中沢ヴィレッジの成り立ち
温泉とリゾートを融合。開業50年を迎える草津温泉を代表するリゾートホテル
中沢ヴィレッジは、草津温泉の温泉資源や周辺の自然環境を活用し、大自然・スポーツ・温泉が体験できるリゾートとして、1967年に開業しました。
その背景は、草津温泉の魅力を再認識させてくれたドイツの医師、エルヴィン・フォン・ベルツ博士の存在抜きには語れません。ベルツ博士は、明治政府の招聘により、東京大学医学部の前身である東京医学校で教師を務められたのですが、日本の各地を旅行する中、草津温泉を訪れた時に、周辺の気候や様子がヨーロッパのリゾートと類似しており、高温の温泉が湧出していることに驚かれました。その時以来、東京を行き来しながら、草津温泉を研究し、効能と合わせて、草津温泉の周辺環境や水が素晴らしいと世界に紹介してくれた方です。
ベルツ博士の影響により、先代が郊外を開発。草津温泉のイメージを一新し、湯の町草津とリゾート草津の両方を繁栄させることが草津温泉全体の観光客誘致につながるとして、中沢ヴィレッジを立ち上げました。
「温泉に入りに来たら、こんな山奥だと思わなかった」と言われるなど、開業の10年間は温泉リゾートへの理解が難しい状況であったと聞きます。今や、森林浴の癒し効果や、自然の中を歩いた後、温泉に入る心地よさなどが注目される世の中になりましたが、当時は温泉情緒のある賑わい空間が必要でした。また、男性中心の旅行形態であったことから、芸者を宴席に呼び、飲んで楽しく過ごすという意味では山奥は不向きという側面もありました。
その後、温泉リゾートが受け入れられるようになり、業績も良くなってきたのですが、経済情勢の変化に伴い、開業時の過剰投資の回収が見込めなくなり、8年前に民事再生法を適用することになりました。再起を果たし、現在に至る訳ですが、まもなく開業50年という節目を迎えるにあたり、これまでのあり方を新たに再構築する時期にあります。
人が近い・現場が近い
お客様の「ありがとう」が励みとやりがいになる
敷地内には、ホテル・アミューズメント施設・リゾートマンションなどがあり、すべてを合わせると、約12万坪の広さになります。名が示すとおり、一つの「村」と呼んでいるのですが、この広がりこそ、中沢ヴィレッジの大きな強み。自然に囲まれた広大な敷地で豊かな緑に癒されたり、様々なアクティビティを体験したり。そして、ゆったり温泉に浸かるという温泉リゾートの醍醐味を味わっていただけます。
このような環境で、基本理念は『歩み入る者にやすらぎを、去りゆく人にしあわせを』を掲げています。癒しや休息を求めて訪れるお客様から、帰る時に「元気になった。来て良かった。ありがとう」と言ってもらえるのは、この仕事ならではの魅力。私たちはお客様の「ありがとう」の言葉を常に励みにしています。お客様の喜びにつながることが自分の喜びになる、人間冥利に尽きる仕事だと思います。
また、草津温泉は、日本の温泉ランキング(観光経済新聞社主催「にっぽんの温泉100選」)で14年連続No.1になるなど、人気のある温泉です。潜在的ニーズを掘り起こし、多様化するニーズに対応しながら、付加価値を生み出していきたいですね。
現状の課題
健康に配慮した食の強化。顧客満足度向上はソフト面の充実から
今後、健康に裏打ちされた食事をお客様にいかに提供するか、食の強化を行っていきたいと考えています。一泊二食付の旅館の料理は一食2500~3000カロリーぐらいだと思いますが、記念日の旅行と癒しの旅行を一緒くたにして豪華料理を提供してよいものか。晴れ(ハレ)の食事と褻(ケ)の食事があるのではないかと思います。例えば、晴れ(ハレ)の記念日である場合、「今日は2500カロリーの食事なので、明日から3日間はある程度カロリー制限されることによって記念日がより楽しい思い出になると思います」というような提案をこれからはしていかないといけない。
お客様の利用シーンに応じた食事の提供を強化すべく、総料理長を迎え、新たな方向性を作ろうとしているところです。管理栄養士の採用も視野に入れており、お客様だけでなく、従業員の食事のバランスも改めて考える必要があると思っています。やはり、健全な身体に健全な精神が宿るもの。お客様に満足してもらえる笑顔やサービスを提供するには、従業員一人ひとりのマインドと体がしっかりしていないとならない。
このように、ソフト面の充実から顧客満足度向上を図り、改良しながら、皆で一丸となって新たなサービスを作り上げていきたいと思っています。
今後のビジョン
次世代の中枢を担う人材と共に、さらなる発展を目指す
そして、これからも進化し続けるためには、人材の確保と新しい形態の組織づくりが必要だと考えています。我々の世代までは成長性を不安視することなく、ある意味、経験と勘と度胸で経営を行ってきました。しかしながら、今後は時流を読み、進むべき方向性を見定めながら、新しい組織形態を構築する必要がある。次世代の中枢を担う人材の存在も不可欠です。
そのためには経験者採用により新たな血を入れていきたいと考えていますが、必ずしもサービス業の経験を重視している訳ではありません。この仕事は、お客様に対しても従業員間においても人の心理を理解することが大切。様々な経験のある方がこの業界を違う目で見るということも重要です。特に、幹部クラスの方には大きな視野から物事を捉えてもらいたいと思います。
私の場合、その人のモノの見方・考え方を重視しています。「自分もいい。相手もいい」と考える人か、「自分はいいけど、相手はダメ」と考える人か。ポジティブに相手も自分も肯定的に見ながら、共に作り上げていこうという人であれば、中長期的なスタンスで、共に成長・発展するという感覚で携わっていただきたい。
実現したいミッション
ONSEN(温泉)を世界語に。温泉の魅力を世界にもっと広めたい
草津温泉全体、日本の観光という意味からも、「ONSEN(温泉)」を世界語にしていきたいと考えています。温泉にあたる英語は「Hot Springs」ですが、ある時、アメリカ人との会話で日本の温泉を説明する事が上手く出来ず困ったことがあります。温泉をHot springsと訳しても日本の温泉情緒は伝わらず彼等の体験のない事を説明する。難しさを感じました。フランス語もドイツ語も日本の温泉の実際に当てはまる言語がありません。頭にタオルをのせて、温泉に入った時の「はぁ~」という声が出るあの気持ち。この感覚は「ONSEN(温泉)」という言葉でないと伝わらないように思います。
温泉は、日本の大衆文化の最たるもの。日本人は清潔好きで、お風呂に入るのが好き。火山性の土地柄、温泉地は約3,100箇所ある。小さい頃から湯に浸かる楽しみを知り、裸になって「いいね」と言う。このような環境は他に類がない国です。だからこそ、日本の温泉の魅力をもっと世界に打ち出していきたい。
2030年には6,000万人の訪日外国人旅行者を受け入れたいと政府が目標を掲げていますが、日本の魅力の一つとして温泉を大いに訴えていきたい。その中で「草津はいいね」と言われるような温泉を作ることによって、自分たちのビジネスも安定的にいけるのではないかと考えています。
最近の事例として、草津温泉のPR動画をアメリカ、オーストラリア、台湾に向けて公開。年間で160万回の再生回数に達し、この動画がきっかけで実際に外国人旅行者も訪れました。今年はドイツ、アメリカに向けて公開を予定しています。今後日本の人口が減少していく中、集客をカバーするためにインバウンドの誘客は必須であり、先ずは欧米から草津温泉の魅力をPRして、草津温泉全体として様々に取り組んでいます。
世界には民族や宗教の争いがありますが、例えば、対立する代表者を草津温泉に招き、同じお風呂に入ってもらう。温泉の気持ちよさが互いの理解を深め合い、握手することによって世界平和が作られるのではないか。
このような我々の思いを世界に輸出していきたい。また、共感していただける方を迎え入れ、中沢ヴィレッジや草津温泉全体の活性化を共に図っていきたい。新しい血を入れながら、今ある現状と融合し、常に革新を目指したいと思っています。
株式会社中沢ヴィレッジ 代表取締役会長
中沢 敬
群馬県吾妻郡草津町出身。1972年、立教大学社会学部観光学科卒。卒業後、スイスへ渡り、スイスホテル協会設立のローザンヌホテルスクールで学んだ後、ジュネーブでホテル業務に携わる。1978年に帰国し、草津温泉を代表する大規模リゾートホテル・株式会社中沢ヴィレッジの専務取締役に。2002年~2010年、群馬県吾妻郡草津町長(二期8年間)に就任。現在、株式会社中沢ヴィレッジ代表取締役会長のほか、一般社団法人草津温泉観光協会会長、一般社団法人日本温泉協会理事の要職を務める。