあると思いますし。例えばこれから必要と思われる、自分の住む地域での課題を自分で見つけたりだとか、それを仲間と一緒に解決したりだとか、そういった力をつけさせるためには、もっといろんな経験が必要になると思うんです。
その点、地方は自然ともふれあいながら、いろんな人と交流の輪を広げるチャンスがありますからね。均一的な人間関係だけでなく、いろんな人と付き合うということ、様々な体験をするということを考えたら、地方の方が教育に適していると私は思いますね。
訪れると願いが叶うという不思議な言い伝えで人気のスポット「クルスの海」。展望台から見えるクルスの海は、その岩の形状が「叶(かなう)」と言う文字に見えることから、このような伝説が言い伝えられたという。
日向から世界へ。キーワードは食・環境・エネルギー
―これから会社として果たしたい役割や事業構想などありましたらお聞かせください。
大きな構想としては、地域のなかで地域の課題を解決していく。地域の資源を活用して、さまざまな仕事を生み出していく、というこの2点に取り組んでいきたいと思っています。それが本当に必要なものであれば、世界に広がっていくと思うんです。この地域に必要なものはきっと、他の地域でも必要なものだから。
それが具体的に何かというと、食と環境とエネルギーなんですよ。宮崎県は、食料自給率は生産高ベースで242%(カロリーベースでは65%)を達成しているのですが、もっと付加価値を加えたものが作れると思っていますし、それを全国の消費者に直接届ける取り組みも不足しています。そこに新しい仕事がたくさんあると思っているんですよ。
また宮崎は、エネルギー自給率を、現在の15.8%から最低30%に、それ以上に増やすことに力を注ぐべきだと思っているんです。そのためには化石燃料ではなくて、再生可能なエネルギーをもっと開発していかなければなりません。そうして作ったエネルギーを無駄遣いしない仕掛けや設備づくりも必要でしょう。
地域を豊かにしていくために、まだまだできることが、たくさんあると思っていますし、“宮崎ならでは”で、これから生み出せる仕事は無数にあると思っています。そういうアイデアを1つ1つ丹念に実現化していくことが、我々がこれからやるべきことじゃないかと思っているんです。
そうして得た武器を手に、いつか世界へ飛び出していけたら楽しいでしょうね。
株式会社日向中島鉄工所 代表取締役社長
島原 俊英(しまばら としひで)さん
1962年生まれ。熊本大学工学部卒業後、プラント輸出を手掛ける企業に就職。13年間勤務した後、1999年「日向中島鉄工所」に入社。同時に専務に就任し、社内改革に取り組み始める。2001年社長に就任。趣味はスポーツ全般、少林寺拳法、読書。
株式会社日向中島鉄工所
来年創業50周年を迎える機械設備メーカー。工場向けの産業機械を得意とし、手がける製品のほとんどがオーダーメイド。製缶技術や据付ノウハウを知り尽くした技術力をベースに、クライアントの要望に合わせて企画・設計から製造、据付、メンテナンスまで一貫して行う。本業と並行して子どもたちの教育活動にも積極的に取り組むなど、地域の活性化にも注力。その貢献が認められ、2015年には宮崎中小企業大賞を受賞した。
- 住所
- 宮崎県日向市日知屋17148-9
- 設立
- 1969年4月1日
- 従業員数
- 57名(パート、アルバイト含む)
- 資本金
- 3000万円
- 事業概要
- ・食肉・食鳥処理機械、発酵・醸造機械の躯体部分、食品機械・設備、省力化機械、自動化機械等、各種産業機械の設計・製作・組立据付
・各種製造工場の補修・保全業務
・開発製品の協同開発・設計・製作