年度の変わり目の4月や10月に人事異動が行われる会社は少なくありません。様々な種類がある人事異動、皆さんその違いを正しく理解していますか?近年は働き方改革、ワークライフバランスへの関心の高まりから、人事異動をめぐる問題も増えています。今回は人事異動の中で「配転・出向・転籍」の各制度についてご紹介します。
配転
配置転換(以下「配転」)とは、同じ企業内において職務内容や勤務場所が変わることを指します。変更が一時的なものであれば「出張」と呼ばれますが、長期間にわたる場合は「配転」となります。
企業はなぜ、「配転」を実施するのでしょうか。
労働政策研究・研修機構の調査報告によると、配転の目的第1位(70.1%)は「従業員の処遇・適材適所」となっています。働き続ける中で労働者個々の志向・スキルも変化していく可能性があり、変化に応じたポジションをあてがうことを目的にしているわけです。次いで従業員に複数の職務を経験させることによって「組織を活性化させる」(62.5%)、「事業活動の変化への対応」(56.0%)、「従業員の人材育成」(54.7%)となっています。そのほか、解雇せずに雇用を維持する、人員調整の意味合いを持っているケースも見られます。
出向・転籍
出向は、同一企業内での職務内容や勤務地が変わる配転とは異なり、勤務する企業が異なる点がポイントです。簡単に言うと「もともと雇用されている会社とは別の会社の業務を担う」ことになります。一般的には業務提携や人材交流などを目的に、親会社から子会社へといったグループ会社間で実施されますが、まれに資本関係のない会社間でも行われることがあります。
出向はさらに「在籍出向」と「転籍出向」に分けることができます。以下でその違いをみていきましょう。
・在籍出向
労働契約が出向元・出向先両方と交わされることになります。身分は出向先に残しながらも、指揮命令権は出向先にあります。また出向契約の中で期間が決められ、将来的に出向元の会社に戻ることが前提とされています。
・転籍出向
出向元との雇用契約は終了となり、雇用保険や社会保険なども新たに出向先の会社で手続きをすることになります。文字通り「籍を移転する」ことから、実質転職と同様と考えて頂くことになります。出向元と出向先との話し合いの上で、転籍後に出向元に戻ることが絶対にできないわけではありませんが、将来的に戻ることが前提の在籍出向とは、労働者の地位が大きく違ってくることに注意が必要です。
望まない配転・出向・転籍を拒否できるか
これまで、配転・出向・転籍の違いについてご紹介しました。続いて、もし望まない形で配転・出向・転籍といった人事異動の打診を受けた際に「拒否」することができるのかという観点から考えてみましょう。
・適切な配転でない場合は拒否できる
企業は自由に配転を行えるわけではありません。前提として、就業規則等で「労働契約上、企業が従業員に対し配転を命じる権利を持つ」ことが求められます。「業務上の必要がある場合は配転を命ずることができる」といった規定が設けられていれば問題ないとされています。
ただし、当該労働者との労働条件通知書の中で「職種・勤務地が限定される」旨合意されている場合は、就業規則よりも個々の労働条件が優先されることになります。例えば「地域限定職」「エリア限定職」といった形で採用された方が、自宅から通えない範囲での勤務を命じられる場合は適切な配転であるとは言えませんので、拒否することが可能になるでしょう。
とはいえ職種の転換に関しては、医者や看護師、アナウンサーなど特別な技能スキル、資格を有するものに限られるとされることが多くなっています。そのためたとえ「営業職」での入社の方が「事務職」への転換を命じられた際に拒否できるかどうかは微妙なところです。
その他個別の事情(介護が必要な親と同居しており転居が難しいなど)が考慮されうる場合は、拒否することが可能です。
・出向と違い、転籍は一方的に命じることはできない
転籍は会社側が一方的に命じることはできず、必ず労働者の同意が必要になります。これは就業規則や労働条件通知書に「転籍させることができる」と記載があったとしても同様です。一方、出向は配転と同様、出向を命じる根拠が就業規則等で明確になっていれば、労働者の同意なく命じることができます。ただし、出向先での労働条件について具体的に定められている必要があります。
なお転籍を拒否したい場合は、全国の労働局で行っているあっせん手続や、裁判外紛争解決手続(ADR:弁護士等の専門家が会社と労働者の間に立ち紛争調停を行う)を利用することができます。
似ているようで異なるこれらの人事異動。正しく理解した上で自身にとって望ましい働き方を実現していきたいものです。