社会課題を解決するためのアプローチとして近年注目されている「コレクティブ・インパクト」。より効果的・効率的に社会の課題解決を進めるには、何を意識し、どんな手法で誰と協力すればいいのでしょう? コレクティブ・インパクトは、日本でも定着するのでしょうか? 最近の事情を通して考えてみましょう。
同じ目標に向かって進む、仲間探し
行政、企業、NPOなど様々な主体が共通のゴールに向かって協働し、社会課題を効果的に進める手法のコレクティブ・インパクト。個々のプレイヤーが別々の方向で行動するより、共通のイシューに対して互いに強みを活かしあうことで大きなインパクトを起こすことができることから、近年、日本でも注目されています。
経済状況が食生活に影響するリスクがある家庭の子どもに対し、東京都文京区と、複数のNPOや財団が、企業から提供を受けた食品を配送し、そのほかの必要な支援にも繋げ、地域や社会からの孤立を防いだ「こども宅食」プロジェクトや、ふるさと納税で寄付を受ける自治体が、NPOや企業と連携し、社会課題の解決を進めた事例は、コレクティブ・インパクトの新しいスタイルといえるでしょう。
ここ数年、ようやく日本でも認識されはじめたコレクティブ・インパクトは、2011年にハーバード大学経営大学院のマイケル・ポーター教授が設立した米コンサルティングファームFSG社が提唱したものです。
コレクティブ・インパクトは、複雑化する様々な社会課題を解決するために、多様なセクターの協働を効果的に進める手法ですが、最近よく耳にするのは、これらの各セクターと同時に、いかに地域の住民を巻き込めるかが大事なカギになる、と聞きます。
日本でもはじまった、次の世代への取組み
昨年2017年には、「セルフターン」の推進団体の一つでもある、社会起業家支援を行うNPO法人ETIC.が、アメリカン・エキスプレス・インターナショナルの協力のもと、次の100年に向けたアクションや、コレクティブ・インパクトについて考えるセミナーを東京都内で開催し、100人を超える社会起業家が集まり、どのように社会課題を解決し、効果を高めていくかなどについて議論されました。(※「社会課題の解決に必要な「コレクティブ・インパクト」参考」
同セミナーでETIC.宮城代表は、人材不足、資金不足を訴える参加者らに向けて、「社会課題の担い手が増えていくことは大切だが、より大きなインパクトを効果的・効率的に出していくために、横の連携を進めていくことが重要だ。そうした問題意識に対して生まれた概念が『コレクティブ・インパクト』。社会的企業、行政、民間企業、大学などの様々なプレイヤーが、バラバラに活動するのではなく、共通のゴールに向かって適切な連携・役割分担を進めていくことが、今後の日本を考えると重要だ」と話され、横の連携の重要性を訴えました。
この記事を読んでいる方の中には、現在すでに、なんらかの団体、もしくは企業でのCSR(企業の社会的責任)や、CSV(共通価値の創造)に取り組まれる立場にある方もいらっしゃると思います。
社会課題の解決には当然のことながら、NPOや行政だけでは立ち行かないことも多く、企業や政治との連携により、スピードアップすることも少なくありません。課題によっては、より地域の住民が積極的に参加することで、思いがけないアイデアが生まれたり、それぞれが納得のいく解決につながることもあります。
ですが、そこにはより、ビジネスの手法が必要になることも多く、民間企業の果たす役割は、今後ますます拡大するでしょうし、資金や物資の援助のみならず、必要とされるノウハウが増えることでしょう。
また、それらを上手くマッチングさせるためのコンサル的な立場を担うのは、中間支援団体ともいわれ、今後彼らのファシリテーション力や、リーダーシップの向上も不可欠といわれています。
社会課題の解決といっても、ソーシャルビジネス(社会的事業)といっても、もはや非営利セクターだけが担うものではないことは、いうまでもありませんし、現在に生きる私たちすべてに共通する課題です。
社会的弱者の貧困、超高齢化社会、地域の担い手不足、子どもの貧困、自然災害、障がいなどの、多様性をどう受け入れるか、誰もが働きやすく暮らしやすい社会にするには…など、まったなしの社会課題に対し、一個人として、一企業人として、多くの立場の方々と連携することで、より早く、より納得のいく解決をしていこう!という意識を、一人でも多くの人がもつことが大切ではないでしょうか。
今まで、それぞれの団体や企業が、単独で解決しようとして、なかなか進まなかった問題を、同じ課題解決に向かって、一緒に協働して取り組むことで大きな影響を与えることが可能なコレクティブ・インパクトですが、どういう立場の人がリーダーシップをとるか、上からの号令のようにならず皆が納得できるにはどうすべきかなど、まだまだ、この手法に対する疑問や批判があることも事実です。より多くの人が共通の認識をもつことで、これから徐々に日本の中でも、この取組みが進むことを期待します。
誰もができることは何か?
では、このような取組みは、一部の団体や、企業の担当者だけが意識して担うべきなのでしょうか?
先述のとおり、民間企業が果たすべき役割は非常に大きいため、社会起業家のような立場ではなくとも、企業に勤めながら、その組織の一員として取り組むことも可能ですし、複業やプロボノのような形で関わることの出来る人材の確保も非常に重要です。
自分が社会の問題と感じることに対し、「何か自分が出来ることはないか?」、「自分の会社で取り組めることはないか?」と、常日頃からアンテナを張って意識することからはじめてみてはいかがでしょうか。
近年急増している、災害に対する意識や備えについて、地域の中で積極的に意見交換しながら対策したり、一人暮らしの高齢者に対するケアについて日頃から地域の人と連携しておくことも、これから欠かせない大切な社会課題の解決策です。同じように取り組む地域が周辺に増えることで、大きなうねりに発展すれば、それは大きなインパクトとなります。
総じていえることは、「一人一人が “課題解決の主体者” になる」ことです。
社会課題に対して、様々なセクターが連携して大きな影響を与える“コレクティブ・インパクト”の要は、私たち一人一人の意識改革が、大きなカギを握っているのではないでしょうか。