【伊藤嘉明】VUCA時代を生き抜く「Ψサイ型人材」
ジャパンディスプレイ常務執行役員CMO 伊藤嘉明
月刊事業構想 編集部
2019/01/08 (火) - 18:00

人生100年時代や少子高齢化社会を迎え、日本人の生き方と働き方は、これからどう変わっていくのか。本シリーズでは、有識者や第一線のビジネスパーソンに「未来の働き方」を予言してもらった。

第5弾はタイで生まれ、アメリカでMBAを取得し、プロ経営者として国内外のグローバル企業を渡り歩いてきた伊藤嘉明氏(現ジャパンディスプレイ常務執行役員CMO)。予測不能=VUCAの時代には、「Ψ型人材」になることが必須と指摘する。
 

VUCAの時代を生き残るイノベーターの要件

―伊藤さんは日本人の働き方を取り巻く状況をどう見ていますか。

伊藤:今、日本と世界は「VUCA(ヴゥーカ)」の時代に突入しています。Vはボラリティ(変動性)、Uはアンサータンティ(不確実性)、Cはコンプレキシティ(複雑性)、Aはアンビギュイティ(曖昧性)を指します。もともと軍事用語なのですが、VUCA=予測不能ということです。この時代をビジネスパーソンが生き抜くには、イノベーターであること、すなわち創造力と実行力が不可欠です。

―伊藤さんの考える「イノベーターの要件」とは何でしょうか。

伊藤:さまざまな業種業態の企業に関わってきた私の経験から振り返ってみると、企業のなかにイノベーターと言える人材は、全体の1%程度しかいません。その1%は、日本企業に蔓延している同調圧力に屈さず、ぶれない人。新しいアイデアを持っているだけでなく、どうやったら実現できるのか、何をすべきかを考え、実行できる人です。腹が据わっているともいえますね。

希少な人材なのは間違いありませんが、イノベーターかどうかはマインドセットの問題なので、イノベーター予備軍をマインドシフトさせ、育てることは可能だと思っています。

 「2:6:2の法則」というものがあります。「働きアリの法則」とも呼ばれますが、これは会社内でイノベーションを担う人材にも当てはまります。社員のうち約2割は、会社の現状に危機感を抱いており、変革を求めています。私の感覚では若手が多く、不満をためている人も少なくない。別の2割は、新しいことを受け付けないコンサバティブなタイプ、残りの6割はどっちつかずの浮動層です。

このうち危機感を抱いている2割の人たちはイノベーター予備軍。マインドシフトすることができれば、1%のイノベーターになるポテンシャルを持っている人たちです。

―日本企業の文化、特に同調圧力の強さを変えるのは並大抵なことではありませんね。

伊藤:日本企業で何か新しいことをしようとすると、変化を嫌う先輩社員や上司から陰に陽に圧力がかけられます。この圧力は大企業になればなるほど強く、日本の大企業の魅力が減じる理由のひとつになっていますね。

同調圧力に抵抗するために必要なのが「選択肢」です。例え話ですが、一本足で立っている時に足を払われたら転んでしまうけれど、二本足ならば耐えられる。選択肢があれば、同調圧力も怖くなくなるし、先輩や上司の存在や言葉は絶対という強迫観念に縛られることもなくなります。

私は以前、二本足で立つ「πパイ型」の人間になれと話していましたが、これから目指すべきは三本足で立つ「Ψサイ型」の人間です。VUCA=予測不能の時代に揺らがないためには、どんどん足の数を増やしていかなければならないでしょう。

Ψ型人材になる3つのポイント

―Ψ型人材になるためには、どんな経験やスキルが必要ですか。

伊藤:3つのポイントがあります。ひとつめは「転職」。私の定義では、同じ仕事をほかの会社でするのであれば、それは「転社」にすぎません。職種を変えることを転職と呼んでいます。そう言うと「そんなに簡単に転職できない」という声があがりそうですが、会社を辞めなくても転職する方法はあります。

例えば社内でエンジニアからマーケターに異動したり、プロジェクトベースの案件に手を挙げて参加する。あるいは、ベンチャーやNPOなどに携わる友人の手伝いでも構いません。そうすることで、日常業務とは異なる知識、人脈が増え、ビジネスパーソンとしての幅が広がるのです。一方、目の前の仕事、自分の部署しか視野に入っていない人は変化に弱いです。

ふたつ目のポイントは語学力です。今はVUCA=予測不能の時代だと言いましたが、その中にも予測可能なことがあり、それに備えることが大切です。

例えば、2020年以降に何が起きるか。かなりの確率で地価が暴落し、経済が後退すると予想されています。その後、アジアの外資系企業が株価の落ちた日本企業を買収するでしょう。もし彼らが日本の企業を買収したら、今コンビニや居酒屋で働いているようなアジア人留学生は即戦力候補になります。彼らは自国語、英語、日本語を話せますからね。一方で、英語を話せない高給取りの日本人は一掃される。少なくとも英語を話せるということがビジネスパーソンとして最低限のスキルになるのです。

三つ目は、差異力です。よく差別化といいますが、それは「別のモノ」になるということ。社内でそうなってしまうと、叩かれたり、排除されてしまうかもしれません。

差異力とは「周囲と異なるモノを持つ」ということです。そのために有効なのが、先述した「転職」です。休日のボランティアでもいいから積極的に異業種に関わり、社外に複数のネットワークを作ることで差異力が強化されるのです。
 

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会社に運命を委ねるな

―転職によって差異力を鍛え、同時進行で語学力を身に着けることが、圧力や変化に強い「Ψ型」人材になるために必要だと。

伊藤:「Ψ型」人間になろうという方にひとつアドバイスするならば「自分がコントロールできないことに運命をゆだねない」ということです。例えば人事制度に不満があるのならば、「GoogleやAppleはこうしています」などと理論武装して経営陣に直接、改善を提案すればいい。それを無視されたり、拒否されることもあるでしょう。その時に頭を捻って実現に動くのであれば良いのですが、「いつか」と状況が好転することを願うのは単なる神頼みにすぎません。いろいろと手を尽くしたうえで、もし、会社や所属する組織に対して違和感を抱いたら、一歩を踏み出す時だと思います。その際にも、転職で築いたネットワークが生きるでしょう。

2020年以降に予想される大きな変化のなかで生き残るために、ビジネスパーソンにとっても準備が急務です。いざという時のために刀を研いでいないと、グローバルでの戦いには勝てません。

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ジャパンディスプレイ 常務執行役員CMO 

伊藤嘉明(いとう よしあき)さん

1969年タイ・バンコク生まれ。米国サンダーバード国際経営大学院MBA。タイ国オートテクニックタイランド、日本アーンスト&ヤング・コンサルティング、日本コカ・コーラ、米デル、米レノボ、アディダスジャパン、ソニー・ピクチャーズ エンターテイメントを経て、2014年アクア(ハイアールアジア)代表取締役社長兼CEO。2016年X-TANKコンサルティング設立。2017年10月ジャパンディスプレイ常務執行役員CMOに就任。

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