日本で9割以上を占める中小企業で、経営者の高齢化により事業を継承できる人材がおらず、事業を畳む企業が増えている問題が深刻化しつつあります。今回は、それが40代以上のキャリアのある人たちにとって大きなチャンスになってきている点について解説しましょう。
中小企業事業継承問題とは
平成29年12月、中小企業庁は中小企業がスムーズに事業を継承できる環境づくりを支援するために、今後5年間をその期間にするという「事業継承5か年計画」ガイドラインを発表し、1.経営者の「気付き」の提供 2.経営者が継ぎたくなるような環境を整備 3.後継者マッチング支援の強化 4.事業からの退出や事業統合などをしやすい環境の整備 ⑤経営人材の活用 を主な支援策として挙げました。
これは、いわゆる「中小企業事業継承問題」に対応するためのものです。2020年までに団塊世代が大量に引退し、事業を継承せざるを得ない年齢に達することがその要因にあげられます。向こう5年間で新たに70歳となる経営者数は約30.6万人、75歳になる経営者は約6.3万人にも達するといわれ、数十万社の事業者が事業を次世代に承継するタイミングを迎えているにもかかわらず、6割近くの事業者で後継者が未定であり、70歳代以上の経営者でも事業承継の準備を行っている割合は5割を下回る状況にあるためです。
いま、中小企業の経営者の高齢化で社内に事業を継承できるスキルのある人材がいないために、企業が事業を畳まざるを得ない、そのためにその地域での産業が失われ、雇用も継続できない、という状況が増えているのです。
社内に人材がいない理由
なぜ、社内には人材がいないのでしょうか。その理由は大きく2点あります。1点目は経営者1人がすべてを担ってきたことです。中小企業は、オーナー企業も多く、創業者である経営者がいままで経営の主な役割を担い、そのノウハウは自身だけに蓄積されてきていることが多くなっています。2点目は、社内に人材が育っていないという点です。中小企業は社全体の人数が数人から数百人と少ないこともあって、余計に社内に適した人材見つからず、育てる余裕もなかった、という課題があることが多いのです。
40代・50代には大きなチャンス
そのような中小企業のなかには、経営は順調で、今後10年程度はそのまま継承しても経営的には安定している、という企業も多いという調査への回答結果も出ています。現状のままでは廃業をすることになってしまう経営者にとっては、自分の事業を受け継いで経営していってくれるか、子どもなどの後継者にキャリア豊富な経験者が経営についてのアドバイスをしながら一緒に会社を運営してくれるか、どちらかの人材が必要となります。
特にスキルのある人材が少ない地方では、首都圏や都市部の大企業など他企業で経営やマネジメントのキャリアを積み、実績がある40代50代の人を求めていることが多いのです。
この状況は、40代・50代のキャリアを積んできたマネジメント経験豊富な層にとって大きなチャンスといえるでしょう。なかにはその地方にはまったく住んだことがない人でも、いままで他の場所で経験してきた仕事の実績を活かし、Iターンした例も出てきています。
前述の中小企業庁の計画の中には、「事業継承の支援策として事業継承センターと人材紹介会社の連携を検討し、中小企業の継承についてのデータベースを提供する」という内容も含まれています。積極的に人材紹介エージェントなどに自分の仕事経験やスキルから自分の出身地方はもちろん、それ以外の地方の中小企業についても希望したい旨を伝え、可能性のある企業を探してみてはどうでしょうか。
最も不可欠なスキルは
このような転職の場合、他に最も不可欠なスキルにはどのようなものがあるでしょうか。もちろん、いままでの仕事での経営やマネジメントについての経験は必要ですが、それ以上に重要なのはコミュニケーション能力だといえるでしょう。
あなたはどの位の規模の企業の中で仕事をしてきたのでしょうか。これから担っていく中小企業での事業継承の役割においては、いままでの環境と違う企業で、スキルがまだ不足している後継者やよく仕組みが整っていない組織の中で仕事をし、企業の経営を軌道に乗せる必要があります。環境の変化に柔軟に対応し、周囲との連携を密にとりながら物事を進めていこうとする人、そのコミュニケーションや変化を楽しめる人、やりがいと感じる人でないと力を発揮しにくいといえます。
自分の専門分野や経営の能力も大切ですが、それにも増して対人関係の構築能力が求められる点を意識して動いていくとよいでしょう。その点も、キャリアを積んだ40代・50代には得意な人も多いのではないでしょうか。2020年までが大きな機会です。中小企業の事業継承という観点でも、積極的に探してみることをお勧めします。