2020年夏に東京オリンピック・パラリンピックを控えている我が国ですが、政府はスポーツ立国、グローバル化の推進、地域活性化、観光振興などに資する観点から参加国・地域とスポーツ、文化、経済などを通じて相互交流を図る自治体を「ホストタウン」として選び、全国に広がりを見せています。「ホストタウン」の現状から今後の地域活性化について考えてみたいと思います。
事前合宿など参加国と交流進める各地の「ホストタウン」
1月末に2020年東京五輪のチケットの販売方法や種類などが発表されました。発券されるチケットは780万枚で、半数が8千円以下になるといいます。企画チケットには、車いす利用者向け、子どもや高齢者らのグループ向けのほか、全国の小中学校・高校、特別支援学校の児童・生徒を対象とする「学校連携観戦プログラム」など一般には販売されないチケットもあり、幅広い層の人たちに実際に生で観戦してもらおうという狙いであることが分かります。
一方で、愛称が「キャスト」に決まった運営を支える「大会ボランティア」の募集枠は8万人ですが、20万4,680人の応募がありました。2月から7月まで大会組織委員会が全国12ヵ所で面接や説明会を開催し、研修などを経て採用者を決め、2020年にはそれぞれの役割と活動する会場が決まるといいます。また、空港や主要駅、観光地などでの案内にあたる「都市ボランティア」にも募集枠2万人に対して3万6、649人の応募がありました。
チケットやボランティアなど五輪に向けて徐々に機運が高まっていますが、既に各国の代表選手を受け入れる動きが全国で活発化しています。政府が2015年から事前合宿などを受け入れて参加国と交流を進める「ホストタウン」です。「大会を通じた新しい日本の創造」として掲げられる具体的な施策の中でも自治体に関係が深く、自治体の積極的な協力なくしては実現しない、主体的な取り組みが特に期待されているのが「ホストタウン」の推進です。
■ホストタウンの目的
ホストタウン構想は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催により多くの選手や観客が来訪することを契機に、全国の地方公共団体と大会参加国・地域との人的・経済的・文化的な相互交流を図るとともに、地域の活性化等を推進することを目的とする。
政府からの活動費の補助がある「ホストタウン」ですが、登録された「ホストタウン」に対しては、関係府省庁により各種財政措置、政策情報の提供等を通じた支援が行われます。財政措置の例としては、大会関係者との交流に要する経費などについて自治体負担に係る一般財源の2分の1を措置する特別交付税、事前合宿に活用する既存スポーツ施設の改修に要する経費を対象とするなどの地方債(地域活性化事業債)があります。
(資料:内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局資料より筆者作成)
358自治体による「ホストタウン」の総登録件数は288件
「ホストタウン」の活動としては、大会参加者との交流や大会参加国の方々との交流(外国を知り日本を伝える)、さらに過去にオリンピック、パラリンピックに参加したことのある方々との交流(競技体験・講演等)などがあります。2018年12月現在、「ホストタウン」267件と「復興ありがとうホストタウン」21件の288件が登録されています。なお、「共生社会ホストタウン」は13件です。相手国・地域は111になっています。
(資料:内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局資料より筆者作成)
被災3県(岩手県、宮城県、福島県)の自治体を対象に震災時に支援してくれた欧米やアフリカ、アジアなど多岐にわたる海外の国・地域に復興した姿を見せつつ、住民との交流を行い、2020年に向けた交流を行う「復興『ありがとう』ホストタウン」が設置され、大会参加国・地域の方々や大会参加者との交流、日本人オリンピアン、パラリンピアンとの交流なども図られています。
また、地方における共生社会の実現に向けたユニバーサルデザインを加速するため、「共生社会ホストタウン制度」が立ち上げられました。共生社会の実現に向けた取り組みの推進、パラリンピックに向けた機運を醸成するとともに、住民が障害のある選手たちと直に接することで住民の意識を変えていくきっかけとする東京大会の事後交流も含めた幅広い形でのパラリンピアンとの交流が行われます。
(資料:内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局資料より筆者作成)
現在、「ホストタウン」に登録している自治体の数358に対し、相手国・地域を見ると111の国・地域にとどまっており、残念ながら欧米など国・地域に偏りが見られる傾向にあります。背景には、相手国・地域との姉妹都市交流の実績、歴史的なつながり、交流が深いほか、自治体にとって魅力的なスポーツ強豪国が多いことや先方の準備も比較的早いことなどが挙げられるかと思われます。
「ホストタウン」事業の継続的な取り組みで活性化へ
地方自治体がそれぞれ交流計画を申請し、その内容が要綱に合致すると登録されます。一つの国に対して、一つの自治体だけが登録できるだけではなく、異なる自治体が登録しているケースもありますし、複数国に対して登録している場合もあれば、県と市町村、複数市町村が連携して登録している場合もあります。このように地域が連携しながら各地でさまざまな交流が生まれることも期待されています。
(資料:内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局資料より筆者作成)
今後、アフリカや中南米等が少ないエリアでの「ホストタウン」の創出、またパラリンピック競技を受け入れる「ホストタウン」の増加も図っていかなければならないでしょうし、受け入れ側もスポーツのみならず、文化や経済、教育など幅広い分野での交流の促進も望まれています。大会終了後も交流が活発化するように「ホストタウン」事業もスポットで終わらせることなく、継続的に取り組まなければならないかと思います。
また、「ホストタウン」によっては日ごろ外国人が訪れることが少ない地域もあるでしょうが、2020年に向けますます訪日外国人旅行者が増えることが予想されるなか、それぞれの地域ならではの魅力を発信する絶好の機会でもあります。ローカルゆえの魅力を直接世界に向けて発信すれば、地域も活気づいていくことでしょう。官民連携して地域のポテンシャルをフルに活用することが重要です。
さらに地域住民の関心を高め、参加や関与を促すイベント等の実施の機会を継続的につなげていくことも必要ではないでしょうか。そして、各地域においては、スポーツ振興だけでなく、「ホストタウン」によるレガシーづくりへの期待として、文化プログラムの活用、高齢者や障害者にも優しいまちづくりなど事前キャンプの誘致やスポーツを通じた交流にとどまらないレガシーづくりも期待されています。