三宅本店は広島県呉市の老舗酒蔵。「千福」ブランドで広く知られる。
安政3年(1856)に創業し、160年を超える歴史を持つ。
戦中は海軍御用達のお酒として全国に広まり、一時は醸造量日本一を誇った。
日本酒市場の縮小に危機感
外部人材に中期計画推進を託す
――日本人材機構のスタッフを「月数回の派遣型の経営幹部人材」という形で受け入れていますね。
三宅:中期経営計画の強力な推進役として、当初は副社長か専務を希望していました。なかなか決まらず、長期戦になりそうなところで、機構さんから「時間だけが過ぎていってしまうので、社員の中から1人行かせます」と提案があったのです。
――その中期経営計画の策定に至る過程はどのようなものだったのでしょうか。
三宅:ひと昔前はお酒を作れば売れる時代でしたが、作るだけでは売れなくなってきた。10年ほど前から、1年単
位で立案していた経営計画を、財務面で銀行にも相談しながら、中長期の計画を立てるようにしました。ところが、慣性の法則が働くのか、3年計画を立ててもなかなか実行に至らない。計画が絵に描いた餅になってしまうのです。
――慣性の法則ですか。
三宅:わが社の創業当時からの経営理念に“和の精神”があるためなのか、組織全体が仲良くおっとりしているのです。よく言えば一体感があるのですが、悪く言えば危機感がない。これまでが順風満帆で来ていたせいか、多少売上が下がっても、潰れるはずがないと誰もが思っているように感じられました。
計画を牽引する強いリーダーシップの必要性を感じ、2016年10月の事業計画発表会で、来期までに副社長か専務を外部登用する意向を示唆しました。その時点で、人材のあてがあったわけではありませんが、皆にも会社や業界が直面している状況を理解してもらいたかったのです。
――そこで幹部ニーズが発生したわけですね。
三宅:副社長というと、組織と業務全体をマネジメントし、社長と社員の意思疎通を図りつつ、経営計画を実行に移す、昔で言えば番頭さんのような役割。知識や経験はもちろんですが、相当の覚悟を持ってきていただきたい。日本人材機構からの紹介で、何名かの方とお会いしましたが、タイミングも含め、そこまでをお願いできる方は簡単には見つかりません。中期経営計画も時間がたってしまったらそれこそ意味がないということで、まずは日本人材機構から人を派遣していただくことになりました。
――外部人材のメリットはどういうところでしょうか。
三宅:外から人がきて、会社組織を変えることに対しては、もちろん抵抗もあります。外部の人は、内部の人間からしたら、価値観や方法論などすべてが異質なのです。すぐに一体となるのはなかなか難しく、強引にことをすすめれば、やらされ感が生まれてしまう。ただ、やはり外部からということで俯瞰の視点を持ち込んでくれています。内部の人間はどうしても水平視点になってしまう。
次期社長のパートナーとして
――現在、御社は社外取締役も任せているとのことですが、その活躍ぶりはいかがですか。
三宅:気に入っているのはスピード感です。酒蔵には1年を掛けてコツコツと取り組んでいく素地がある。そういう意味で、彼は違うリズム感を社内に持ち込んでくれています。中期経営計画を進めなければならないし、私もそんなに気の長い方ではないのでね。
彼が来たちょうど同じ頃に27歳の長男がビール会社を辞めて、うちの会社に入りました。そのパートナーとしてもよくやってくれています。ヒントは教えるけど、答えそのものは教えずに自分で決めさせるという、いい鍛え方をしてくれています。内部の人間だと、どうしても「この業界では」ということを教えてしまいがちですし、社長の息子というところもあると思います。
――そのご長男への事業承継を検討されているそうですが、どのようなスパンでお考えなのですか。
三宅:私は59歳です。会社の規定で65歳以降は取締役になれない決まりで、それを変えるつもりもありません。
――承継といっても、株式に関する所有の承継と、経営の承継があります。御社の、外部人材を受け入れて、承継を円滑に進めるという取り組みは、多くの中小企業オーナーの参考になると思います。
三宅:長男はとにかくよくしゃべるので、家に帰ってきても私に仕事の話をするんです。家内が嫌がるくらい。私は、とにかく人を追いつめないことを伝えています。つまり、重箱の隅をつつきすぎないようにと。一方で、日本人材機構さんから派遣されている方は本当に大胆な方で、つつかれるような隅のある重箱なら、皿に変えてしまいましょうというような発想をお持ちです。長男が、大胆で思い切った決断を促されていることもある。そのバランスを取ることで、長男も成長できると思います。
――今後の目標を教えてください。
三宅:お酒とは本来、人を幸福にするものなのです。食べて飲んで人は笑顔になります。笑顔のためのツールがお酒なのです。わが社では、デイリーに飲む普通酒の製造・販売を中心に従事してきましたが、それは今後もかわらず、日常的にもっと日本酒を愛用してもらえるよう、基本を忘れずに、日本酒文化を次世代までつないでいきたいですね。