独立起業検討中の方へ、「法人」「個人事業主」どちらがベスト?
浅賀 桃子
2019/03/14 (木) - 12:00

脱サラして独立起業を目指そうと考えている方向けに筆者の起業経験をお話する機会をいただくことがありますが、「個人事業で開業するか、法人を設立するか」どちらが良いかと悩まれる方が多いようです。法人事業と個人事業の主な違いと選択の上でのポイントをまとめました。

法人事業で開業する場合

法人の種類もいくつかあり、代表的なところでは「株式会社」「合同会社」が挙げられます法人のおおよそ8割が株式会社であることから、本稿では株式会社設立を前提に記載することにします。

・設立時の手続
株式会社を設立する際には、資本金、定款(会社内で適用される法律。設立の際に作成する義務があります)の認証費用、登録免許税がかかります。現在、資本金は最低1円から可能ではありますが、資本金は会社運営の元手となるお金であることを考えると実際1円で設立することは現実的ではないでしょう。また、法的に会社を誕生させるためには公証役場への認証手続、法務局への登記手続が必要になります。この手続に最低でも20万程度の費用がかかります。これらの手続きを司法書士などの専門家に依頼される場合はその手数料も必要です。

・設立後の事務処理
設立後には給与、社会保険などの事務処理も発生します。これまでは給与は人事部、社会保険関係は総務部など、お勤めの会社の各部署で処理をされていたかもしれませんが、起業した場合は(初めから専属のスタッフを雇える場合を除き)自身で頑張るか、社会保険労務士や税理士などの専門家に依頼するなど手配する必要があります。「社会保険?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、法人の場合は1人社長の場合でも社会保険への加入が義務付けられていることも忘れてはなりません。

・税金面
「個人事業と法人とで、どちらが節税できるのでしょうか」というご質問もよくいただきます。絶対的な回答は難しいですが、個人事業の場合利益が多くなるほど所得税率が上がる「超過累進税率」と呼ばれる仕組みになっているため、一般的に「所得が大きくなると、法人のほうが節税効果が高くなる」ということができます。

個人事業で開業する場合

続いて、個人事業の場合をみていきましょう。

・開業時の手続
個人事業で開業する場合は、資本金は不要です。また、法人のように登記や認証手続も不要です。必須手続は開業日から1ヶ月以内に「個人事業の開廃業等届出書」に記入して税務署に提出するだけです。この届出書は国税庁のホームページ(※)からダウンロードすることができます。
また、必須書類ではありませんが出したほうが「得をする」ことが多い書類に「青色申告承認申請書」があります。「複式簿記」という少し煩雑な帳簿作成をする代わりに最大で65万円の控除が受けられる、というものです。原則開業日から2ヶ月以内の提出が必要になりますが、先述の開業届と合わせて提出することがお勧めです。こちらも同じく国税庁のホームページからダウンロードができます。
以上から、初期費用と手間を考えると個人事業のほうが圧倒的に「早く簡単に」作ることができます。

・開業後の事務処理
人事部や総務部などに任せることができる会社員とは異なり、自身で頑張る必要がある点については法人設立と大きな違いはありませんが、社会保険の加入については常時雇用する従業員が5名未満までは任意となっています。社会保険に加入しない場合は、自身で国民健康保険・国民年金保険への変更手続を行うことも必要です。

・税金面
個人事業の場合「利益が増えるほど所得税がかかる」と前述しましたが、法人の場合所得にかかる税金(法人税)の税率は定率であることから、一定額以上の年間所得を得られるようであれば法人のほうが有利となります。その反面、法人の場合はたとえ赤字でも7万円の税金がかかります(個人事業の場合は課されません)。

他に注意すべきこととしては「経営者が死亡した場合」のことです。これから事業を起こそうというときになんていうことを言いだすのだ、と思われたかもしれませんが実は重要な観点です。法人事業の場合は経営者が死亡しても会社は存続できますので、会社の財産への相続税はかかりませんが、個人事業の場合は事業用の財産も相続税の対象となってしまいます。

筆者の事例紹介

筆者は2014年に株式会社を立ち上げましたが、当初は「個人事業」としてスタートしました。手持ちの費用の兼ね合いもありましたし、会社設立にあたっての知識も十分ではなかったため、まずは個人事業で売上を伸ばしていく道を選びました。

株式会社化に踏み切った一番の要因は「社会的信用」でした。先述の通り法人設立には法務局での登記が必要になりますが、登記された法人の情報は第三者が閲覧することが可能です。つまり、「どういう事業を行い、いつ設立され、資本金がいくら」といった情報を取引先が入手することができるわけです。個人事業の場合、ホームページ等で自発的に提供されるケースもありますが、客観的な情報としてはやはり弱いです。「事業とプライベートの区別が明確なのか」と懸念を示され「法人でないと取引を断る」としている取引先も少なくありません。

起業にあたってのベストな選択とは

独立直後からある一定の売上が見込める場合や、法人であることが取引開始の前提になる場合などは、初めから法人を設立したほうが手間が省けるでしょう。大手企業との取引は事実上法人であることが前提になっているケースが多いといえます。一方、筆者のように個人事業を経て、事業実績がある程度できてから法人を設立する、いわゆる「法人成り」する選択もできます。目安としてはおおよそ年間所得500万以上であれば、法人のほうが税金面のメリットは大きくなります。
このように個人事業・法人ともにメリット、デメリットがありますので、上記を踏まえご自身にとってよりベストな開業計画を考えていただければと思います。

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