続く供給過剰により深刻化する「空き家」問題。改善が急務の住宅資産がマイナスになる社会
木下 斉
2019/01/11 (金) - 08:00

日本における空き家問題は解決されるどころか、むしろ問題が拡大しているという点では極めて深刻な状況に陥っています。空き家は「放置されて怖い」といったようなことだけでなく、多くの人々に様々な影響を生み出します。

悪化する「空き家」問題

総務省統計局が発表した「2013年住宅・土地統計調査」によれば、2013年段階で総住宅数は6,063万戸、総世帯数は5,246万世帯となっており、既に世帯数を大幅に上回る住宅が日本には存在していることがわかります。空き家は820万戸に達し、13.5%の空き家率に達しています。都道府県別でみれば、山梨県は22.0%、長野県が19.8%、和歌山県が18.1%、高知県が17.8%、徳島県が17.5%と高い数字を出しているものの、宮城県以外では全ての都道府県で10%を超える空き家率を記録しています。

1963年時点で総住宅数が2,109万戸、総世帯数2,182万世帯となっており住宅は不足している状況であったものの1,968万には逆転。1973年からは総住宅数は総世帯数の増加数を上回って増加を続け、今に至ります。

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(引用)https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/pdf/nihon01-1.pdf

野村総合研究所「2018年、2023年、2028年および2033年における日本の総住宅数・空き家数・空き家率(総住宅数に占める空き家の割合)の予測」に即せば、2033年には総住宅数は7,106万戸となり、空き家は2146万戸、空き家率は30.2%に達すると予想されています。世の中に建っている住宅の3戸に1戸が空き家という状態にまで深刻化する可能性があるわけです。

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(引用)https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/150622_1.pdf

不透明な「資産活用」という大問題

とはいえ、新しい家に住みたい、という声が聞かれます。勿論新しい家を建てるなというのではなく、全住宅数を無秩序に増やさないというのが主たる問題になります。それでは現在の住宅は「新築を自分で建てて住みたい」という人たちによって増えているのか、といえば、必ずしもそうではありません。

新規に開発される住宅の中には、自分が住むのではなく、「資産活用」という名のもとに、既に住宅需要が飽和、もしくは供給過剰となっている地域にも関わらず、「儲かるかも」という狙いで安易に開発される賃貸住宅も地方では未だ存在しています。

国土交通省「2016年新設住宅着工戸数」をみると、全着工数の約半数が貸家として開発されています。

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(引用)https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031670148&fileKind=2

賃貸住宅の空室率は2013年段階で全国平均で18.9%となっており、今後も住宅全体の平均値を上回る形で増加することが予想されています。また一部の事業者においては、借り上げるという条件で開発したものの、状況が変わったということで借り上げ契約を放棄するなどの悪質な事例も散見されるようになってきています。既に需給構造をみれば、人口減少の加速している地方において簡単に賃貸住宅を運用することは、難しいことは火を見るより明らかです。

資産価値ゼロは人々の生活設計にも大きく影響

このような住宅資産が過剰供給となっている状況は、単に「空き家が乱立してゴーストタウンになってしまう」といったような話だけでなく、実際には生活設計に大きな影響を与えています。すでに今でも老朽化した住宅資産はほぼゼロ、もしくはマイナスとなっています。ただでもいらないという住居が日本には溢れてしまっており、既に住宅が場所によっては「有効な不動産」でさえなくなってしまっていて、貰ってくれる人がいればタダであげる、などある種の押し付け合いのような状況になっています。

これでは、若い頃に住宅ローンを組んで住宅を建てて、子どもたちが成長して巣立ち、広い住宅が手に余るようになっても、それを転売し、それを元手に小さな住宅に引っ越すことは極めて難しいわけです。さらにできれば老後の生活資金もそれで捻出できれば、なんてことはますます不可能に近い状況になってしまうわけです。

老後に至らずとも若いうちに生活状況が変わり、住宅ローンが支払えなくなった際にも住宅資産にあまり価値がつかないとなれば、その返済は重くのしかかり続けます。

空き家問題は実際には、生活問題にも直結していくことを無視してはいけません。地域政策、都市政策において「住宅政策」は万国共通で極めて重要な政策とされてきました。人の生活基盤であるというのは、空間的な住宅の役割だけでなく、それが持つ不動産としての価値が長期的な人々の生活に必要な「糧」とも直結していることを無視してはいけません。

特措法対応、空き家バンク、移住定住促進だけでは無理

空き家問題について政策面で何もしていないわけではなく、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行されたり、各自治体が空き家バンク事業などを展開するなど取り組みは広がっています。

特に日本の空き家問題においては、更地よりも建物を建てておいたほうが土地の固定資産税が優遇されるという特例があり、この問題を根本的に変えていく必要があります。実際に本特別措置法では周囲に大きな悪影響を与える空き家に対しては、優遇措置を除外することが可能になりました。しかしながら、既に800万戸を超える空き家を前にして、個別の空き家を指定して優遇措置を除外したり、予算をかけて数件の空き家を新たな移住者にマッチングしても焼け石に水という状況が続いてしまっています。

まさにこのようなザル状態では、既存の空き家をゲストハウスにしたり、コワーキングスペースにしたり、サテライトオフィスにしたり、といった民間の利活用に向けた小さな努力も無駄になってしまいます。

開発許可、住宅の仕様規制や既存住宅改修市場の拡大、公営住宅の借り上げ型へのシフト、そして壊す公共事業の時代へ

実際人口減少社会においては、総住宅数をコントロールしていく必要があります。住民の一人あたり住宅床面積をもとに規制を図り、既存住宅数を闇雲に増やさないことが求められます。特に先の投資目的の賃貸住宅開発の開発許可を厳格化するなどが期待されます。

これから開発する新築住宅には、今以上に断熱性能などの厳しい仕様を求めることも必要です。しかしながら、未だにこの水準について不十分な規制となり、特に小規模住宅などは極めて緩い仕様のまま開発が可能です。これではまた少し時間がたてば低性能であることを理由に空き家になって利用の余地がなくなってしまう可能性もあります。せめて仕様の高い住宅を開発し、長持ちすることを目指す必要があります。さらに、その視点でいえば、低性能な既存住宅の性能改善に向けたリフォームも大きな市場となっていくでしょう。

新築を規制すると地方で仕事がなくなるという話がありますが、既存住宅を適切に性能向上して住み続けられる、資産価値が維持されるようになっていくことへのリフォーム減税などを拡大すれば、新築でなくとも工務店などの仕事はまだまだあります。空き家の話ばかりをしてきましたが、今でも5,200世帯は住宅に住んでいるわけですから、そこにもっとフォーカスした地方産業は十分にあるでしょう。特に新築を適切に制限し、既存建築改修のほうにインセンティブを向ければ今も増加するリノベーション市場はより拡大していくことが期待されます。

また公営住宅についても、従来のように公営住宅を公営住宅として建てるのではなく、借り上げ公営住宅を基本としていくことが必要になります。特に公営住宅需要も人口減少に伴い減っていくことが予想されることから、固定的な戸数を公営住宅で確保するというのが合理的だった人口急増社会とは逆転しています。老朽化した公営住宅を建て替えるのではなく、地域内の住宅をベースにした借り上げ公営住宅を中心とし、実需に沿った形式で借り上げ件数を変動させることも必要となります。

さらに税制面では固定資産税の特例措置を除外する必要があるでしょう。固定資産税を抑えるために貸し出す予定もない空き家が放置されている状況を打破するためには、これらを壊して更地に変えていくことが必要です。

これまでは公共事業といえば「作る」ことが中心でしたが、人口減少社会において資産価値を一定残し、高めていくためにも、「壊す公共事業」も求められます。先の公営住宅の借り上げ化もその一種ですが、何かを壊し、今あるもの、もしくは民間のものを活用していくという方向へと変更することは、地域全体をみれば供給過剰を抑制し、資産価値を保全することにも繋がります。何より壊す事業は民間ではなく、行政にしかできない仕事でもあります。民間はやはりリターンを開発単位で求めますから解体した後に再開発しなければ成立しませんが、行政だからこそ壊すということ自体を目的にすることも可能です。

一昨年訪問したドイツ・フライブルク市では、一人あたりの床面積を厳しく管理した都市計画を運用していました。地区別での人口が増加すれば開発許可を出し、一方で減少すれば公共施設などの除却を進めていました。さらに、住居についてはできるだけコーポラティブ形式の共同住宅を基本として開発し、ある程度のお金持ちもメゾネットタイプの共同住宅でした。このほうが環境性能も高くしやすく、また需給を管理した上で賃貸住宅率を高めることで、区分所有などによって建て替える際に権利調整が難しくなることを避けていました。同じ敗戦国であり、戦後に占領されていた土地の返還を受けた跡地においても公共交通を基本とした生活設計をし、大きな区画整理を避けて、フランス軍の兵舎をリノベーションして学生寮として活用するなど、新築住宅の需給調整をしているやり方には大変驚きました。結果として、同市においては不動産価値が常に維持されることで、老後の生活設計なども組み立てやすくなっており、適切な住宅政策が行われていると感じました。

日本においても人口増加社会における政策を転換し、人口減少社会に対応すれば、様々な形で人々の生活を豊かにする選択肢が残されています。何より「変化する」ことは前提となるので抵抗が未だ多いところですが、人口減少社会を嘆いても解決しないので、個別事業だけでなく、政策の大きな変化ともしっかりと向き合いたいものです。

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