「ミッション」が人材を惹きつける/働き方の最前線
2018年度プロフェッショナル人材戦略全国事務局統括マネージャー 田中文隆
月刊事業構想 編集部
2019/01/23 (水) - 18:00

新規事業創出や既存事業拡大などをリードできるプロフェッショナル人材と、地域企業をマッチングする、内閣府の「プロフェッショナル人材事業」。累積4,000件近くの実績からわかる、人材を惹きつける地域企業の姿とは。

人と仕事の好循環を生み出す

東京圏への人口流入が続く中で、地域企業の再生や第二創業では、人材不足の解消、とくに経営幹部人材の獲得が重要になっている。こうした状況下で注目を集めているのが、内閣府地方創生推進室が2016年1月から本格化した「プロフェッショナル人材事業」だ。潜在成長力のある地域企業と、都市圏などの多様なプロフェッショナル人材のマッチングを支援する事業で、2018年8月末までに累計3,959件のマッチングが実現している。
 
本事業では、各道府県に「プロフェッショナル人材戦略拠点」を設置。各拠点のマネージャーには、大企業や地域企業、地方銀行などで経営に携わり、豊富な経験と知見を有した人材が就任している。これらのマネージャーが、地域企業の経営者の相談に乗りながら、プロフェッショナル人材の採用を支援する。
 
「地域企業からすると全国的に人手不足という状況かもしれませんが、実は都市圏などの若者や社会人には、地域の魅力的な仕事・職場が伝わっていないというのが現実です。首都圏などのプロフェッショナル人材が地域企業の魅力を感じ、チャレンジ精神を持って入社していくためには、地域企業が『攻めの経営』に向けた人材ニーズを明確化し、それを伝えなければいけないのです。“しごと”が“ひと”を呼び込み、“ひと”が“しごと”を呼び込む。その好循環を地域につくることが、この事業の目的です」。そう話すのは、本事業の2018年度全国事務局統括マネージャーを務めた、みずほ情報総研の田中文隆氏だ。
 
これまでに全国のプロフェッショナル人材戦略拠点が受けた地域企業からの経営相談は、実に2万7,652件。「遠回りでも、地方に魅力的な企業・事業を1つでも多く作ることが必要です」と田中氏は述べる。
 

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企業の「ミッション」に惹かれ、優秀な人材が集まる

「各拠点のマネージャーは、まずは経営者と膝詰めで話をしながら、その会社の未来を一緒に考えます。その中から、企業の成長のためにはこんな人材が必要なのではないかという経営課題に紐づく潜在的な人材ニーズを引き出します。その人材ニーズを各拠点に登録されている人材紹介事業者を通じてマッチングするという流れです」 プロフェッショナル人材の採用に成功する地域企業には、ある共通点がある。それは、経営者が経営戦略と求める人材像を明確に示していること。そして人材を募集する際に、必要な人材のスペックではなく、“目指すべきミッションを達成できる人に来て欲しい”と経営者自らが発信していることだ。このことが、プロフェッショナル人材のやりがいや生きがいを喚起させることに繋がるという。
 
「小さな地域企業であっても、魅力的な事業、尊敬すべき経営者、チャレンジしがいのある課題があれば、そこに飛び込んでみたいという人材は必ずいます」と田中氏は強調する。
 
成約案件の内訳を見ると、プロフェッショナル人材の年代は30~40歳代が6割を占める。また、転職のために県外へ転居した人材は4割にのぼる。ポストは役員・部長・課長相当が4割近くを占めている。

「大企業の組織の中で働いてきた30~40代の人材は、たとえ給料が下がることがあっても、経営者に近いところで活躍したいという欲求が強いですね。経営者の人柄やビジョン、戦略にひかれ、一緒にミッションを達成していきたいと動く人材が多いです」
 

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大企業の人材を地域へ

プロフェッショナル人材の地域企業でのミッションは、生産性向上から販路拡大、経営管理、新規事業立案などさまざまだ。大きな成果を上げた成約事例では、宮崎県で配電盤の設計・施工を行なう修電舎がある。下請けからの脱却を目指し、新規事業として環境機器などを開発したものの販路開拓に悩んでいた同社は、30年にわたり化学系製品メーカーで営業を担当し、官公庁などにも人脈を保有するプロフェッショナル人材を採用。関東から移住してきたその人材は、営業所長として九州管内を飛び回り、大型受注を積み上げているという。
 
人材受け入れ企業の業種は、製造業が60%と最も多く、卸売・小売業が9%、サービス業が8%と続く。「今後は非製造業、特に地域商社やDMOなど地方創生のエンジンとなる会社の採用支援に力を入れたい」と田中氏。
 
地域企業では今、事業承継が大きな課題となっている。プロフェッショナル人材事業ではダイレクトに社長候補を探してくる事例は少ないが、「事業承継の際に若手社長の相談役や参謀を見つけたい」といった声は多く、そのようなニーズにも対応をしていく方針だ。
 
また、同事業では、都市部大企業との連携も進めている。現在は33の大企業とパートナーシップを締結し、研修や出向等の扱いで大企業から地域企業に転じた例は、累計63件(2018年8月末)にのぼる。「役職定年者のキャリア形成支援や、幹部候補人材の武者修行のために、地域企業で経営を経験させたいという大企業人事部のニーズは高まっていますね。都市から地域へ人材を円滑に流動させるスキームをどう作っていくかは、今後の大きな課題です」と田中氏は言う。
 
最後に、今後5年、10年で働き方はどう変わると予想するのか、田中氏に聞いた。
 
「人口は減っていくわけですから、企業が人材を囲い込む時代は終わると考えられます。離職か入職か、ゼロかイチかという企業と社員の関係も変わっていき、『会社は辞めるけれど、7割の力を新しいチャレンジに使い、残り3割は離職した会社のために貢献する』というような、新しい仕事の世界観が出てくる可能性も高い。地域企業への人材流動も含め、柔軟な働き方を用意することが重要で、そういう企業に人材も集まるのではないでしょうか」

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2018年度プロフェッショナル人材戦略全国事務局統括マネージャー 

田中文隆さん

みずほ情報総研 社会政策コンサルティング部 雇用政策チーム 福祉・労働課課長

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